桑田くんを応援する


秋晴れのある日、足を運ぶのは隣町にある球場。中に入ればたくさんの野太い声と黄色い声、そんな声援の中心部にいるのは、お茶の間のヒーロー桑田怜恩その人。只今“バッター4番桑田くん”なんてウグイス嬢がアナウンスをしていた。よかった、間に合った、なんて思いながらもう少し近くで桑田くんを見た。真剣な眼差しでピッチャーを見る桑田くんは普段のチャラついた高校生ではなくて、かっこいい野球選手だ。普段からミュージシャンになりたいって豪語してる桑田くんだけど、絶対野球してる方がかっこいいし、似合ってる。まぁ、そんなこと言えば調子に乗るだけだから絶対に言わないけれど


「2アウト満塁か…」


相変わらずヒーローになるために設定されたようなシチュエーションで打順が回ってくるなぁって思いながらも、固唾を飲んで見守った。隣の女子が“桑田くんがんばってー!”“かっこいい!きゃー!”なんて言ってる。ふぅん、やっぱりお茶の間のヒーローはモテるんですね。いつもは“俺、モテてーからミュージシャン目指す!”とか言ってるのに…ふぅん。…べ、別に嫉妬とかじゃないよ!でもあたしはきゃぴきゃぴした様子で応援なんか出来ないな、なんて思った。そんな事を考えていればいつの間にか2ストライク。追い込まれてるのを見て思わずフェンスにしがみついて、名前を呼んだ


「怜恩くんっ!」


目が合った気がした。次の瞬間、カキン、と言う音の後、ボールは空高くに吸い込まれていった


「名前ちゃん!」


帰ろうとしたときに、何故か桑田くんのチームメイトに呼ばれて、関係者しか立ち入り禁止のはずの部屋に連れて行かれる。そしてしばらく待っていれば噂の桑田くんが入ってきた


「見に来てくれたんだ」

「一応、ね」

「俺の活躍見たー?」

「うん」


“お疲れ様”とか“かっこよかった”とか言いたいことはたくさんあったけれど、うまくいえなくて苦笑い


「あ、名前呼んだっしょっ?」

「…え、うん」

「聞こえた」


“嬉しかったなー”なんて言う怜恩くん。あんなに声援があったのにあたしの声分かったんだ。すごいなぁって思っていたら、桑田くんが近づいてきた


「名前ちゃん、来てくれてありがとーな」

「うん」

「それからさ」

「うん」

「また、来てくれよな…」


照れたように頭をかく桑田くんに、あたしは笑って頷いた。今日本当にかっこよかったよ。お茶の間のヒーローの野球選手桑田怜恩だけど、あたしのヒーローでもあるよ。そう思いながら桑田くんの唇に少しだけ触れたら、桑田くんは目をぱちくりさせた


「え、名前ちゃん、え?」

「がんばったご褒美だよ」


そう笑えば、桑田くんは抱きついてきた。本当にお疲れ様、大好き





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