07
“どこに行くの?”そんなことも言えないまま、バイクに跨り風になる。頬を撫でる風が冷たくて心地いい。怒りからなのか呆れからなのか、何とも言えない感情で火照った体を冷ましてくれる。


「きもちいい」

「…だろ?」

「聞えてんじゃん」

「たまたまだ」


“スピード上げるぞ”そう言ってあたしの手を掴んで腰に当てる。チカちゃんの手が少し熱い。見上げれば大きな背中と青空に靡く銀髪。


「綺麗」


思わず、呟いた。まるで雲のようだった。青空に映えるふわふわの髪、私は雲に乗って空を泳いでいるみたいで、手を伸ばしたらチカちゃんの声がした。その瞬間、横転する。転んだんだ。でも痛くない。よく見れば大きな体に包まれている


「いって…」

「チカちゃん?」

「あぶねーだろ!急に手を離すじゃねーよ!」

「…あの体勢からよくあたしを守れたね」

「咄嗟に体が動いたんだよ」


頭を掻きながら目を逸らすチカちゃん。あたしはまた空を見上げた。青空に雲が悠々と泳いでいる。“ああ、雲になりたい…”そう呟いたら、横目で頭を掻いたチカちゃんが埃を払って立ちあがる


「千夏」


差し出された手を見つめると、手を振られ、“ほら”と催促されて手を取る。大きいチカちゃんの手はあたしの手を簡単に包む。あたしが立ちあがると土埃を払って、倒れたバイクを起こす。


「バイク、傷んだね」

「そうだな」

「今のあたしみたい」


ポツリ、呟けば、チカちゃんがこっちを見た。


「じゃあやめるか」

「え」

「傷つくの」

「…無理だよ」

「無理にとはいわねーけどよ」


“もっと周り見ればいいんじゃねーか?”その言葉の意味が分からずポカンとする。周りを見ろ?人間観察が趣味のあたしに向かってそんなこと言うなんて…チカちゃんこそ周り見なよ、なんて思ってたら“意味、わからねーか?”なんて言われた


「わかんない」

「手」

「うん?」

「早く」

「はい」


差し出した手、繋がれる手、そして抱きしめられる体。何も言えないでいると“たまには頼れってことだ”ぽんぽん、背中を叩かれて涙が出る。そんな白昼のこと


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bkm





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