04


試合前日、最後の練習。澤村先輩にお願いしてまた2人の様子を見にドリンク片手に外へ出た。すると2人のはずが何故か4人の集団になっていた。その中の1人はずば抜けて背が高い。見覚えのある背中だった


「蛍」


名前を呼べば一瞬目を見開いたその子はすぐに目を伏せた。そして“何、姉さん”と私に向き直る


「ね、姉さん…?」

「あー花さん!」

「山口くんこんばんは。帰りかな?」

「はい!」

「気をつけて帰ってね。…蛍も」

「月島…もしかして…!」


はっとした表情の影山くんににっこり笑いかけて“弟だよ”と伝えれば、日向くんが“えー!似てない!”なんて叫ぶ


「花さんはツッキーのお姉さんなんだぜ!マジすげー美人なんだぜ!」

「なんでお前が自慢してんの山口」

「ごめん、ツッキー」

「美人じゃないよ。でもありがとう。2人とも明日試合なんだからそろそろ帰ろうね。影山くんと日向くんも切り上げたら?ドリンク持ってきたから」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

「…姉さん」

「なあに?」


ドリンクとタオルを配っている様子を見ていた弟は“いつもそんなことしてるの”なんてつまらなそうに聞いてきた


「マネージャーなんだから当たり前でしょう」

「ふぅん」

「ほら、もういいから帰りなさい。私ももう少ししたら帰るから…」

「…分かった」

「気をつけてね」


そう言って小さくなる背中を見送った。翌日の土曜日、ついに試合が始まる。清水先輩が審判をするため、身の回りの仕事は私がすることになった。試合開始前、蛍に“姉さん”と呼ばれた


「蛍。どうしたの?」

「応援、してくれるよね?」

「そうだね」

「…何そのさっぱりした返事」

「どっちも応援したいからね」

「…なんでさ」

「チームになるんでしょ?」


そう言って笑えば、おもしろくなさそうに舌打ちをする蛍。本当にまだまだ子供なんだから。クスクス笑っていれば遠くから視線を感じた。田中くんだった。だから私は田中くんに“どうしたの?”なんて近づく


「ずいぶん仲よさそうだな」

「まぁね」

「言いつけてやろっかなぁー…花が1年生と仲良しだって」

「そんなんじゃないよ。まぁ、言いつけても何も思わないよ、きっと」

「そんなことねえよ。だって…」


田中くんが何か言い掛けたとき清水先輩が笛を吹いた。ついに試合のスタートだ。だからあたしもコートの外に出る。すると蛍が3人を煽った。あー本当に性格悪いなぁ、なんて思ってハラハラしながら見ていれば、隣の菅原先輩に“弟くんすごいね”なんて言われて思わず苦笑い。それから、田中くんがきゃっきゃうっふした声を出した後“摺り潰す”と宣言していた


「田中くん怒らせるのは得策じゃないですよね…」

「うん…そうだね」


そして試合は進み、日向くんにもトスは上がる。それは嬉しいことだけれど、田中くんみたいに決まらない。まだ発展途上の日向くんには、ブロックを跳ね返す程の力がないからだ。そして加えてメンバーに入っている澤村先輩。圧倒的守備力でサーブも決まらない。そんな中、蛍がまた、影山くんを煽った。【王様】の名前の由来


「自己チューの王様。横暴な独裁者」

「…蛍っ!」

「あの試合、姉さんと見てたけど…横暴が行き過ぎて、あの決勝、ベンチに下げられてたもんね」


そう、あの試合は影山くんにとって辛い思い出。トラウマになってもおかしくない。影山くんも顔には出さないけど、トスを上げた時に相手がいないのは辛いと、口にする。そんな中、日向くんが“中学の時の話しでしょ?”なんて言うから笑ってしまった。そして日向くんの声につられるように、影山くんも速攻トスを上げる。ヘロヘロだったけど確かに決まった


「お前何をイキナリ」

「でもちゃんと球来た!!!」

「!」

「中学のことなんか知らねえ!!おれにとってはどんなトスだってありがたぁーいトスなんだ!おれはどこにだってとぶ!!どんな球だって打つ!!だからおれにトス、持って来い!!!」


日向くんの声が体育館中に響いた







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