今日の部活はいつもと違った。武田先生がコーチとして坂ノ下のお兄さんを呼んでいた。なんとあの、烏養監督のお孫さんらしい。すごい人が来たなぁと思ったら、烏野町内会チームとの練習試合が始まった
「夕、見てるの?」
「俺は…」
「なんだお前どうした」
「あっすみません、そいつはちょっと…」
烏養コーチに言われて町内会チームに入ることになった夕、なんだか背中が寂しそうだなって思った時に、日向くんが大きな声を出した。慌てて窓の外を見れば、東峰先輩が来ていた
「東峰先輩…」
烏養コーチに言われて体育館に入ることになった東峰先輩、夕とは目を合わせない。気まずいなと思ったときに今度はセッターを1人貸してくれと言われて、菅原先輩が歩き出す
「…俺に譲るとかじゃないですよね」
「…」
「菅原さんが退いて俺が繰り上げ…みたいの、ゴメンですよ」
「…俺は…影山が入ってきて…正セッター争いしてやるって思う反面どっかで…ほっとしていた気がする。セッターはチームの攻撃の“軸”だ。一番頑丈でなくちゃいけない。でも俺はトスを上げることに…ビビってた…」
「…」
「俺のトスでまたスパイカーが何度もブロックに捕まるのが恐くて、圧倒的な実力の影山の陰に隠れて…安心…してたんだ」
菅原さんの悲痛な思いと“もう一回俺にトス上げさせてくれ、旭”と言う決意が伝わってきて涙が出た。そしてエースとの対決が始まった。そして、私は一カ月前の3月ことを思い出す。何度も何度もブロックに止められた東峰先輩と、何度も何度もブロックのフォローをした夕、学校に帰り“ブロックのフォロー…全然出来なかった…!!”と嘆く夕に東峰先輩の怒りが爆発して、ケンカになってしまった。あんな温厚な東峰先輩が怒るのも、夕が突っかかるのも見るのが辛かった。そして次の日…
『夕、夕まってよ!』
『昨日なんで部活来なかったんですか』
私の制止も聞かずに、夕は東峰先輩のところにいって、“アンタはまたスパイク決めたいって思わないのかよ!!”と叫んだ
『夕、落ち着いて、ね?』
『花は悔しくないのかよ!』
『っ…!』
『廊下で騒ぐんじゃない!』
夕の言葉にたじろいでいれば、東峰先輩が去ろうとしている、それを慌てて追いかければ、割れ物が割れる音がした。そして夕は謹慎処分、私は…
『東峰先輩っ夕は悔しかったんです。別に先輩を責めたい訳じゃ…』
『ごめんな、花ちゃん』
掴んだ腕を振り払われた。涙で滲んで見えなくなった東峰先輩をただただ俯いて、しゃがみ込んで、泣いて、引き裂かれた2人を見るしか出来なかったのに…
「…思うよ」
「?」
「何回ブロックにぶつかっても、もう一回打ちたいと思うよ」
東峰先輩の言葉に涙が出た。そして夕も嬉しそうな顔をした。日向くんのサーブ、ネットインしたボールを最後に打つ東峰先輩、ブロックに跳ね返されたとき、夕がレシーブを繋いだ。そして
「だからもう一回トスを呼んでくれ!!エース!!!」
言葉が耳に残った。溢れる涙で視界が歪む。隣にいた清水先輩に“大丈夫?”と声をかけられる。そして、東峰先輩の大きな声、ふわりとエースの元へ運ばれるボール、そして打ち抜かれた壁
「やった…!」
エースに集まってくるみんなは笑顔で、また涙が溢れた
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