目の前にきらきらと艶めく髪に手をかけると、するりと手から離れていった。それは頭が揺れ動き振り向いたから。僕の顔を見ると大きな瞳は閉じられて、柔らかい笑顔を向けた。“アレン、何?”なんて僕の宙に舞った手を取り、繋がれた。じんわりと温かい感触が手のひらに馴染み混じっていく。レインは僕の幼なじみだ。家が近くだったから小さい頃からの顔馴染みで、いつも一緒で近所の人には“まるで兄妹ね”なんて言われて、それが当たり前のように育ってきた。レインも自慢じゃないけど僕のことが大好きだし、僕自身もレインが好きだ。ただしそれは恋愛感情みたいな甘酸っぱいものではなくて、もっと暖かい家族愛のようなものだと思う
「レイン、寝癖がついてますよ。女の子なんですから外見にも気を使わないと」
「あぁ、アレンに直してもらおうと思ってこのままで来たんだ!忘れてた!」
“直して”なんて笑顔を向けて髪を僕に預けるレインはかわいい妹そのもの。純粋で無垢で、綺麗なレインは僕の1番大事な宝物だ。そんなレインをどこの馬の骨か分かんないような男に汚されないためにもレインに言い寄る男は片っ端から片付け…いやいや、説得をしてきた。それは高校生になった今も変わらない。変わらないけれど
「あー疲れたさ」
目の前に現れた真っ赤な髪と眼帯、ラビだとわかり声をかけようとした瞬間、僕の動きが一瞬止まる。だって周りにはきゃあきゃあと黄色い声をあげる女の子達がずらり、髪型とかもみんな一緒に見える女の子にラビは笑顔で対応してる。僕の視線に気づいたのか、女の子の群れをかき分けてラビがこっちに近づいてきた。それと同時に女の子の視線も僕とレインに集中し、何人かはレインを睨んでいる。だからラビが来るとイライラする。ラビはモテることを自覚しているんだから、レインに危害が無いようにしてほしい。男は蹴散らすことは簡単だけど女性には優しくするようにと子供の頃から教えられているから、僕からきつく言ったりしてレインを守ることは出来ない。だからせめて元凶であるラビになんとかしてほしいものです
((これじゃあ期待するだけ無駄かもしれませんね))
「お、アレンとレイン。今日は早いさね」
「相変わらずモテるんですね。頭は空っぽなのにラビのどこがいいんでしょうか」
「空っぽじゃありません。知識はありますー。まーそんなかっかしないで、あれなら女の子紹介しようか?」
「ラビのおさがりなんか入りません。だいたい僕にはレインがいるので十分です」
「今日アレン機嫌悪いさ。俺なんかした?」
「ラビがいつも女の子連れて歩いているからだろ。まじ、通行の邪魔だからなんとかしたらいいよ。例えばラビがあたし達のところに来ないとか」
「…2人ともひどいさ。それよりレインにおみやげさねー」
「あーシェイクー!」
渡されたのは駅前のファーストフード店のシェイク。これは美味しいって有名で昨日レインが飲みたいとラビにものすごくだだをこねていた品物だった。レインのご機嫌は一気に最高潮になるし、その様子に当たり前のようにラビは笑ってレインのシェイクを飲む様子を見ていた。一口飲んで幸せそうな顔をするレインは子供っぽい。まるで頭に猫の耳が生えているように今の気分が良くわかる
「レイン、そんないっぱい飲むとお腹痛くなりますよ?」
「大丈夫ーアレン、おいしいよ。はい!」
髪直してくれたお礼って、レインに差し出されたシェイク。彼女の行動に驚いているのはラビ。レインはとても食べることが大好きな女の子で、いつも人のものまで取って食べるような感じだからおいしいものを人にあげるところを見るのは神田の笑顔を見る(僕は見たくありませんが)くらいめずらしいことだと言われている。でもそんなことないことは幼なじみの僕だけが知っている。レインが大好きなケーキ屋さんに連れて行ってくれたり、おいしいものは半分くれたりする
「な、な…レインがシェイクあげてるさ…」
「おいしいもん。アレンにあげるのは当然」
「なんで!?レインのために買ってきたんよ!?」
「あたしのもんなんだからどうしようと勝手でしょー」
レインは“おつかいご苦労!”と満面の笑みで一蹴し、ラビは何ともいえない表情をした後僕を見て“アレンは特別さね”と、つぶやいた
「幼なじみなんですから当たり前です。たぶんラビには無理です」
例えどんなに仲良くなっても、これだけはしてもらえないと思う。レインが食べ物をあげるのは敬愛のしるしであり、最大級の愛情表現だと思う。もちろん恋愛感情ではなく家族愛。だからこそラビには無理なのだ。
「ラビ」
「ん?」
「あげませんよ」
「いらないさ。レインの笑顔見れればそれで十分さ」
「それは世話係としてですか?」
「どうなんかねー。わからんさ」
とラビはレインの頭を撫でたら引っかかれてしまった。せっかく綺麗にしたのに暴れたら台無しだけど、元気だから良いかなと思う。それが君が1番綺麗で1番輝いている部分だから。レインがこの学校に来てラビと出会って、確実に世界は動いた。少なくともラビと僕の世界は混じってドロドロだ。でもレインがいつまでも僕に食べ物をくれるなら、レインとラビの世界が変わっても、僕とレインの世界は変わらないって思っていても良いかな
((少年Aの見解と願望))
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