09


今日の部活はいつもと違った。武田先生がコーチとして坂ノ下のお兄さんを呼んでいた。なんとあの、烏養監督のお孫さんらしい。すごい人が来たなぁと思ったら、烏野町内会チームとの練習試合が始まった


「夕、見てるの?」

「俺は…」

「なんだお前どうした」

「あっすみません、そいつはちょっと…」


烏養コーチに言われて町内会チームに入ることになった夕、なんだか背中が寂しそうだなって思った時に、日向くんが大きな声を出した。慌てて窓の外を見れば、東峰先輩が来ていた


「東峰先輩…」


烏養コーチに言われて体育館に入ることになった東峰先輩、夕とは目を合わせない。気まずいなと思ったときに今度はセッターを1人貸してくれと言われて、菅原先輩が歩き出す


「…俺に譲るとかじゃないですよね」

「…」

「菅原さんが退いて俺が繰り上げ…みたいの、ゴメンですよ」

「…俺は…影山が入ってきて…正セッター争いしてやるって思う反面どっかで…ほっとしていた気がする。セッターはチームの攻撃の“軸”だ。一番頑丈でなくちゃいけない。でも俺はトスを上げることに…ビビってた…」

「…」

「俺のトスでまたスパイカーが何度もブロックに捕まるのが恐くて、圧倒的な実力の影山の陰に隠れて…安心…してたんだ」


菅原さんの悲痛な思いと“もう一回俺にトス上げさせてくれ、旭”と言う決意が伝わってきて涙が出た。そしてエースとの対決が始まった。そして、私は一カ月前の3月ことを思い出す。何度も何度もブロックに止められた東峰先輩と、何度も何度もブロックのフォローをした夕、学校に帰り“ブロックのフォロー…全然出来なかった…!!”と嘆く夕に東峰先輩の怒りが爆発して、ケンカになってしまった。あんな温厚な東峰先輩が怒るのも、夕が突っかかるのも見るのが辛かった。そして次の日…


『夕、夕まってよ!』

『昨日なんで部活来なかったんですか』


私の制止も聞かずに、夕は東峰先輩のところにいって、“アンタはまたスパイク決めたいって思わないのかよ!!”と叫んだ


『夕、落ち着いて、ね?』

『花は悔しくないのかよ!』

『っ…!』

『廊下で騒ぐんじゃない!』


夕の言葉にたじろいでいれば、東峰先輩が去ろうとしている、それを慌てて追いかければ、割れ物が割れる音がした。そして夕は謹慎処分、私は…


『東峰先輩っ夕は悔しかったんです。別に先輩を責めたい訳じゃ…』

『ごめんな、花ちゃん』


掴んだ腕を振り払われた。涙で滲んで見えなくなった東峰先輩をただただ俯いて、しゃがみ込んで、泣いて、引き裂かれた2人を見るしか出来なかったのに…


「…思うよ」

「?」

「何回ブロックにぶつかっても、もう一回打ちたいと思うよ」


東峰先輩の言葉に涙が出た。そして夕も嬉しそうな顔をした。日向くんのサーブ、ネットインしたボールを最後に打つ東峰先輩、ブロックに跳ね返されたとき、夕がレシーブを繋いだ。そして


「だからもう一回トスを呼んでくれ!!エース!!!」


言葉が耳に残った。溢れる涙で視界が歪む。隣にいた清水先輩に“大丈夫?”と声をかけられる。そして、東峰先輩の大きな声、ふわりとエースの元へ運ばれるボール、そして打ち抜かれた壁


「やった…!」


エースに集まってくるみんなは笑顔で、また涙が溢れた






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