あれから数日が経っても吾妻くんは教室に姿を現さなかった。まるでこの前の保健室での出来事は嘘だったんじゃないかって思えてきて、なんだか寂しかった
((確かに出る、とは言ってなかったけど…))
せっかく隣の席になったんだから、来てほしいと思う反面、来られたら心臓がうるさくなりすぎて聞かれちゃうんじゃないかって言う心配もある。だけど会いたい
「今日は来ないのかな…」
ぽつりと呟いた瞬間、教室のドアが開く音がして、見ると欠伸をしながら入ってくる吾妻くんの姿があった
((来てくれたんだ!))
そう思ってると周りはひそひそと話をしている。吾妻くんがこんな時間に教室に現れるのは確かに珍しいけど…もう帰りだし、なんて思っていたらいつの間にか隣にいた吾妻くんはどかっと椅子に座ってこっちを向いた
「よう、数馬」
「あ、うん…おはよう?」
話しかけられた、しかも名前呼びでだ。とても嬉しかったけどいまだに吾妻くんと話すのは慣れなくておどおどしてしまう
「ぷはっ!何どもってんの?」
「だ、だって…吾妻くんと話すの緊張するんだもん」
「そうかぁ…あ、お前今度から吾妻くんじゃなくて正義って呼べよ」
「な、なんで!?」
「友達、だろ?」
にやりとニヒルに笑う吾妻くんはかっこよくて、かっこよくて…頭が沸いちゃいそうだ。それに名前でなんて呼べるはずがないっ!で、でも…
「正義、くん」
「ん、良くできました」
そう言って正義くんは僕の頭を撫でた。は、はずかしい!てかここ教室だし!とか色々考えているとまた教室のドアが開いて作兵衛が入ってきた
「正義ー!」
「うわっ、作兵衛なんだよ」
「今日一緒に帰らねー?」
「…いいけど」
「やりぃ!あ、数馬。正義と隣の席なんだな」
「うん。そうだよ」
「じゃあ数馬も一緒に帰ろうぜ!藤内や孫兵も誘ってさ!」
「うん!」
そうやって返事をすればチャイムがなって作兵衛は教室に帰って行った。正義くんと帰れるなんてなんか幸せ過ぎる!なんて思っているとこっちを向いていた正義くんと目があった
「楽しそうだな」
「うん。そうだねっ」
「お前、かわいい顔してんなー…」
「へ!?」
「なんでもねーよ。あ、授業始まんぞ」
そう言った正義くんは欠伸をして机に突っ伏してしまった
((かわいいってどういうこと!?))
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