“綺麗な銀髪ですね”
あいつと初めて会ったときに真っ直ぐな瞳を俺に向けてあいつは言った。不良と怖がられて、誰もが距離を置いたし、俺自身もそれが楽だった。元々集団行動はあまり得意な方じゃないし、1人は気楽で、いつも通り屋上でさぼっていた時にあいつはやってきた。
「何してるんですか?」
「…あ?」
急に隣にきて、紫色の大きな瞳が俺を捉えた。綺麗な金髪が光に当たってより眩しい。シードルも相当眩しいけど
「ランバーヤード先輩?」
「その“ランバーヤード先輩”っての止めにしねぇ?堅苦しくて寒気する」
「え?でも先輩だし…」
この学校は小中高一貫だし、名門らしいけど田舎だから年上年下関係なしにみんな呼び捨て。だけどこいつはちょっと前に転入してきたらしく、その風習にあんま馴染んでない。いつまでたっても“ランバーヤード先輩、ランバーヤード先輩”って、堅苦しくて吐き気がする。まぁ、そう言ってくるのはこいつだけだし、はじめは新鮮だったけど、もう嫌になってきた
「俺は先輩って呼ばれるほどの器じゃねぇし」
「そうですか?ランバーヤード先輩は面倒見いいってカベルネくんが言ってました」
「お前、カベルネにもくん付けなわけ?」
「いや、呼び捨てです」
「…シードルは?」
「シードルくん同じクラスですから呼び捨てですよ」
「…レモンは?」
「エアサプライ先輩ですか?先輩って呼んだら照れながら怒られたのでレモンですけど?」
「ガナッシュのおっさんは?」
「ガナッシュは幼なじみだから…」
「呼び捨てか?」
「はい!」
にっこり、眩しい笑顔を向けられてため息が出た。つまりこいつは俺以外みんな呼び捨て、みんなタメ口な訳だ。何が楽しくて先輩呼びしてんのかさっぱりわからねー…
「…綺麗だから、です」
「はい?」
「初めて見た時から先輩、すごく綺麗でそれでなんか、呼び捨てとかタメ口とかなんかし難くて…」
えへへ、なんて照れてるけど何で喋った?つーかなんだよその理由。綺麗?俺が?そーゆー類いの言葉はシードルの担当だろうが…ん?待てよ?俺今告られたの、か…?
「綺麗ねぇ…俺が」
「はい!綺麗です!」
「それってさ、ミルク…告白?」
顎を持ち上げて上を向かせながらそんな台詞を吐いた。我ながら恥ずかしい。さて、かわいい後輩ミルク=シャルマンちゃんはどんな反応をするかと思ったら、照れるわけでも怒るわけでも無くまさかの無反応。俺、すべった…?
「先輩、顎痛いです」
「こんな事されてお前何にも感じないわけ?」
「先輩の顔がよく見えます」
「そうじゃなくて…」
「きす、したいんですか?」
ですかってなんなんだ!俺がしたいみたいじゃねぇか!
((したくないわけじゃないけどよ…))
なんか恥ずかしくなって手を離したら、今度はミルクの手が伸びてきた。思わず身を後ろに引くとミルクは俺の髪を掴んで“綺麗ですね”と笑った
「あ、髪?」
「すごく綺麗な長髪です」
「あ、うん…ありがとな」
「先輩、お願いがあるんです!」
「お、ぉう」
ぐいっとっと顔を近付けられて、びっくりしてまたたじろいだ。ウィルオウィプスきっての不良が女1人にびびるとか情けねー…
「また髪触らせてもらえませんか?」
「へ、髪?」
「先輩の綺麗な銀髪、憧れなんです!」
また触らせてください!なんて何言われるかと思ったら髪の話、しかも話の流れからすると憧れて話せねーとか言うのは俺じゃなくて俺の髪が綺麗で話せないとか抜かされた。ちょっと、俺これ、ピエロもいいとこじゃねぇか。ふざけんな。肝心のあいつはそれだけ言っていなくなるし…
「あ゙ー…なんかすげぇ疲れた」
座り込んでタバコを吸おうとしたときにふと目に入った自分の髪、いつも見てるのと変わんないのに、あいつに触られたからか、なんだか変な気分だ。触られたところを手にとって自分でも握ってみると、胸がちくちく痛い。
((ちくしょー…あいつッ!))
この胸の痛みが何なのかなんて高等部の俺にはすぐに分かった。分かったけど分かんないふりをした。年下の女に度肝を抜かれたなんて思いたくなかった。だけどそんな俺の気持ちとは裏腹に、また早く来ねぇかななんて思っちゃってる俺は女々しいな
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bkm