01


その試合を見て何かを突き動かされることがあるだろうか。その試合を見て、勝ちたいと思う執念を燃やせるだろうか


「蛍」


目の前のテレビにかぶりつきながら見ている弟の名前を呼んだ。めんどくさそうにこっちを見て“何、姉さん”と言った


「紅茶、淹れたけど飲む?ケーキもあるよ」

「…飲む」


ぶっきらぼうに返事をする弟にくすりと笑いながら、テレビの近くまでティーセットを運んだ。テレビに映るのはバレーボールの試合、県予選の決勝…


「あのセッターの子、この前田中くんや先輩達が見に行ったみたい。確か、雪ヶ丘と北川第一の試合だったかなぁ。すごかったらしいよ」

「ふーん」


興味なさげにケーキを口に運ぶ弟、だけど視線はテレビから外れない。試合も佳境、このセッターの子、ピリピリしているな、なんて思ったその時だった


「あら…」


それは一瞬の出来事で、でも衝撃的な映像だった。そのセッターの子がどんな顔をしてるか見えないけれども、想像するのは容易かった


「…負けちゃったね」

「当たり前でしょ、あんな個人プレー」

「うん、まあそうかもしれないけれど…」


あの子はあの子の求めているプレーと周りの温度差が激しくて、だからうまくチームになっていないんだなって思った。だから春、新しい季節になった時は、いいチームに恵まれるといいなって思った


「ところでさ、蛍…高校はどこにしたの?」


そう言いつつティーカップを口に運べば、弟は私の顔を少し見た後“姉さんと同じ所”と呟くように言った。だから私も弟の顔を少し見ながら“そう…”と呟いた。そんな話をしてからしばらくが経ち、春。3年1組付近の教室の廊下を歩いていた。隣にいるのは同じ部活のマネージャーの清水先輩


「澤村」


澤村先輩を呼んだ清水先輩が入部届を手渡した。確かに年々入部人数が減少しつつあるバレー部、廃部になることはないだろうけれど心配だ。なんて思っていたら田中くんが“潔子さん今日も美しいっス!!”なんて言ってガン無視されていた


「田中くん相変わらずね…」

「おう!潔子さんは美しい、それは変わりない事実だからな」

「…そうね」


確かに清水先輩は綺麗なの、私なんか比べものにならないくらい。背だって高いし、スタイルもいい。うらやましいなぁ、なんて思ってたら、菅原先輩が“花ちゃんは綺麗よりかわいい系だからね”なんてフォローをくれた


「わ、私フォローして欲しかったわけじゃ…」

「なんだ、花…照れてんのか?」

「もー田中くんうるさい!」

「…私も月島さんはかわいいと思うわ」

「え!」


まさか清水先輩にまでそんなこと言われるとは思わなかったから、すぐに顔が赤くなるのを感じた。そんな真顔で言わないで欲しかった。清水先輩…


「ん…あれ…?…!コイツってもしかして!?」


他愛もない話で盛り上がっていれば、澤村先輩が声を上げた。入部届を覗いてみれば、【日向翔陽】と【影山飛雄】の名前があった。この名前って確か…


「とりあえず部活の時間だし体育館行くか。月島ついてきてくれ」

「あ、はい」


澤村先輩に言われて、清水先輩と離れ、3人について行く。体育館に行けば何やら騒がしい…てか田中くんなんで見下しながら入っていくのかな?だから女の子に怖がられるんだよ…なんて思っていけば、テレビで見たセッターの子と、端に小さな子がいた。澤村先輩が“影山だな”と言えば背の高いセッターの男の子が返事をする。そんな様子を見ながら体育館の中に入れば、澤村先輩達に圧倒されている男の子が見えた


「君も入部の子かな?」

「あ、はい!」

「じゃあみんなに挨拶しないとね、ほら、大きな声で!」

「お、オス!」


背中を小さく押すとその子も輪の中に入っていった。すると田中くんがその男の子を見て反応する。彼が日向くん、か…田中くんから話は聞いている。下手くそだけどガッツがあるって…澤村先輩の言うとおり2人とも烏野に来てくれたなんて嬉しいな、これからチームどうなるんだろう、なんて思っていた矢先だった


「互いがチームメイトだって自覚するまで部活には一切参加させない」


チーム作りは前途多難だ




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