第4夜



夢を見た。漆黒の闇夜に映える鮮やかな赤。それは不思議と柔らかく、まるであの楽しかった頃を思い出さしてくれるかのように、ゆらゆらとあたしを照らしていた。あれは一体なに…?


第4夜 邂逅

〜満点の星空の中で〜




窓から差し込む明るい日差しで目が覚めた。まだぼーっとしてなかなか覚醒しない頭を覚ますかのようにティルキャンピーが尻尾で顔をばしばしと叩く。正直痛い


「わかった、わかった…起きるよー」


のそのそとベッドから出て、部屋に備え付けてあるシャワー室へ向かった。昨日アレンと別れた後リナリーが部屋にやってきて教団の色んな事を聞いた。部屋に1つずつシャワーがついてるらしいけど教団にはコムイさんの趣味(?)により“温泉”と言うものがあるらしい。なんでも東洋の人は熱いお湯に浸かる文化があるんだって。西洋には無い文化だ。リナリーも好きらしく“今度一緒に行こう”と誘われた。気になってはいるけどお湯に入るのは少し怖い。あたしがボイルされたりしないのかな、なんて思う

((この話アレン知ってんのかなー?))

そんなことを思いながらシャツに袖を通して、リボンをつけ、ティルキャンピーを連れて部屋を出た。行き先はもちろんお兄ちゃんのお部屋


「アレン、おはよー」

「おはようございます、レイン」


部屋に入るとシャワーから出たばかりなのか髪からぽたぽたと水滴が垂れているアレンが目に入った。部屋が少し汗の匂いがするから朝までトレーニングでもしてたんだろう、ティムキャンピーがあたしを見つけると飛びついてきた


「ティムキャンピー…どしたの?」

「あ、汗臭かったからですかね…さっきまでトレーニングしてましたから」

「もー!トレーニングは良いとして寝なよー。体に毒だよ?」


そう言いながらアレンの部屋の窓を開けた。アレンはあたしにはちゃんと寝るようにいつも言うくせに自分はちっとも寝ない。あたしだってアレンの体が心配なのにあたしの心配ばっかりだ。嬉しくもあるけど…複雑だったりする


「もうちょっと自分の体も大事にしてよね!」

「すみません。今日はちゃんと寝ます」

「よろしい!じゃあさ、ご飯食べにいこ!ここのご飯美味しいってリナリー言ってたよ!」


“いっぱい食べよ”って笑顔でアレンの手を引っ張るとアレンはびっくりした後すぐに笑って強く握り返してくれた。そのまま2人で手をつなぎながら食堂めがけて駆けていく


「うわーひろいねー」

「そうですね…」


昨日リナリーに案内されたにも関わらず相変わらずの広さにアレンと2人で呆然としてしまう。ちなみに部屋からずっと手をつないだまま。途中で離れるかなと思ってたけど廊下ですれ違った他の教団の仲間さんに“仲良いね。兄妹?”とか“新入り!頑張れよ”とか“君かわいいねー”とか言われるうちにアレンの手を握る力がどんどん強くなっていって、結局食堂まで手は繋がれたままになっていた


「レイン、あそこで注文するみたいですね。並びましょうか?」

「あ、うん…」


なんだかちょっぴり恥ずかしくなってアレンの顔を見たら素敵な笑顔と黒いものが一瞬見えたから何ともいえない…しょうがなくそのまま列に並んで順番を待った

((何食べようかな…))

あたしはアレンより食べれないからなぁなんて思っていたらあたし達の番になった。受付ではジュリーさんって言う料理長さんが注文を受けていた。出てくる料理が美味しそう!


「アレンーおなか空いたぁ」

「そうですね」

「あらん。あなた達が新しくはいった新人さんね!あたしなんでも作るわよ!」


ジュリーさんのキャラはインパクト大だけどご飯は本当に美味しそう!アレンは“なんでも”って言葉にここぞとばかりに注文してジュリーさんを唖然とさせていた


「全部大盛で」

「好きなものたくさん食べれるなんて幸せだね!」

「そうですね」

「…あんた達そんなに食べるの?」

「え、今のはアレンの分ですよ。あたしはアレンみたいにいっぱい食べれないんで“全部大盛で!”とか言ったことないし…」

「レインは本当に食べませんよね」

「そ、そうなの…じゃあ注文は?」

「んーと…オムライス!」

「はいはいオムライスね♪」

「それとアボカドサラダにコーンスープとジャーマンポテトとミートスパゲッティにアセロラジュースとティラミス3人前とみたらし団子10本!」

「レインやっぱり少食ですよね」

「「……………」」


にこにこ笑うのはあたしとアレンだけでジュリーさんを含め受付の周りは静かになってしまった

((一体なんなの?))

不思議に思っているとなんだか食堂が騒がしくなった。見ると昨日のポニーテールのお兄さん…確か神田、さんがなんだか揉めている。料理が出来上がってきたし早く食べたいから放っておきたいが隣にいたアレンがいつの間にか神田さんの隣にいて火花を散らしていた

((あちゃー…アレンあーゆーの見過ごせないもんなぁ…))

騒ぎの幾末を見守りながらご飯を食べ始めていたらアレンと神田さんを呼ぶ声が聞こえた。リナリーとあれは確か科学班班長のリーバーさんだった気がする!


「アレン!神田ー!話があるから10分後に室長室にきてくれー!」

「わぉ!10分後とかアレンこの量食べれんのかな…「いただきます」

「わっ!アレン!」


リーバーさんの言葉に独り言を言っていたらいつの間にか目の前にアレンが現れて目の前のご飯の山をどんどん減らしていった


「早く食べなきゃいけないのはわかるけど詰まらせないでよ?」

「ばいじょぶでふ!」

「はいはい。分かったから早くお食べ」


その後彼は見事10分であの量を完食したのだった

((身内ながらに恐ろしいわー))

ご飯を食べ終え、どうしようかと考えていたらリーバーさんに呼ばれて地下室みたいなとこに連れて行かれた。そこで見つけたのは神田さんとなんかコート着ちゃってるアレンお兄ちゃん。あぁ、これから出かけるんだってすぐに分かった。ぼーっとしていたらアレンがあたしに気づいて手を振ったから近づく


「レイン、僕これから初任務に行ってきます」

「うん、気をつけてね」


((寂しいなんて思っちゃいけない。昨日約束したんだから))

アレンをぎゅっと抱きしめて“いってらっしゃい”と笑顔で胸を押した。アレンも笑顔で“いってきます”と舟に乗る。あたしは舟が見えなくなるまでずっと手を振っていた


「行っちゃった…」

「寂しいか?」


リーバーさんが隣にきてあたしの肩を叩く。寂しい…だって初めての別れ、初めての別行動、無事に帰ってくるか不安でしょうがなかった


「俺もいつもそうだよ。エクソシストを見送るときは不安でしょうがない。だから帰ってきたら笑顔で“おかえり”って言ってやれ」


“おかえり”なんて久しぶりの響きだった。懐かしくてくすぐったい…マナとアレンと3人で過ごしていた時にアレンと2人で家に帰るとマナがいつも言ってくれた言葉だった

((おかえり、か…))

今度はあたしがアレンを待つ番なんだと思いながらリーバーさんに連れられて部屋へと戻る。しばらくは教団内をうろちょろしたり、リナリーと遊んだりしてたけど、やっぱり1人はつまらない。ティルキャンピーも心配なのかさっきから入り口から動こうとしなかった


「…ティルキャンピーお外行こっか?」


ティルを肩に乗せて外へ出た。もう夕暮れだったけどそんなの関係ない。外に出て駆け回るつもりだったけどたくさんのゴーレムに囲まれてなんだか監禁された気分で嫌だったけどしばらくすると綺麗な庭に着いた


「こんなとこもあるんだー」


色とりどりの木々や花々に囲まれたその庭は手入れが行き届いているように見えた。いつの間にか日も暮れて、木々の隙間から月明かりが見えた。なんか神々しいし、あたしはなぜか月を見るとテンションがあがる。こんなこと言うとアレンがいつも“レインは猫っぽいね”なんて言ってからかってくるっけ
なんだかおかしくなってきて歩き進めると一カ所だけ月に照らされた芝生が目に入った。光で青々しい芝生が生命力に溢れていた

((こーゆーの見ると寝たくなるなー))

背伸びをした瞬間、とてもきれいな赤と緑が目に飛び込んできた。その赤はゆらゆらと風に靡いて、緑は少しだけ小さくなった後またじっとあたしを映していた


「ここ、俺の秘密の場所なんさ」


“あんた誰さ?”赤くてきれいな髪を持った男の子は近づきながらあたしに向けてそう言った。着ている服がさっきアレンが着て行ったコートに似ているからエクソシストだってすぐに分かった。だからあたしも男の子に近づいていく


「レインです。レイン=ウォーカー。昨日来たばっかりだったから教団を散歩してました」

「君がコムイ言ってた新人か。俺ラビ」


よろしく、と差し出された手を握る


「レインって呼んでもいい?」

「はい!」

「あ、俺はブックマンの後継者だからJr.って呼ぶ奴もいるよ。だから好きな方で呼んで欲しいさ」

「そうなんですか。じゃあラビさん」

「さんはいらねぇって、ついでに敬語もな。レインは今いくつ?」

「15歳だよ。ラビさ…ラビは?」

「今さんづけ仕掛けたさ?確かに俺の方が年上だけどさ。18だし」


“さん、とか柄じゃないしくすぐったいからやめて欲しいさ”なんて笑うラビは太陽みたいに輝いてた。夜で真っ暗なはずなのにラビだけが明るい。この人の人柄故なのかなとか思う


「そーそーレインちゃん、コムイが探してたさ!」

「…あたしを?」

「そうさ。なんか身体検査をさせて欲しいんだってさ」


身体検査?なんでかな、昨日イノセンスの話をした時にコムイさんはあたしの髪に興味を持ってたからそのことかな、と思いながらラビの後をついて行く。ゆらゆら揺れる赤い髪は本当に綺麗。ちょっとだけ触れたくなった


「検査って何ですか?」


ラビに連れられてコムイさんの所にいくと、様々な検査器具を持ちながらコーヒーを飲むコムイさんの姿があった。ちょっと怖い


「レインの瞳、綺麗なオッドアイだよね」

「あ、はい。ありがとうございます」

「オッドアイって別名虹彩異色症とも言って、聴覚障害とかが合併症としてあるんだ」

「あたし耳聞こえますよ?」

「一応、ね。検査はすぐに終わるし…それからレインちゃんの髪、アレンくんみたいに白いに近いけど…」

「これは生まれつきです。アレンのは呪いだけど、あたしは前からこんなんで…」


オッドアイで白髪に近い髪だったから、よく白い目で見られたりしてたけど…アレンとマナに出会ってから、少しずつこの瞳も髪も好きになりかけてた


「綺麗な銀髪だよね。ちょっと検査するからね」

「…はい」


コムイさんに検査を受けてる途中、ラビはずっとあたしのことを見ていた。視線がすごく気になったけど、昔みたいに嫌な感じはなかった


「レインの髪、すっごく綺麗さ。プラチナみたい」

「地毛なんだけどね」

「アレンっつったっけ?あっちは呪い、らしいね」

「そうだね。アレン白髪なの気にしてるからあんまり言わないでね」


ラビにしーっと言うポーズをとるとわかったさ、とちょっと俯きながら返事が返ってきた。なんでそっぽ向くんだろうと思ったけど、あんまり気にしないで置くことにした。そんなことよりアレンについて分かってもらえればそれでいい。アレンは好きで呪いを受けた訳じゃないんだから


「はい、検査終わり。異常はなかったよ!健康健康!」

「ありがとうございます」


アレンについて考えていたらいつの間にか検査は終わっていて、結果は健康体だった。よかった何にもなくて、何かあったらアレンに心配かけてしまう。お疲れ様ってリナリーがレモネードを入れてくれた。口に含むと甘酸っぱい味が広がる

これからあたしが身を投じる世界はこんなに甘くないんだろうなと思って少し悲しくなった



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