長女として


幸か不幸かあたしは食満家の長女としてこの世に生を受けた。作兄やちびちゃん達と違ってあたしの名前だけはお母さんがつけた。女の子が生まれたら絶対にそうつける、って言って名付けられたのは【留季子】これはお母さんがお父さんに“この子もあたしと同じ様に守ってほしい”そう言う意味でつけたらしい

「お父さんに一生守られるの?」
「留三郎さん素敵じゃない。お母さんはそんな留三郎さんに同じくらい大好きな留季子を守ってほしいのよ」

『あなたは私達の自慢の娘だわ』

闘病中のお母さんにそう言われて、なんとなくその言葉を受け止めた
((留季子ねぇ、あんまり好きにはなれないんだよね…))
せっかくお母さんが付けてくれた唯一の名前だけど、理由を聞いたとき嬉しさ半分鬱陶しさ半分で、作兄にこの話をしたら絶対“それは親父とお袋の惚気によって付けられたら名前”なんだなって認識される恐れがあった。それから数年たって、大好きだったお母さんもいなくなって、お母さんの真似事の様に始めた家事は上手いとはいえない代物で料理を作ってはまずい思いをさせて、洗濯した物を転んでまた汚したりと、自分でどんどん仕事を増やして、仕事で帰ってくるお父さんを少しでも楽させようと思って始めたのに上手くならなくて、毎日毎日泣いていた。今日もお父さんが代わりに干してくれた洗濯物を畳んでいたら急に涙が溢れてきた
((あたしは家族の役に立ってるの?))
不安で不安で押しつぶされそうになったとき、誰かが頭を撫でた。見上げればお父さんで笑っていた

「留季子、どうしたんだ?」
「お父さん、あたしはみんなに迷惑かけてばっかで、何にもできてなくて…あたしは家族に必要なの?」
「何馬鹿なこと言ってんだよ。お前は大事な家族の一員だし、俺の自慢の娘だよ」

そう言って抱き締められたらほっとして涙も止まっていた
((お父さん、ありがとう…大好き))
ふと目が覚めると朝で、隣でお腹を出して寝てるちびちゃん達を愛おしそうに抱きしめるお父さんと魘されている作兄が見えて、さっきのは夢かと思った
((実に懐かしい夢だったなぁ…))
そう思いながら朝食の準備をして作兄とちびちゃん達を起こして、お父さんを起こそうとしたときに目があった

「わっ、びっくりしたぁ…おはよ」
「おはよう留季子、俺、なんか懐かしい夢をみた気がするんだ」
「あたしも今日、懐かしい夢見たよ」
「どんな夢だ?」
「お母さんが出てきた。あたしの名前の由来についてかな」
「留季子、あいつが付けたいい名前だからな」
「なんて言ったってお父さんの名前も入ってるからね。いつも守ってくれそうな気がするよ」

そうやって言うとお父さんは一瞬びっくりした顔をして、その後“留季子は俺の自慢の娘だよ”と言った

「朝から恥ずかしっ!」
「本当のことだろ」
「留季子、いつまでも親父といちゃついてないで弁当作れ」
「パパごはんー」
「はにゃぁおなかすいたぁ」
「ぼくもー…」
「おぉ、すまんな」
「作兄のばか!いちゃついてなんかいないんだから!」
「じゃあ三之助とはいいのか?」
「もうお兄ちゃんのつめてやんなーい」
「わ、悪かったよ!」

わいわいとした朝。こんな清々しく毎日を過ごせるのは、優しくて強いお父さんがいてくれて、お母さんが残してくれた名前のおかげなんだろうなって最近気がついた

((お父さん、お母さんありがとう))






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