哀感な彼女



「ラビってさぁ、何でモテるの?」


今日もいい天気な昼下がりの屋上。授業がつまらないと突然俺の教室にやってきて、颯爽と俺を拉致った暴君はぽつりとそう呟いた


「めずらしくおとなしいと思ったらいきなり何さ。俺がモテるのに何か不満でもあるんさ?」

「ふま、ん…」


本を読む手を止めてレインに問いかけると、きょとんとして“不満かぁ…”とつぶやいて空を見ている。てっきり不満だらけだ、などと言った俺を貶す言葉が返ってくると思ったら、うんうん唸って困っている様子のお姫様。なんかいつもと違って拍子抜けさ


「不満じゃないならなんで聞くんさ」

「んーとぉー…ラビ、常に女の子といるからなんでかなーって思ってアレンに聞いたら、“ラビは頭は無いですけど悪知恵が働くからモテるんですよ”って言ってたから」


…あのもやしはレインに何を教えているんさ。俺様成績優秀だし、女の子だって勝手に寄ってくるの相手にしているだけさ。自分から行こうなんてしたことほとんどないさー

((…ってか、レインは俺と女の子やり取りをアレン教えられるまでどんな目で見てきたんさ))

このお姫様の無知さにかわいさを通り越して少し頭が痛くなったが気にしないことにした。本をしまい、レインの隣に立つといまだに“不満、不満…?”と口走っている


「分かんないなら考えなくても良いさ」

「やだっ、考えたい!」

「おっと」


頭を撫でるとすぐにこっちを向いたと思えば、また空を仰いで考えはじめる。いつもなら鉄拳が飛んでくるはずなのにどうしたんさね、一体


「なんでそんな気になるんさ。まさかやきもちー?」


冗談半分で言った言葉も返ってくるのはいつもの暴言ではなく無言。なんか妙に変な感じがして頭をかいた。ちらっとレインを見るといまだに視線は景色。それからぽつりと呟いた


「わかんない」

「へ?」

「でもラビはあたしのなの」


ラビが他の女の子といちゃいやなの、としょげた顔して呟いた。レインさん、それってもしかして嫉妬ってやつですか。お子様レインにもそんな感情が芽生えるようになったんさ?


「えと、レイン…俺はレインの事好きだから、安心するさ!」


あ、俺何口走ってんの!?ちょっとタイミング早くない!?てかまだ俺ん中でレインに恋愛感情あるって認めたわけじゃないさ!ちょっとー本当に何話してるんさ!

((どーしよ…))

自分でもびっくりするくらい変なことを口走った数秒前の自分を殴りたい。力いっぱい。本当、タイムマシーンとかあったら乗って間違いなく数秒前の自分にあって思いっきり殴りたいさ。そんな俺の気持ちを無視するかの様にレインは顔色ひとつ変えないで俺を見ている。やばい、本当に恥ずかしいさ!穴があったら入りたいさー!


「す、き…?」

「あああああ!えーっと…」


恋愛百戦錬磨の俺様の癖になんでレイン1人にうろたえてるんさ。かっこ悪い。他の女の子がこんなとこ見たらがっかりするんさねーてか他の女の子だったらもっと上手く丸め込めるさ。レインにはなんか出来ない。出来ない何かがあるんさ。好きとかは分かんないさ、でも傷つけちゃいけないなって思うんさ

((あと、アレンとか怖い…))

バックの幼なじみに恐怖感を覚えながら真っ直ぐに俺から目線を外さない女の子を見た。綺麗な顔さ、スタイルもいい、性格は…黙ってればオッケー、大食いってオプションも見ていて気持ち良かったりするんさ…色々考えてみてもレインは割といい女。こんな言い方するとアレンにぶっ飛ばされちゃうかもしれんけどレインは本当にいい女さ。無知でお子様な所もポジティブに考えれば純情で純潔なわけで、たまには真っ白いキャンパスに思いっきり落書きするってのも悪くないさ。あれ、これってお付き合いしちゃう方向性で頭働いてる?いやいや無理だって!レインは無理だって!障害ありすぎさ!アレンを敵に回したくないさ!レインのファンに脅される生活なんか嫌さ!何より他の女の子と遊べなくなるのはきっついさー


「あ、あのさレイン…好きっつーのは別に、恋愛感情とかじゃなくて人として好きなわけで…」


しどろもどろになりながら話をする俺は情けない。でもそう思う一方で胸が締め付けられる様な気持ちにもなる。苦しい、苦しいさ。いったい何なんさ。別にレインを女性として見てないって言ったら嘘になるかもしれないけど、確かに今はまだそうじゃないんさね。人として好き―――…かどうかは別として(性格にかなりの問題あり)とにかく!レインとは付き合わないんさ!そーゆー結論に達したわけだから、こんな気持ちになるはずなんか無いのに…なんなんさ、本当に

((好き、じゃない))

その言葉を小さく吐いた。レインがこっちを向いて、俺のそばに近寄る。いつもはこんな事ありえない、ありえないんさ


「あたしはラビが好きだよ。いつもわがまま聞いてくれるから、大好き」

「そーさねー…レインお嬢様のわがまま聞いてあげられるのは学校の中で俺だけさね」

「うん、だからいつもありがとう」


なんだよそれ、いつもそんなこと言わねーだろ。どうしたんだよ急に、まるでいなくなるみてーじゃねぇか…そう思ったら怖くなってレインの腕を掴んだ。風に揺られて髪が揺れた。いつもと違う甘い匂いがする

((あぁ、あの時と同じさ…))


「ラビ、スタバ行こ」

「授業は?」

「たまには息抜き!息抜き!」

「レインいつもさぼってるさー」

「不良のラビに言われたくなーい。罰として奢りなさい」

「罰じゃなくてもどーせ奢りだからいいさー」

「よくわかってるじゃん」


いつものように大きな口を開けてレインが笑う、それに答えるように俺もいつものように冗談混じりで答えて、2人で手を繋いで屋上を出た。細い腕、強く握ったらきっと折れてしまう、だから俺だときっと上手に扱えないんさ。だから、だからこのままでいい。でもさっき…

『いつもありがとう』

いつもの笑顔でいわれた、いつもと同じだったはずなのに、あんなに悲しそうな顔に見えたんさ、なんで寂しい思いにかられたんさ…

((少女の哀感少年知らず))



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