お安くないのよ


「ねーねー洋服買いに行かない?」

バリンとお煎餅の割れる音がした。みんなで俺とはちの部屋に集まってテレビを見ている中、言葉を発したのは勘ちゃんだ

「洋服?」
「そうそう!せっかく女の子になったんだし女の子の服屋さん入ってみたくない?」
「おもしろそー!」
「えー俺やだよー!」

勘ちゃんの天然極まりない発言に意外な反応を見せるのは雷蔵でそれに対照的なのがはちだ。ちなみに俺らは普通の服を着ている

「えー行こうよ!」
「たまにはお外出たいよね」
「あ、雷蔵そーゆー意味なんだ」
「なぁに裕飛」
「いいえ、何にもー」
「ね、兵助は?」
「俺も面白そうだとは思う」
「私も」
「えーまじかよー」
「ほらほらはっちゃん4対1ー」
「な、まだ裕飛がいるからな!」
「俺入れても負けだろ」
「裕飛がいれば10人分だ!」
「何その計算」
「ねね、裕飛は?」

きょとんとした表情で勘ちゃんが近づいてくる。前屈みになっているせいか、服の間から谷間が見えてなんともわーお、みたいな状態だ
((普通なら襲うな))
しかし今の俺は普通ではない。襲ったところで武器もないのだ。まぁ、友達を襲ったりはしないけど。話が逸れたが、とにかく勘ちゃんは女の子の服が見たいらしい。女の子ってウィンドウショッピング好きだよね。精神まで女の子になってんだなってつくづく思うよ

「んー服ねぇ。俺あるしなぁ」
「さすが女装家」
「ぶっ飛ばすぞ。三郎」
「裕飛に傷物にされるなら本望…」
「ちょ、お前まじでやだ」

本当に気持ち悪いな。今鳥肌立ったわ。思わずはちにしがみつくとこっちに来いと三郎が両手を広げて、兵助に豆腐を投げつけられると言ういつものやり取りが垣間見れた

「裕飛衣装持ちだもんね」
「服好きだからなあ」
「雷蔵も兵助も俺が女装家だってやんわり肯定してない?」
「「してない」」
「…本当かよ」
「てかさ!」
「おほー?どうした勘右衛門」
「せっかくだから裕飛の服着て出掛けようよ!」
「え、出掛けることは決定なんです?」

はちと顔を見合わせて苦笑いすれば、そうだよーなんて勘ちゃんが笑った。これは行くしかないらしい

「まじかよ!俺やだよ!」
「はち、もう無理だって。雷蔵様が思いの外ノリノリだ」

“裕飛と三郎に服見繕ってもらおー”なんて勘ちゃんときゃっきゃっしてる雷蔵様に今更ダメなんて言えるはずもなかった。隣ではちが泣きそうな顔をしてるから、なんで嫌なのか聞いたら、小声で“男っぽいじゃん?俺”なんて言い出した

「どこがやねん」
「…なんで関西弁?」
「とにかくはちのどこをどう取っても女の子だよ。心配すんな」
「だって…」
「お前なぁ、そんなおっぱいして男に間違う男はぶぁかなんだよ!だいたい三郎を見てみろ!まっ平らだぞ!そこがいいけどな!」
「おや?褒められてるのに涙が」
「どんまい三郎ー」

泣いてる三郎は雷蔵に任せて、はちを説得するために“かわいいよ、八左ヱ門”って言ったら顔を真っ赤にした。かわいい

「照れた?」
「いい声で言うなよ!」
「いい声?ありがとう、バラの蕾ちゃん」
「うわーキザー僕、ちょっと引いたー」
「白百合の君の方がぐっと来ないか?」
「兵助、観点違う。勘ちゃんうるさい」
「私の方がうまく囁ける!裕飛、相手をしてくれ」
「三郎復活しないでよろしい」
「はやく出掛けようよ!」

雷蔵の一言で俺らは準備に取りかかった

「本当に裕飛の服着るのか?」

タンスから服を取り出して見ている中、はちがそう聞いてきた

「そうだよ、はっちゃん」
「裕飛の服じゃ小さ…げふん。サイズが合わないんじゃないか?」
「あー心配すんな。フリーサイズとかあるし。でかいのもあるから」
「…そうか」
「いい加減諦めろ」

てかお前制服でスカート穿いてるじゃんって言えば泣きながら“言うなよ!”って言われた

「んー雷蔵どうしよっかぁ」
「ガーリーな感じが良いんじゃないか?」
「あー良いかもね。んじゃこの花柄スカートにカーデ…」
「こっちのボレロは?」
「そっちがいいかな?」
「三郎も裕飛も楽しそうだね」
「「うん、楽しい」」

思わず三郎と声が揃って2人で笑ってしまった。三郎と話をした結果、雷蔵は女の子らしいガーリーに兵助は白いブラウスを基調として大人清楚のフェミニン系、勘ちゃんは緩くエスニック風に、はちは女の子っぽく尚且つかっこいいボーイッシュな仕上がりになった

「さて、俺らどうするよ」
「裕飛姫ギャルとかどうよ?」
「セクカワ?あーそれで行くわ。三郎はこのライダースどうよ」
「クールにな、分かった」
「なんか2人がコーディネートしてくれると早く終わるね」
「とにかく街にいこー!」
「勘右衛門元気だな」
「そうだな」

着替えも完了したことだし、待ちくたびれている勘ちゃんのかけ声とともに部屋を出て、門の前までやってきた。掃除をしている事務員の小松田さんに会うとちょっとびっくりしながら“お出かけですか?”って言われた

「うん。お出かけでーす」
「じゃあ、外出届ください」
「はい、人数分」
「…確かに。それじゃあいってらっしゃい」
「行って来ます」
「あ、裕飛くん達!」
「はい?」

校門を出た後小松田さんに呼び止められてみんなで振り向いた。そうしたら少しの間の後照れたような顔をした小松田さんが“皆さんかわいいです”なんて言ってくれた。ちょっと嬉しい

「ありがとうございます!行って来ます」
「いってらっしゃい!」

小松田さんに見送られて6人で街へ向かう。“なんだか服を着替えるといつもと違った感じで楽しいね”なんて隣の雷蔵がそう言った

「俺、かわいいって言われて嬉しかったなあ」
「私と裕飛がコーディネートしたんだ。当たり前だろう?」
「はっちゃん似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
「はちはかわいいなぁ。今度はメイクしてやる!」
「い、いいよ。女装の趣味ないから」
「おいこら」
「あはは!」

みんなで笑いながら歩いているといつの間にか街についた。今日も街はいつものように賑わってる。お目当ての服屋さんを見つけてみんなで見て回った後、三郎が“化粧品屋さんに入ろう”と言い出した

「僕も見るー!」
「俺は入れないなー」
「俺もいい」
「僕も待ってるよ」
「じゃあ私と勘右衛門と裕飛で見てくる」
「俺に拒否権はないんかい」
「いいだろ?見繕ってくれ」
「しょうがないな」

3人で店に入って見ていると何やら外が騒がしい。何かと思ってみてみれば、はち達が変な奴らに絡まれていた

「なんなんだお前ら!」
「君達かわいいじゃん。こんな所で何してんの?」
「友達を待ってて…」
「雷蔵答えちゃダメだって」
「なんでよー僕達の相手してよー」
「お前達と話すことなんかないのだ」
「クールで強気なとこもかわいいなぁ。遊ぼうよ、なぁなぁ」

近寄って様子を伺えば完全にナンパされてる3人…
((確かにかわいいもんなぁ。俺だって放っとかないよ))
なんて思っているとはちが“俺達男だから!”なんて明らかに通じない事を言い出した

「八左ヱ門のばかー!通じるわけないだろう」
「そこがはちの素直でかわいいとこなんだけどね」
「愛すべきばか、だね」
「そうだね。とにかく助けなきゃ!」

そう言って3人で囲まれている仲間を助けに行った

「俺の連れになんか用?」
「あん?」
「裕飛!」
「かっこいい登場!女子だけどね」
「うん。女子だけど」
「雷蔵、兵助…台無しだ」
「せっかく裕飛がかっこよく登場したのに」
「あーもー!とにかく!こいつら俺らの連れなわけ。どっか行ってくんない?」

((これで決まった!どっか行け!))
と思いながら、睨みを効かせていると、突然目の前にいた野郎がしゃがみこんで俺の手を取った

「ずっと会いたかったぜ」
「は?」
「初めてあった時から気になってたんだ。俺と付き合ってくれ」
「いや、え…」
「困った顔もキュートだね。バラの蕾ちゃん」

鳥肌が立った

「あらー…」
「きゃー!」
「きゃー!じゃないよ雷蔵」
「さっきの完全にフラグだったな」
「に…」
「に…?」
「逃げる!」
「「「「「裕飛!?」」」」」
「あぁ!バラの蕾ちゃん!」
「ついてくんなぁ!」

とにかく逃げるので必死で他のみんながいつの間にか部屋に帰っていたのも知らずに、俺は街を何周もしてキモイ男から逃げ回った
((俺男だし!女の子だけど男だし!))



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