05


確かに、田中くんの方にトス上げようとしたのに、影山くんは日向くんの声と動きに反応して正確なトスを出した


「影山くん、すごい…」


そんなことを思って呟けば、隣の菅原先輩も焦ったような、それでいて嬉しそうな顔をした。そしてコートの中では何やら揉めている。そしてそんな中の蛍の煽り、だ


「人には向き不向きがあるんだからさ」


それは自分に言っているようにも聞こえて、何だか胸が痛い


『花!』

『花、高く!』


「…っ!」

「…確かに中学ん時も…今も…おれ跳んでも跳んでもブロックに止められてばっかだ」


日向くんが語る横で影山くんが日向くんを見た。バレーボールは【高さ】が重要な競技、いくら日向くんが高く跳べても圧倒的な身長差は埋まらない。だけど憧れちゃったら関係ない。そこに向かって突き進んで、不利とか不向きとか関係ない


「この身体で戦って、勝って勝って、もっといっぱいコートに居たい」


“まだコートに立っていたい”誰にだって思うこと、けれども簡単な様で難しいこと。少し考えた後蛍は“…だからその方法が無いんでしょ。精神論じゃないんだって【キモチ】で身長差が埋まんの?守備専門になるならハナシは別だけど”と皮肉を口にした。話を聞いていてしばらく考えていた影山くんはいつしか顔つきが変わり決意した表情になる。そして…


「…スパイカーの前の壁を切り開く」


ずいっと前に1歩、日向くんの隣に来て“その為のセッターだ”と口にした

((決めたみたいだね…))

そしてなんやかんやで試合がまた始まる。とにかくやってみる、でした結果は散々で、見ていて痛々しい。それでも頑張る2人を見て、菅原先輩が動き出した


「それじゃあ中学の時と同じだよ」

「…日向は機動力に優れてます。反射・スピード…ついでにバネもある…慣れれば速い攻撃だって…」

「日向のその【すばしっこさ】っていう武器、お前のトスが殺しちゃってるんじゃないの?」


確かに日向くんには技術も経験も無い。中学で影山くんにギリギリ合わせてくれた優秀な選手とは違う。もっとこう、持ち味を生かした戦略があるはずだと私も思った


「ズバ抜けたセンスとボールコントロール!そんで何より…敵のブロックの動きを冷静に見極める目と判断力…俺には全部無いものだ」

「菅原先輩…」


悲しそうに、それでも熱く“仲間の事が見えないはずがない!!”と語る菅原先輩。そんな様子を見て、影山くんは再び考え込んだ


「…俺は、お前の運動能力が羨ましい!!」

「はっ!?」

「だから能力持ち腐れのお前が腹立たしい!!」

「はああっ!?」

「それならお前の能力、俺が全部使ってみせる!」


さっきの日向くんの言葉が響いたんだろうか、決意をした影山くんはこう言った


「とべ、ボールは俺が持って行く」


その言葉の真意は、日向くんはただ、ブロックの居ないとこにMAXの速さと高さで跳ぶ。そして全力スイングし、影山くんのトスは見ないし、ボールに合わせないと言うものだった。かなり無謀な賭けに近いトスだけど2人なら出来そうな気がした。そしてすごい集中力で影山くんのトスは日向くんの手に当たる。その時おかしくいことに気づいた


「すが、わら、せんぱ…日向くん今、目瞑ってました」

「え…」


100%他人を信じるなんて出来るわけがない。しかも因縁の相手に。でも彼は“信じる以外の方法がわかんない!!”と言い切った。きっと影山くんにとってこれほど嬉しいことはないと思う

((良かったね影山くん、仲間が出来て))

涙ぐみながら試合を見れば、トスの精度がどんどん上がり、アタックも決まっている。田中くんも頑張ってるし、すごく楽しそうにしているなぁ。隣を見れば菅原先輩も“2人共楽しそうだね”なんて笑った。そして試合には見事勝ったのだった。互いが互いの能力を最大限に引き出す。すごいコンビが出来て嬉しいな。あの…2人みたいだ


「…早く帰ってきて」

「姉さん?」

「あ、蛍。お疲れ様。はい、ドリンク」

「ありがと。てか今何か言って…」

「月島!」


名前を呼ばれて、蛍が振り向き、日向くんが手を出す。握手だ。仲間なんだからちゃんと握手しないとね


「蛍、握手してあげたら?」

「嫌だよ」

「お姉さんもそう言ってるだろ!」

「軽々しく姉さんのこと呼ばないでくれる?」

「月島…シスコンなのか?」

「…はあ?」

「あはは!」


クスクス笑えば、蛍はますます顔を歪ませた。これから仲良くなっていく様を私は見ていくよ。蛍も意外と本気出してくれてたし、安心した。そんな中、日向くんと影山くんが入部届を出した。そして清水先輩が澤村先輩に呼ばれ、運ばれてくるダンボール。中にはジャージ…ジャージ姿の4人が眩しい


「これから、烏野バレー部としてよろしく!」

「…おす!!!」


みんなでわいわい騒いでる中、端で澤村先輩がため息をついた


「どうしたんですか?」

「スガも田中も月島もなんか色々やってくれたんだろ?」

「わ、私は別に…」

「取り敢えず丸く収まってよかった…ありがとうな」


そう澤村先輩が言えば、目を見合わせた菅原先輩と清水先輩が“おつかれ”と澤村先輩の肩を叩いた。それにクスクス笑っていれば、すぐに日向くんと影山くんが練習を始めた。そんな時に慌ただしくやって来たのは顧問の武田先生だった


「練習試合!!!相手は県のベスト4【青葉城西高校】!!」


条件は【影山くんをセッターとしてフルで出すこと】だったし、田中くん同様に何だか菅原先輩がいたたまれない感じになったけれど、私も見てみたかった。あの速攻がどれだけ通用するのかを…2人の烏野に来て初めての正式な人数でやる試合だったから。練習終わり、そっと近所の公園に足を運んだ


「久しぶり」

「…おう」


そこにいたのは私の小さな守護神


「部活終わったのか?」

「うん、終わったよ。練習?」

「ああ。動かないと身体鈍るからな!」

「…対人アタックしようか。私じゃあまり出来ないけれど」

「いや、お前のアタックすげえよ」

「ありがとう。じゃあ行くよ」


ボールを天へ放り投げて、アタックすると、トン、と言う音の後、緩やかにボールが私の方に帰ってくる。その後しばらくレシーブ練習をして、今度の試合の話をした


「見に行けねえけど頑張れよ!」

「いや、頑張るのはほら、みんなだし」

「マネージャーだってメンバーだ!」


清々しく言う君が眩しい。いつだって君は真っ直ぐで、曇りがないんだから


「…勝ってくるね」


そう言って笑えば“おう!”と言われた。帰り道の夕日が少し、眩しくて、君の顔が見えなかった





prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -