ぎしり、ベッドに手を置き体重をかければ音が鳴った。それから目蓋が薄く開いて2、3回上下した後、はっきりと開かれた。そしてすぐに閉じられて、唇は弧を描く
「ヨォ」
「荒北」
「不法侵入だぜ、美琴チャン」
「あら、私と荒北の仲じゃない」
そう言って頬に手を伸ばされた。その手を取るとまた笑う美琴。端から見れば美琴が俺を誘ってるように見えるけど、コイツにはそんな感情、毛頭にもないんだよナァ…
「いい加減にしろヨ」
「荒北のいけず」
「バカ言ってねぇで起きろヨ」
そう言えば美琴はクスクス笑って体を起こした。乱れた服装、笑顔、自分の部屋のベッドの上に女…シチュエーション的には完璧襲ってるけど、今更コイツにそんな感情沸くわけ無かったし、とうの昔に玉砕してる。“服直せヨ”と言って部屋を出て行こうとすれば“靖友”と名前を呼ばれた。いつも名前なんか呼ばねえくせに何だよと思って振り返れば、乱れた制服姿の美琴が、“サイクリングに行こうよ”なんて言って笑った
「ハ、残念だったな。雨降ってんだヨ。今」
「えー…荒北の自転車の後ろ乗りたかったなぁ」
「ロードバイクの後ろに乗れる訳ねぇだろ」
「…うん、分かってるけど」
“昔みたいに自転車に一緒に乗ったりしたかったなぁ”なんて言う美琴の話はガキの頃だ。あの時から何も変わらない美琴と俺。変わったのは体と俺の美琴に対する気持ち
「じゃあ雨止んだらいくかぁ?」
「本当に!?」
「ああ、だからそんなに凹んでんじゃねぇヨ」
パァっと明るくなる美琴は本当に単純。ガキだ。そんなコイツを好きって気持ちだけで甘やかしちまう俺はもっとガキだ
「荒北」
「…んだヨ」
「ありがとう」
俺達の関係はずっと平行線だ
bkm