長男の料理


「留季子、留季子ー朝だぞ」

ある日の朝、体がなんか怠いなぁと思いながら横になっていると作兄の顔が視界いっぱいに映った

「あ、あさ…?」
「お前寝坊とか珍しいな。ご飯と弁当は父さんが作ってくれたから、いい加減起きろ」
「うん…ぁ」
「ちょ、留季子っ!」

急にふらっと視界が真っ暗になったと思ったら次は作兄の腕の中、お兄背が伸びたなぁ…なんて呑気な事を思っていると、額に冷たい感触があった

「あつっ、お前熱あるじゃねぇか!」
「ちょっとくらくらするの」
「…寝てろよ」
「作兵衛、留季子起こしてくれたかぁー…どうした?」
「留季子、風邪引いたみたいなんだ」

作兄に布団に戻されて寝ているとお父さんがやってきて心配そうにあたしの顔をのぞき込む。ふわりと撫でられた頭、なんだかいい気持ち

「今、お粥作ってやるからちょっと待ってろ」
「お父さん、仕事は?」
「いいから、寝てなさい」
「留季子おねえちゃんどうしたの?」
「はにゃ、おねえちゃんおねぼーさん?」
「ごはんだよー」
「あーっと!平太、喜三太、しんべヱ…留季子姉ちゃんは具合悪いから静かにしてろよー」

ご飯を待ちくたびれたちびちゃん達を作兄が止めた。すると次の瞬間、泣きそうな顔をしてあたしが寝ている近くになだれ込んできた

「おねえちゃん、いたい?」
「だいじょーぶ?」
「なめさんあげようか?」
「平太もしんべヱも大丈夫だよ。それに喜三太、なめさんはいいかな…気持ちだけもらうね」
「お前ら、保育園遅れるぞ」
「いやーおねえちゃんのそばにいるー」
「ぼくもー」
「ぼくもやだ」
「あのなぁ…」
「くす、あたし大丈夫だからお兄ちゃん困らせないの。ほら、行っておいで」

ちびちゃん達の頭を撫でると安心したように部屋を出て行った。それと入れ替わるようにお父さんが入ってきてお粥を差し出した

「起きれるか?」
「うん。ごめんね、お父さん」
「気にするな。いつもありがとうな。俺の方が留季子に迷惑かけっぱなしだ」
「もーお父さん恥ずかしいっ、余計熱あがっちゃう」
「ははは、そうか。俺はしんべヱ達を保育園に送らなきゃいけないから先行くぞ」
「うん、ありがとう」
「ゴミ出しも俺がしておくからな」
「…ごめんね」
「気にするな」

早く治せよ、とお父さんはまた笑って頭を撫でて部屋を出ていった。作られたお粥は温かくておいしい

「留季子、食ったら寝ろよ」

作兄がやってきて食べ終わったあたしのお茶碗を取り上げて横にさせる
((お兄…今日、すっごく優しい?))

「しっかし、バカは風邪引かないって言うのになぁ」

なんてにやにや笑いながらあたしの顔を覗き込む。前言撤回。いつも通りだ

「お兄ちゃん学校は?」
「いくよ」
「そっか…」
「寂しいのか?」
「ち、ちがうよ!ばか!」
「…はぁ」
「ためいき!?…あいたっ!」

ばーかと呟きながら作兄はあたしの頭を小突く。それで小さな声で“左門達送ったら戻ってくる”と言ってそっぽを向いた。どうしよう、お兄に学校を休ませることになるんだけど嬉しいな

「じゃあ行くから、帰ってくるまで寝てろよな」
「うん、わかった」

作兄が部屋を出て行くのを見送って、静かに目を閉じた。どれくらい寝ただろう、しばらくたった後目を開けると、隣から寝息が聞こえてきて、見るとお兄ちゃんが寝ていた
((本当に学校休んだんだ))
枕元の洗面器と額に置かれているタオルが看病の後を物語っている
((ありがとう、お兄ちゃん))
なんて思っていると急に玄関が騒がしい。何事かと思っていたら作兄も起きたらしい、寝ぼけ眼で玄関に向かっていく。静かになったと思った次の瞬間、左門先輩にタックルをかまされた

「きゃぁぁあああ!!??」
「留季子、風邪引いたらしいな!大丈夫か!」
「左門お前何やってんだ!」
「お見舞いだ!」
「妹にタックルした奴の言う台詞か!」
「ごほごほ、お兄ちゃん大丈夫だから」
「大丈夫か?作兵衛の妹」

隣から聞き覚えのある声がして振り向くと三之助先輩がきょとんとした顔でこっちを見ていた。こ、ここ声がでない

「よ、よく家に来れましたね」
「あぁ、左門と手をつないで来たんだ」
「かわ、かわいいですね」
「そうか?それより熱は大丈夫なのか?」

そう言う三之助先輩はみるみる近づいてくる。三之助先輩の顔が近い!近い近い!あぁ、だめぇーっ!

「熱は…まだ熱いみたいだな」
「はひっ…」
「だー!三之助!お前留季子に近づくんじゃねえよ!ますます熱あがるだろうが!」
「なんで?」
「何ででも!」

お兄が三之助先輩を引き剥がしてくれたけどまだ顔が熱い。心臓もうるさい。てか寝起きの顔をまじまじと見られた…消えちゃいたい
((嬉しくはあったけどね))
なんて思ってるとまた玄関が騒がしい。はいはいとか言いながら作兄が玄関へ向かう

「誰来たんでしょう?」
「さあな!」
「作兵衛妹、腹減ったからなんか作ってくんない?」
「…先輩自由すぎます」

なんてやり取りをしていると作兄の怒鳴り声が聞こえた
((押し売りでも来たのだろうか、珍しいな))
なんて思っていると、ひょっこり顔を出したのは幼なじみの四郎兵衛だった

「留季子大丈夫?」
「しろちゃん!」
「留季子、見舞いに来たぞ」
「久ちゃんもありがとう」
「あ、これ今日配られたプリントね」
「ありがとう、左近!…と言うことはろじも来てる?」
「来てるよ」
「今お前ん家の兄貴と睨み合ってる」

そう左近が言うと睨み合いながらお兄とろじが部屋に入ってきた

「ろじ、いらっしゃい。お兄!ろじ一応お客さんなんだから」
「そうだそうだー」
「こいつだけは客とは思えねえな!」
「はぁ?」

なんて言ってまたケンカが始まった。何故か昔からろじとお兄は馬が合わないのか顔を合わせるとケンカばっかりしている

「なんで2人仲悪いんだろ?」
「(知らぬが仏)」
「留季子知らないんだ。あのね…」
「四郎兵衛黙ってろ」
「つか、留季子具合よくなったのか?」
「あ、うん。お兄ありがとう」
「じゃあ飯作ってやるから食えよ」
「はーい」

そう言ってお兄は部屋から出て行き、数分後におじやを作って持ってきてくれた

「へー作れるんだ」
「バカにすんなよ!つか俺先輩だからな豆腐屋」
「つかおじや焦がすとかどんだけ料理下手なわけ?」
「てめぇ!ぶっ飛ばす!」
「作兵衛の料理、うまいぞ!」
「知ってますよ。左門先輩」
「留季子、飯食ったら新野先生からもらった薬あるから飲めよ」

左近が体を起こしてくれて、お兄がろじとケンカしながらもおじやを差し出してくれた。それを三之助先輩が取ってふうふうしてる。え?

「はい、作兵衛の妹」
「おまっ何してんだよ!」
「何って冷ましてる。はい、あーん」
「いやいやいやいや…ちょっと」
「三之助、留季子に近づいたら熱あがるっつただろ…」
「なんで?俺だって看病したい」
「そーゆー問題じゃ…あ」
「あっ!」

えーいっ食べてしまえ!と思って口を開けるとしろちゃんが食べちゃった

「ごめん、食べちゃった」
「しろ、うまいか?」
「うん」
「じゃあ俺も」
「私も食べたい!」
「七松家は自由か」
「潮江先輩もな」
「くす、あははっ!」

なんだか面白くなって笑うとみんな笑った。風邪もすっかりよくなっているみたい。作兄をちらっと見るとよかったな、って顔をした
((お兄ちゃん今日は1日ありがとう))
心の底からそう思った




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