第1夜


幼い頃の記憶と言えば、これといって、思い当たるふしがない。何時も暗闇でひとり。辛くても、寂しくても、誰一人助けてなんかくれなくて孤独だった。でも今は目を開けると私に笑顔で話しかけるアレンとマナがいた


第1夜 双極

〜2人のエクソシスト〜


ここはとあるインドの何処か。そのホテルの一角に3人の人の姿があった。1人は大人で偉そうに椅子に座り、ワイングラスの中にある酒を転がしている。彼の名前はクロス・マリアン。あとの2人は子供で同じ年くらいの男の子と女の子。男の子の名前はアレンと言った。真っ白な白髪に左目に傷があり、左右手の色が異なる。一方の女の子はレインと言った。白に近い銀髪で左右目の色が異なるオッドアイで薄い布を纏っていた。2人は先程の男性と打って変わって床に正座をさせられていた


「アレン、そしてレインよ」

「はい」

「なんですか師匠」


クロス師匠が徐に私達に話しかける


「お前等が俺の助手になってもん3年、そろそろお前等も一人前になってきた頃だ…」


何を思ったか呟くように話す師匠。正直気味が悪いと言うより何をされるか分からなくて…怖い

((きっとアレンも同じ事を考えてるんだろうなぁ…))

私は何を言われるか期待20%と不安・恐怖100%を抱えながら話に耳を傾けた


「今日から正式にエクソシストと名乗ることを許す」

「えッ!?」

「本当ですか!?」


アレンも私同様驚きが隠せないらしい、聞いた瞬間2人で顔を見合わせて笑った


「だが、そのためには俺と共に本部へ挨拶に行かなければならん」


と、いきなり立ち上がり私達の目の前に立つ師匠。妙な威圧感があるんですが…

((いやな予感…))


「お前等…本部の場所は知ってるよな?」

「…はい?」


予感的中…?しかも金槌て…


「俺のゴーレム代わりに置いてってやる」

「いや、あの、師匠?」


近付いてくる師匠、それに比例して後ず去る私とアレン…


「コムイと言う幹部にも紹介状を送っといてやるから…」

「ひぁ、ちょっとマジやめて…下さ…」

「目が覚めたら出発しろ」

「まさかバックレる気ですか師匠!?」

「俺本部嫌いなんだよ」

「ひゃあー!!」

「レインー!!」


叩かれた直前、アレンの声が聞こえた気がした


「ふあッ!!」

「どうしたんですかレイン!?」


最高に最悪な悪夢を見て目を覚ました


「大丈夫ですか?汗だくですよ?」


アレンが心配そうに私の顔を覗きこんできた。クロス師匠のゴーレムのティムキャンピーも心配なのかアレンの肩に乗り私の様子を伺っている


「だ、大丈夫…ちょっと思い出しただけ…」


ここは街の中、今は大道芸の方馬車にのせて貰ってエクソシストの総本部【黒の教団】へいく道中で、馬車が余りにも気持ちよく揺れてくれるからうとうとしていたのに…なのに!寝ると3ヶ月前に師匠にされたことを思い出して寝れない…


「本当に大丈夫ですかレイン?」


ふと横をみるとまたアレンが心配そうにしていた。ティルキャンピーも私の目の前をパタパタと飛んでいる。ティルキャンピーも師匠のゴーレムでティムと同じ金色でティムとティルは双子の様なものらしい。ティルはティムの様に映像保存機能は無いもののお互いに引き合う力を持っている。まるで双子の様に。今だ心配そうにしているアレンに私は笑いかけた


「大丈夫だよ、ただ師匠が…」

「あぁ、師匠が…」


私がやられたあとアレンも同じ様に金槌で叩かれたらしい。2人で思い出しては師匠の事で凹んでいた。しばらく馬車に揺られながら物思いに更ける私達。ティムがうろうろと飛び回るのをぼーっと眺めながら街を見る


「ティムキャンピー、あんまり飛び回るなよ。この間みたいに猫に喰われたらどうするんだ」


あまりにもはしゃぎ回るティムを呼び止めるかの様にアレンは言った


「ティムキャンピーは元気ね」

「ティルキャンピーはおとなしいのにね」

「怖がりなだけだよ」


そんな他愛もない話をしていたら突然、大道芸の人達が会話に入ってきた


「えー!?猫に喰われちゃったのー?よく助かったわねェ」

「その猫のお墓から出てきたんです」


アレン…もう少しさ、オブラートに包んで会話しよーよ。ピエロさんが疑問を浮かべた表情してるから。そんなピエロさんはバニーさんに押されて話を打ち切られてました


「英国には観光で?カップルさん」

「えッ///」

「私達はカップルじゃないですよ、兄妹なんです」

「あら、若々しいカップルだと思ったのに…それじゃあ双子か何かかしら?」

「そんな感じです」


そう、私とアレンは双子であり双子ではない。歳が近くて、同じ様に親に捨てられた境遇で…同じ日にマナに拾われて、いつも一緒にいたから双子同然なだけだ。それでも私はアレンのことを実の兄の様に慕っているんだ


「じゃあ双子の兄妹で観光なのね」

「いやちょっと…」

「挨拶に行くんです」

「「エクソシストの本部へ」」


揺れる馬車。膝を抱えて私の肩に寄りかかって寝ているアレンお兄様は汗だくで唸っている


「…大丈夫?」

「はっ!!」

「アレン?」

「(ゆ、夢か…まだ忘れられない…)」

「どうしたのー?うなされてたみたいだけどー?」


今度はアレンがうなされていた


「うー」

「本当に大丈…「「「AKUMAだ一一!!!!」」」


アレンの事が心配で話しかけようとした途端、誰かの叫び声で掻き消された


「「「アクマだぞ、殺される一」」」

「何事!?」

「な、何!?」


突然の事にびっくりして動けない私とうって代わってアレンはすぐさま馬車を飛び降りた


「乗せてくれてありがとう!」

「あらら!?」

「えッ!!ちょっとアレン!?」


呼びとめたけどすでに遠くに消えたアレン。あたしのことは眼中に無いのか!

((嘘でしょー!?))

仕方ないので私も馬車を降りてアレンのあとを追う


「ティルキャンピー、道案内よろしく」


アレンが方向音痴な様に私も方向音痴だからティルを頼りにアレンを追い掛けた。あんまり遠くに行ってないはずなのにアレンを私はまだ見付けることが出来ずにいる


「ティルキャンピー…」


肝心のティルは飛び回ってやる気ぜろ…あなただけが頼りなんでしっかりしてくださいよ

((あれ…?))

路地に入ると何やら人だかり


「そだ!!あの人達に聞いてみよっか」


((白髪の人なんて珍しいから印象強くて覚えてるよね?))

私は街の人達に聞きこみを開始した


「あのー…すいません」

「なんだい。お嬢ちゃん?」

「先程こちらに髪の白い、リボンネクタイをした少年を見ませんでしたか?」


この言い方なら誰に聞いてもアレンだってわかる言い方だよね


「あぁ、来たぜ。なんだいお嬢ちゃんの知り合いかい?」

「はい、そんなところです。何処へ行ったか分かりますか?」


するとスキンヘッドのお兄さんが出てきて


「さっきジャンと一緒にいたがな、分からねぇな」

「ジャン?」

「お嬢ちゃんは旅人さんかい?さっき叫び声が聞こえたろ?」


そう言えばAKUMAがどうとか言ってたかも…


「ジャンは悪魔だの騒いでは大人をおどかして遊んでんだよ」


あー…それで本当にAKUMAがいると思ってついてっちゃったのね。じゃあジャンって子を探せばアレンも見付かる可能性は高いみたい…


「あ、あの!!そのジャンって子の居場所教えて頂けませんか?連れがそちらにいるようなので……」


そういってなんとかアレンの居そうな情報をゲットした

((もー…アレンのばか!!方向音痴なんだから動かないでよ))

なんて思いつつ、お兄さん達から情報を聞き出して再びアレン捜索スタート


「ティルキャンピー、頼んだよ?」


目指すはジャンって子の家


「アレンいると良いけど…」


だんだん日が落ちてきたから…夜まで離れ離れとか嫌だし…すると突然遠くから悲鳴が聞こえた。悲鳴と言うか歓声に近い感じの声


「ティル…なんだと思う?」


ティルキャンピーに話しかけると答えるかのように尻尾をふりふりしている


「よし…行ってみよう!!」


アレンがあっちにいるかもしれない…でもあっちってさっきお兄さんから聞いたジャンって子の家がある方向のような…?何て考えてたら話声が聞こえてきた


「いつか俺もすげー科学者になってアクマを一瞬で消すような兵器を造んのが今のところ夢!」


この声って…さっき叫んでた子の声と同じ。慌て走っていくと


「いたッ!!」


やっとの思いでアレンを見つけた。疲れた…アレンは小さな男の子と一緒に歩いていた

((あれがジャンって子かな?))

ジャンって子は何やらアクマに興味があるらしくアレンにあれこれ質問をしていた

((アクマに興味があるなんて珍しいなぁ…))

なんて思っていたら突然アレンが話だした


「ジャン、あまりクビをつっこまない方がいい」


あ、あのこやっぱりジャンって言うんだ


「さっきアクマのことといい…これ以上伯爵の目に止まるようなことはやめるんだ、危険だよ」


((アレン…))

そのアレンの注意に気が障ったのか、ジャンくんはアレンに爆弾たるものを投げて行ってしまった


「足はやッ…」


てか靴にタイヤついてるし…


「ったく、知らないぞ」

「知らないはこっちのセリフだよ」

「レイン…」


涙を大量に流しているアレンのところまで駆け付けた。私のことなんかすっかり忘れていたらしく、かなりばつの悪そうな顔をするアレン


「いきなり行っちゃうんだもん…心配したよ」


ハンカチでアレンの涙を拭きながら言う


「ごめん…」

「別に…アレンのことだもん、あのこが心配だったんだよね」

「うん…なんで?レインはなんで分かったの?」


まだ涙目になりながら私に問掛けるアレン。笑ってアレンに


「だって、私達は双子でしょ?いつも一緒にいたんだから、アレンが何考えてるかなんてお見通し」


そう言って優しく笑えば安心したのかつられて笑うアレン


「そうですよね…僕達いつも一緒にいましたからね…双子ですからね」


まだ爆弾の効力が治まらないのかアレンは袖で涙を拭いた。ふと、さっきアレンがジャンくんに言ったことを思い出した


「“危険だよ”か…そう言えば私がエクソシストになるって言ったときにも同じこと言ったっけ」

「そうですよ。言っても聞きませんでしたが」

「にゃははー…でもおかげでずっと一緒にいれるじゃん!」

「そうですね」


私達は暫し懐かしい思い出を話し合った


「ところでレイン…」

「なぁに?」

「怒られついでに1つ…お願いがあるんですが」


お願い?アレンが私にお願いなんて珍し…あぁ、そっか


「さっきのジャンが気になって、それで…」

「“ジャンにもう1回あって話がしたい”でしょ?」

「え…なんで…」

「さっきも言ったじゃん、双子なんだから分かるって。それにあのこ…放って置いたら伯爵の勘に障るよ」


被害を増やしたくないのは私も同じだから…


「急ごう?日が沈んじゃう」

「うん」


私とアレンはジャンの家に向かって走り出した



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