「あっちー!」
ぱたぱたぱたぱた。レインがYシャツをはためかせているさ。ちらちら見えるブラヒモに想いを馳せながら濃いブラックコーヒーを飲み干した。苦いさ
「あっついねー氷溶けてきたよ」
「レイン、食べかすついてるさ」
「う?」
「ここ」
とんとんと自分の上唇を叩けば同じ動作をするレイン。まるで幼い子を相手しているみたいでかわいいけれども、ザ・生殺し状態なのは本当に勘弁して欲しい
((またキスしちゃうさ?))
男は狼なんだから気をつけなさいよと、狼少女に思っていても伝わらない。がまんがまん。だってまたアレンに見つかったらただじゃ済まされない。暴君姫君のナイトも暴君と言うか何というかなんさ。危ない
「ここについてるさ」
そっと手を伸ばした上唇。触れる指先、柔らかい感触…ああ、やばいさー…ブレーキかけろー!なんて頭に信号を必死に送っている
「…ありがとっ」
照れたようにする表情を見せるレイン。誰にもしない俺だけに見せる表情。アレンにもリナリーにもユウにも親衛隊の人達にも先生にも見せない。俺だけの特権。なんて優越感なんだろう。かわいいかわいい
「ラビ」
「ん?」
「ラビもついてる」
「何がさ?」
振り向いた瞬間、目の前にあるレインの顔。近い。そのままじっと俺の目を見つめたと思ったら、手を伸ばすから反射的に目を閉じた。“取れた”と声がするから開けば何かを掴んでいるレイン、よく見れば毛、だ
「まつげー!」
「おーありがとさ?」
「睫毛もオレンジだね」
“きれいだね”なんて言うレイン。お前の方が綺麗さ、とは言えないんさ。なぜって?言っても通じないっしょー。いや、意外と効くかも?なんて考えていればレインは睫毛にキスしてきた。突然のことに驚いて体勢を崩せば、ばしゃっと言う音がして、さっきまでコーヒーが入っていた氷水がコンクリートに染み渡った
「仕返し」
いつぞやのキスのお返しだとばかりに悪い顔をするレイン。その顔に釣られながらレインを抱き締めれば、どっとどっとと速い鼓動が聞こえてくる。ばか、こう言うこと苦手なくせにするからさ
「すごいドキドキしてるさ」
「うるさいー」
「かわいい」
「う」
ちゅっとリップ音を鳴らしながら、髪を掻き分けて額にキスを落とせば、ますます心音は速くなる。それが心地いいと感じるのは何故なんさ?昔はただの興奮材料でしかなかったのに。レインを愛してから全てが変わっていく気がして、怖いとも思う。情けないさ。でもレインが居れば怖くないとも思う。矛盾してるって?俺もそう思うさ。うまく伝えられないけれど、レインが居れば無敵さ!なんてバカップルみたいなことまで考えちゃうんさ。だから…
「レイン」
「ん?」
「愛してるさ」
こんなちっぽけな言葉で綴ることを許して欲しいさ
((君の心音は快音))
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