長女と三郎次


「きゅーちゃん、左近一緒に帰ろっ」

帰る支度を済ませて、まだ支度中の久作と左近に声をかけるとこっちを向いて動きを止めた

「ごめん、俺今日委員会なんだ」
「俺も。新野先生のハーブ園の手入れを手伝わなきゃいけないんだよね」
「えー…まじかぁ」
「悪いな、留季子」
「まぁ、委員会ならしょうがないかっ、じゃあ委員会がんばってよね」

2人に笑顔を向けてそう言うと久作に気をつけて帰るように言われて、左近は手を振っていた。その行動にあたしも手を振ると、目の端になんだかそわそわしてる三郎次が目に入った

「お、おい…留季子っ」
「なぁに、ろじ?」
「その、大丈夫か?1人で帰って。寂しいだろう」
「いや、別に。特売の時とか1人だもん。久ちゃん一緒の時もあるけどさ」
「今物騒なんだぞ」
「ここ田舎だし大丈夫っしょ、じゃ…そう言うことで」
「ま、待てって!」
「何ですか、もー」
「その、送ってってやるよ」

伏せ目がちにろじがそう言った後、しばし沈黙が続いて、後ろで左近と久作がひそひそ話してるけど聞こえないくらいあたしはびっくりしてる
((ろじが見送り!?明日雨降りそう))

「へ、返事くらいしろよ!」
「あぁ、ごめん。だってろじが送ってくれるなんてびっくりしたから。てか家反対だし、いいの?」
「あぁ、留季子1人で寂しく帰るよりましだろ」
「別に寂しくないけど」

かなり寂しいを強調するなと思いつつ、今日はろじと帰ることにした。ろじとは中学校からの知り合いで、隣町の豆腐屋の息子だ。お兄さんの兵助さんがお父さんの跡を継いで2代目亭主で、よく豆腐を買いに行くし、豆腐が本当においしいのだ

「夕日きれいだね」
「そうだな」
「なんで送ってくれたの?」
「別になんでもいいだろ」
「あ、そ」

((ひまだなぁ…))
ろじから誘ったくせに会話も無くて、話を振ってもぶっちりと切られる。ツンデレっぽいことは知ってるけどあたし相手にされても困る。これじゃ1人で帰ってるのと変わらないじゃんとか思っていると目の前に見知った人物が目に入って足を止める

「あー!三之助先輩!」
「…はぁ!?」
「あ、作兵衛の妹」

あたしのことが分かると三之助先輩はこっちにやってきて足を止める。たぶん迷子だろうけど帰り道で会えるなんてなんか運命的でどきどきする

「こんなところで何してるんですか?」
「作兵衛が迷子になったんだ」
「お兄迷子になったんだ。まぁたぶん家戻ってるだろうから、一緒に帰りませんか?」
「なっ…」
「んーそうだなぁ。じゃあ一緒に帰るかぁ」

そう言って三之助先輩が隣に並ぶ。先輩が近い
((一緒に帰れるなんて本当に嬉しい!これ以上ない幸せだよー))
そんなことを思いながらちょっと調子に乗って迷子になると行けないから手をつないでくださいって言ってみたら、一瞬きょとんとしたあと、いいよって笑ってくれた。ろじが居るのはあれだけど気にしないで手をつなごうとした瞬間、右手が急に締め付けられて、何かと思ったらろじが手を握っていた

「な、何ろじ?」
「ふっざけんな!」
「ちょっと!ろじ!?」
「あ、おい…作兵衛妹」

繋がれたまま走られて、みるみる三之助先輩が離れていく。しばらくしたところで息を切らせたろじがこっちを向いて怒り出した

「俺が側にいるのになんであいつなんかと手繋ぐんだよ!」
「三之助先輩が無自覚方向音痴だからに決まってるでしょ!ほっといたら迷子になっちゃうじゃない」
「じゃあケータイで兄貴呼べば済む話だろ。俺と今日は帰ってるんだぞ!」
「だってろじと帰ってもつまんないもん。ろじ話してくれないし、だいたい無理に帰ってくれなくなって1人で帰れるんだから!」
「あぁそうかよ!勝手にしろ!」

そう言ってろじはあたしの手を思いっきり振り払って1人で帰って行った。右手がすごく痛くて、急に寂しくも感じた。最近ろじがわからない。昔はみんなでわいわいしてたのに、いったい何なんだろう?
((手が痛いわよ、ばかろじ!))


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