桑田くんを泣かせる

※舞←桑前提




「ねぇ、さやかちゃんを演じてあげようか?」



今更ながら、なんて愚かで馬鹿げた発想なんだろう。目の前で桑田くんが目を見開いて硬直しているのに、あたしは自然と笑みがこぼれるほど余裕だ


「は…?なに…言ってんの?」

「何ってそのままだよ。桑田くんはさやかちゃんが好きなんでしょ?だからあたしが変わりをしてあげるよ」


以前から、桑田くんがさやかちゃんを見る目が違っていたのは知っていた。知っていて、見ない振りをしてた。だって桑田くん、さやかちゃんといるときだけは見せたこともないような笑顔をするから見たくなかった。あたしは桑田くんがずっとずっと好きだったから、見たくなかった。なんかいい雰囲気だったし、あたしの入る隙間なんかなかったから2人はいつか付き合うんだろうってあきらめてはいたけど…さやかちゃん、全然桑田くんの気持ちに気がつかなかったね。桑田くんもはやく告白しないから、さやかちゃんにはもう大事な人が出来たんだ。だからチャンスだと思ったの


「桑田くん、あたしでよければさやかちゃんを味わあせてあげるよ」

「そんな舞園ちゃんを汚すようなこと出来るわけねーだろ!」

「じゃあ目隠しして愛しのさやかちゃんを想像しなよ。まだ忘れられないんでしょ?」

「それは…」

「それに、さっき桑田くんは“さやかちゃんを汚すようなこと出来るわけない”って言ったけど、さやかちゃんを好きになった時点でもうさやかを汚してるんだよ」


“汚い感情だよ、恋なんて”そう言って自分の胸が締め付けられた感覚に襲われたけど気にしないふりをした。桑田くんを説得させて真っ白な布を目に巻き付ける

((きれいな顔…))

触れるほど近くにいるのにあたしの本当の気持ちは微塵にも伝わらない。ただ“好き”って素直に伝えればそれで良かったのにちっぽけなプライドが、馬鹿げたプライドがそれを拒んだんだ


「ん…ふぁ…ちゅ、あ…」


絡まった舌が、触れていた唇が、繋がっていた銀糸が全部離れた。桑田くんと唇を離した瞬間、どうしようもないくらいの空虚感に襲われる。好き、大好き。桑田くん…大好き。でも言えない。もう無理なんだ。だってあたしは自分の気持ちを犠牲にしてまで君を手に入れようとした。桑田くんもあたしの口車に乗せられてさやかちゃんを今、汚してるんだよ?桑田くん、泣いてるね。今何を思ってる?さやかちゃんに対しての罪悪感?それともあたしの案に乗ってしまった自分の心の弱さに対しての自己嫌悪かなぁ?どちらにしても今のあたし達は似たような気持ちだね。そんなのでもあたしは幸せだよ


「ね、つづき…しよっか」


涙で霞む視界を無視して、これから精一杯さやかちゃんの振りするからね

桑田くん、期待してて






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