01


冬のある寒い日、俺は捨てられた。ただ捨てられるだけならまだよかった(本当は大問題なのだが)自分よりも大きな大人に囲まれて、遊ぶだけ遊んだら、捨てられた。まるで玩具に飽きた子供のように、憐れみを含むような疎ましい笑顔を見せて捨てる。肌着を一枚まとった姿、目の前に椿が生い茂る森の中で真っ白な雪にさらされ風によって落ちた椿の華が俺に落ちてくる。身体中についた汚れをかき消すかのごとく、落ちる雪椿はまるで、椿で埋め尽くされた柩に横たわるような感覚に覆われて、俺はゆっくり目を閉じた。全てが柔らかくなる。雪の冷たさも感じない
((天国か、な…))
次に目を覚ますと煌びやかな金色に、荒々しく燃える紅が目に映った。いまだにぼぅっとする視界。目の前は七色に輝いていて、ここが天国なのかと思うがそれにしてはなんだか体が重い
((手…動く))
暖かいなと思っていたら布団がかけられ、服も着せられていた。辺りを見回せば、見知らぬ顔が目に入った

「気がついた?」

優しげな顔が目に映る。ここは何処なんだろう…?こんなきれいな場所俺は知らない

「…あっ、つ」
「あ、まだ起きたらだめだよ」

体を起こせば鈍い痛みが全身を駆け巡った。きっと弄られたせいだ、雪である程度は落ちたみたいだけれど、身体中に紅い痕があるし、まだべたべたする
((気持ち悪い…))

「ほら、横になって」

しげしげと自分の身体を見ていたら、さっきの人が寝かせてくれた。声からすると男の人だろう、顔を見れば俺と変わらないような幼い顔立ちだけど着ている着物は鮮やかでどう見ても女物だ

「君、すごかったんだよ。いきなり留三郎さんが抱きかかえて大慌てで連れてきて…」
「とめ、さぶろう…さん?」
「うーんと、この店の代表さんって感じの人なんだ」
「偉い人、ですか…」
「そうなるかな」

“大事にならなくてよかったね”と、男の人は俺の額に手ぬぐいを置いた。冷たい手ぬぐいが体の熱を奪っていく
((きもちい…))
さっきは気がつかなかったけど、どうやら熱もあるらしい。あんな雪が降り積もった場所に薄着でいたんだから当たり前なんだけど…

「失礼します」

物思いにふけっていると誰かが部屋に入ってきた。さっきまで隣にいた綺麗な男の子は入ってきた人を見るとすぐにそっちに行ってしまって視界から消えた
((一体誰が来たのかな…))
くらくらする頭を押さえながら起きあがろうとしていたら“あぁ!だめだよ”と言いながら男の子がまた俺の側に戻ってきて、手ぬぐいを新しくしてくれた。その時一緒に知らない人が視界に入った

「よ、目が覚めたか?」
「ここは…?あとどちら様ですか?」
「なんだせっかく目が覚めたのに雷蔵から何も聞いてないのか?」
「そう言えば僕自己紹介もしてないや。ごめんね、僕は雷蔵って言うの、こっちは君を助けてくれたここの代表の留三郎さん」
「よろしくな!」
「よろしくお願いします…俺は裕です」

さっきまで俺の側に居てくれた綺麗な男の子が雷蔵くんで命の恩人が留三郎さんと言う名前らしい、俺が名前を名乗ると留三郎さんは“いい名前だ”と頬に触れた。手が冷たい、ひんやりする

「本当に無事で良かったよ。お前雪の中で椿まみれで埋まってたんだからな」
「三郎のわがまま聞いてよかったですね」
「雷蔵、うるさいぞ」
「あ、あの!」
「ん?どうした?」
「ここは何のお店なんですか?」

辺り一面はきらきらで近くの襖も鍍金で塗られているのか綺麗で、布団も素材が柔らかいし、もしかして町一番の宿屋何じゃないだろうか…そう思いながら聞いたら留三郎さんは少し困った顔をしたあと、また僕の頬を撫でた

「裕、ここは江戸で一番の遊郭【篠】だ」
「ゆー…かく?」
「今日からお前はここで暮らすんだよ」

優しく言われて、意味は分からなかったけどとりあえず頷いた。ただあの時の留三郎さんの顔はどこか切なそうに、悲しそうな目をしていて忘れられなくて、ずっと疑問に思っていた

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