“どこに行くの?”そんなことも言えないまま、バイクに跨り風になる。頬を撫でる風が冷たくて心地いい。怒りからなのか呆れからなのか、何とも言えない感情で火照った体を冷ましてくれる。
「きもちいい」
「…だろ?」
「聞えてんじゃん」
「たまたまだ」
“スピード上げるぞ”そう言ってあたしの手を掴んで腰に当てる。チカちゃんの手が少し熱い。見上げれば大きな背中と青空に靡く銀髪。
「綺麗」
思わず、呟いた。まるで雲のようだった。青空に映えるふわふわの髪、私は雲に乗って空を泳いでいるみたいで、手を伸ばしたらチカちゃんの声がした。その瞬間、横転する。転んだんだ。でも痛くない。よく見れば大きな体に包まれている
「いって…」
「チカちゃん?」
「あぶねーだろ!急に手を離すじゃねーよ!」
「…あの体勢からよくあたしを守れたね」
「咄嗟に体が動いたんだよ」
頭を掻きながら目を逸らすチカちゃん。あたしはまた空を見上げた。青空に雲が悠々と泳いでいる。“ああ、雲になりたい…”そう呟いたら、横目で頭を掻いたチカちゃんが埃を払って立ちあがる
「千夏」
差し出された手を見つめると、手を振られ、“ほら”と催促されて手を取る。大きいチカちゃんの手はあたしの手を簡単に包む。あたしが立ちあがると土埃を払って、倒れたバイクを起こす。
「バイク、傷んだね」
「そうだな」
「今のあたしみたい」
ポツリ、呟けば、チカちゃんがこっちを見た。
「じゃあやめるか」
「え」
「傷つくの」
「…無理だよ」
「無理にとはいわねーけどよ」
“もっと周り見ればいいんじゃねーか?”その言葉の意味が分からずポカンとする。周りを見ろ?人間観察が趣味のあたしに向かってそんなこと言うなんて…チカちゃんこそ周り見なよ、なんて思ってたら“意味、わからねーか?”なんて言われた
「わかんない」
「手」
「うん?」
「早く」
「はい」
差し出した手、繋がれる手、そして抱きしめられる体。何も言えないでいると“たまには頼れってことだ”ぽんぽん、背中を叩かれて涙が出る。そんな白昼のこと