練習試合当日。バスの中は大変なことになっていた。日向くん、寝れなかったらしくてバスの中で吐いて…途中休んだりしたから体調少しは良くなったって言ってるけど、田中くんがプレッシャーかけるからまたトイレに駆け込んで行った
「田中くんプレッシャーかけちゃだめだよ」
「プレッシャーになったのか?」
「そうだよ」
なんて話をしながら歩けば、前方から話し声がする。なんでも清水先輩が美人って話みたい。確かに清水先輩美人だよねーなんて思ってたら“ガラの悪い奴が居たなーボーズで目つき悪くてさー”なんて聞こえる。これ、完全に田中くんのこと…なんて思ってたら、曲がり角に顔を出した田中くん。そしてぞろぞろと曲がり角から出て、青城を威嚇し始めた。やばい、止めないと
「もうっ!だめだったら、そんな顔したら!蛍も止めなさい!相手方がびっくりして試合怖じ気ついたら面白くないでしょ」
「花ナイス」
「姉さんも相当なこと言ってるよ」
「うん?」
そんな中、澤村先輩がやってきて、田中くん達が叱られた。私も“月島がついてるのにだめじゃないか”って言われてしまった
「…久しぶりじゃねーの王様」
田中くんが威嚇の表情をしているのを止めた時に、青城の人からそう言われた影山くん。“烏野でどんな独裁政権敷いてんのか楽しみにしてるわ”なんて煽られ、田中くんが拳を握っているのを澤村先輩が止めていた。そんな皮肉めいた煽りを受けた影山くんだったけど“…ああ”と一言だけ返す。大人になったね。田中くんと菅原先輩が影山くんの背中を叩いたのをみてクスリと笑った。そしてアップも終わり試合開始前、ますます緊張している日向くん…どうしようかと様子を見ていれば、澤村先輩に一言と言われていた清水先輩が“期待してる”なんて一言を日向くんに浴びせたからさー大変!日向くんが爆発した
((清水先輩がトドメ刺した))
こう言うときってマネージャーのフォローって大事だけど難しいよね、なんて思いながら、ちょっと試合を抜け出し、水を汲みに行った
「試合、大丈夫かな?」
「どーしたの?」
「え?」
ポツリと呟いた言葉だったからまさか反応が返ってくるとは思わなくて、びっくりして振り向けば、そこには男の人…着てるジャージは青城のものだから青城の人かな?
「何してるの?」
「えっと、ドリンク作りです」
戸惑いながらもそう言えば、その人はニコッと笑った。だから私も釣られて笑うと“笑顔がかわいいね”なんて言われた。嬉しいけど、何なんだろう?
「君、烏野のマネージャーかな?」
「あ、はい!そうです」
「さっき烏野のマネージャーに話かけたらガン無視されたからさー…」
「あ、そう…なんですか…先輩はクールだから…」
「君は愛想いいんだね」
愛想いい、悪いの問題かな?なんて思いながらドリンクを作っていれば“手伝うよ”と声が聞こえる
「あの、えーっと…」
「及川徹」
「お、及川さん選手ですよね。そんな方にマネージャーの仕事手伝わせるわけには…」
「いーの、僕が手伝いたいんだから。ね?」
そう言って笑われると何も言えないわけで…“ありがとうございます”と控えめにお礼を言ってさっさと作業に取りかかる。みんながドリンク待ってるからね。でもこんな敵に塩を贈るような真似していいのかな?とも思った
「ねぇ」
「はい?」
「携帯、鳴ってるよ」
「え?」
言われてポケットを見れば携帯がなっていた。多分メール。見ようかと思ったけれど部活中だと思ってやめた。相手は分かってるし、メール内容も大体わかる。応援の一言だ
「…みないの?」
「はい。部活中ですし…」
そう言えば、及川さんはにっこりと笑った後、“僕にもアドレス教えて?”なんて言うからびっくりだ
「え、えっと…」
「ダメかな?烏野とは仲良くしたいからさ、架け橋になって欲しいんだよね。君に」
「そ、それでしたら…でも今は部活中ですから」
「堅いなぁ。でもそんなところもかわいいよ」
なんて頭を撫でられて調子が狂う。“じゃあ後で聞きに行くね”と言って及川さんは作ったドリンクを半分持ってくれた
「あの、その、ドリンクっ!」
「重いでしょ。それに行く場所は同じなんだから」
今日何度目かの笑顔に流されて2人で体育館に行けば試合はかなり進んでいた。うちが勝ってるし嬉しい。及川さんと別れた後、チームの輪に入れば、清水先輩が“遅かったわね”と声をかけてきた
「す、すみません」
「いいの。その、大丈夫だった?」
「えと、何がですか?」
「…何にもなければいいの」
清水先輩の声は黄色い声援にかき消されてよく聞こえなかったけど、及川さんを見た田中くんがキレかかってる。影山くんが言うには及川さんは超攻撃的セッターで中学の先輩らしい。あのすごいサーブもブロックも及川さんを見て参考にしたらしい。試合は進み烏野のマッチポイント、やって来るのはピンチサーバーの及川さん。実力、どれくらいなんだろうと思って見てれば及川さんと目があった気がした
「いくら攻撃力が高くても…その【攻撃】まで繋げなきゃ意味無いんだよ?」
そう言って蛍を指差す及川さん。次の瞬間、圧倒的力のサーブが蛍を襲った。さっきのは【宣言】か…
「…うんやっぱり、途中見てたけど、6番の君と5番の君、レシーブ苦手でしょ?1年生かな?」
「うっ!!」
影山くんの、いや、それ以上の威力に加えて、ほぼ宣言通りに打つコントロール…すごい、及川さん。でも、打つ前に必ずこっち見ているような気がする…なんて思っていると日向くんが“バレーボールはなあ!ネットの【こっち側】に居る全員!!もれなく『味方』なんだぞ!!”なんて素敵な一言を発していた。そしてその一言から澤村先輩が後ろに下がり守備範囲を広げた。それでも蛍を正確に狙う及川さんはすごいと思う。蛍のレシーブは上がったけれど、ネットを越えてチャンスボールになる。そして青城のアタック…それをワンタッチした日向くんのボールは一歩、一瞬…ほんの少しでも遅れれば捕らえきれない日向くん。追いつけるのはボールだけなんだ
「へぇ…!!」
そして試合は2-1で烏野が勝った
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