お兄の同級生


「お兄ぃ?」

恐る恐る入るは中等部3年棟。お兄ちゃん、朝ご飯食べてる途中に左門先輩と三之助先輩が手を繋いで歩いてる所を見つけちゃってさあ大変!朝ご飯一気にかき込んで家を出たの。そう、お弁当も持たずに…。あんまり気が乗らなかったけど、3年棟に足を運んだ。左近や久ちゃんが心配してくれて、“三郎次連れていきなよ”って言ってくれたけど、ろじなんか連れてったらお兄ちゃんとケンカして騒ぎになるから断った。大体、ろじの失礼発言、まだ許してないんだから…!

「作兵衛、お兄ちゃん?」

廊下を見回しても、それらしき人物は見当たらない。しかも他の3年生の人に奇異な目で見られている。あっ、心折れそう。怖いなぁ、なんて思っていると、足元に何かが絡み付いてきた。ひんやりしてる…?まさかと思って見れはへび。ちょっと、え、どうしたらいい?泣きそう。なんて思っていれば、“ジュンコ!”と言う声が聞こえた。

「ジュンコ!ここにいたんだね!」

見れば、美形と言われても不思議じゃない様な人がやって来て、あたしの前に跪く。(正確に言うと、足元にまとわりついてるへびと目線を合わせてる)“心配したよー!”と足に絡み付いてるへびを引き剥がそうとしているけど、強い力で絞まるばかり。正直、痛い。それを見た美形のお兄さんはあたしの顔をみて、怪訝な顔つきに。

「君、ジュンコを誑かして、何が目的?」
「は、い?」
「ジュンコがこんなに懐くなんておかしい!君!何かしたでしょ!」

えっ、ええ〜!なんか分かんないけど、この人勘違い甚だしいよー!てか、へびに好かれても嬉しくないんだよね。正直。そして、“君、2年生だよね。何の用?ここ、3年棟なんだけど”なんて言われてるけどへびが怖くて何も言えない。泣きそう、お兄ちゃん…。

「あれ、留季子ちゃん?」

泣きそうになっている中、顔をあげると、藤内先輩と数馬先輩がこっちを見ていた。

「留季子ちゃんが3年棟に来るなんて珍しいねー。どうしたの?」
「…泣いてるの?」
「いえ、何でもな、い、です」
「嘘!泣いてるじゃん!ケガしたの?大丈夫?」

慌てて目元を隠してももう遅い。包帯やら絆創膏やらを取り出してあたしの手を取るのは数馬先輩。困ったなぁ、ケガはしてないけどなぁ、なんて思っていたら、隣の藤内先輩が“数馬、多分ケガじゃないよ”と数馬先輩の肩を叩いた。

「え?」
「そうでしょ?留季子ちゃん?」
「はい、ケガはしてないです…」
「でも泣いている」
「泣いてなんかっ!」
「それか、今泣きたいほど怖い目に合っている」
「…うっ」

未だにへびは足に巻きついているし、美形の人は私を睨んでいる。どうしよう、と思っていれば、藤内先輩は1つだけため息をついた。そして、数馬先輩に耳打ちをして、数馬先輩が居なくなる。

「…僕は泣いてる女の子を泣き止ませる予習してないからできないけど、でも、もうすぐ泣き止むよ。留季子ちゃんは」
「えっ?」
「留季子!どうした!」
「お、お兄ちゃん!?」

ドタドタと足音が聞こえたと思ったら、目の前には慌ててやって来たお兄ちゃん。何?何が起きたの?って思っていると、居なくなったはずの数馬先輩がお兄ちゃんの後ろからやって来る。縄を持って。

「作兵衛〜足早いよ〜」
「留季子!お前なんで3年棟に?!つか、泣いてるって…」
「な、泣いてない!」
「はぁ?涙目じゃねぇか!説得力ないぞ!」
「泣いてないし!お兄のバカ!大体、あたしが3年棟に来なきゃ行けなくなったのお兄のせいなんだから!」
「はぁ?なんで…って、孫兵?お前何してんの?」

孫兵と呼ばれた美形の人はあたしの足元に座っている。そして未だにあたしを睨んでいた。下から。そう、下から、下…はっ!

「きゃあ!」

慌ててスカートを押えると“孫兵、いい度胸だな…”と言う声が聞こえた。お兄ちゃん、指鳴らしてるし。

「何のこと?」
「お前、留季子のスカートの中覗いてんじゃねぇよ」
「え?あぁ、そう言えば青のシマシマ見えてたね。ずっと」
「…てっめぇ〜!」

お兄ちゃんが孫兵さんの胸ぐらを掴んだ。周囲は野次馬だらけになり、縄に括られた左門先輩が“行けー!作兵衛ー!”と、応援している。

「あ、作兵衛ばかり応援したら不公平だな!孫兵も頑張れー!」
「左門、止めないと…!」
「大体、てめぇだろ。留季子泣かせたの」
「どこに証拠が?大体この子が悪いんだよ?僕のジュンコ取るから」
「はっ!お前が普段から大切にしねぇから愛想尽かしたんじゃねえの?」
「…は?」

なんだか、やばい雰囲気。助けて、誰か!と思っていると、誰かに抱きしめられる。この匂い、知ってる。まさか…!

「面白いことしてるね、作兵衛」
「あ、あっ、三之助先輩…」

三之助先輩はあたしの顔をじっと見て、そして足元を見た。そしてすぐにへびを引き剥がし、孫兵さんに投げた。

「あぁ!ジュンコ!投げるな、三之助!」
「はいはい。それから作兵衛」
「あん?俺は今忙し…」

バチン、音が鳴った。お兄の頬は赤くなり、辺りは静かになる。

「てっめぇ、何す…」
「こっちの台詞。作兵衛最低だよ」
「なんだと?!」
「お前の妹の顔見て見ろよ。泣いてるぞ。泣かしてるのお前だからな」
「…っ!」
「それから孫兵。この子は作兵衛の妹だから」
「へ?!」
「あー、孫兵はそっか、あのアパートに住んでないもんね」
「知らなくて当然か」

三之助先輩の言葉にびっくりしている孫兵さん。それに続くは数馬先輩と藤内先輩。“作兵衛の妹さんなら、ジュンコが懐いて当然か…”そう呟いて、少し気まずそうに、“ごめん、なさい”と孫兵さんはあたしに謝ってきた。

「いえ、いいんです。大丈夫、です…あたしも悪かったし…それより、お兄ちゃんと仲直りしてください!」

そう言って頭を下げると、面食らった様な顔をして、孫兵さんはお兄の方を向いた。

「ごめん」
「…いや、俺こそごめん。ひでぇこと言った」
「いや、僕の早とちりだ。妹さんにも酷いこと言ったし」
「それについては留季子が許してくれてるんだから、俺から言うことねぇよ…」
「仲直り、しよう」

手を出した孫兵さんを見てお兄は少しだけ笑って握手をした。良かった、無事にまとまった。隣を見れば、“良かったな”なんて三之助先輩が笑う。ドキッとした。そして胸が締め付けられる様に苦しくなった。あぁ、私は本当に…。

「ところで作兵衛の妹」
「は、はい!」
「パンツ、青のシマシマなんだって?」
「…え?」
「さっき孫兵が言ってたの聞こえたんだよねー…って作兵衛?」
「三之助、お前…」
「え、なんか顔怖いよ?作兵衛の妹、なんでまた泣きそうなの?」
「うっ、う〜!」
「あ、どこ行くの?俺もパンツ見たいな」
「だ・ま・れ!」

三之助先輩にパンツの柄知られた!きっと子供っぽいって思われた!もうヤダ!死にたい!

「…ぅっ、ただいま」
「留季子遅かったね、って何泣いてんの?」
「まさか3年にいじめられて…?!」

身も心もボロボロの私を出迎えてくれたのは久ちゃんと左近。事情説明しようにも心折れすぎて出来ないでいれば、後ろからろじの声がした。

「お前、なんでまだ弁当持ってんの?」
「あ」

色々あり過ぎて渡しそびれたお弁当。あーあ、どうしよう。でももう3年棟には行きたくない…なんて思っていると、“お前、弁当渡すことも出来ないのかよ”って笑われたから、とりあえずろじの腹にグーパンチして席についた。

「っに、すんだよ!」
「うっさい!バカろじ!」
「はぁ?!」
「いや、お前が悪い」
「何でだよ久作!」
「お前は本当に女心分かってないよな」
「ため息付くな!左近!」

あー、もう、厄日だよ!











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