ピッピッと鳴り響く機械音、たくさんの医療器具やお医者さんに囲まれるレイナさん。その姿を信じられなくて、僕はただ呆然としていた。どうしてこうなってしまったのか。レイナさんはさっきまであんなに笑っていたのに、なんで、どうして…いつから…
「先生、岡本は…岡本は助かるんだよな…?」
隣にいた火神くんが集中治療室から出て来たお医者さんに詰め寄るけれど、お医者さんは何も言わない。その姿を見てわかった。もう、レイナさんは助からないんだと…。レイナさんの意識が戻ったことを聞いて、監督の計らいで僕だけが部屋に通された。機械音と共に荒い呼吸が聞こえる
「テツ、ヤ…くん」
「レイナさん」
「ちょっと、倒れ…ちゃったみたい、だね…」
“ごめんね”なんて笑うレイナさんを見るのが辛いです。レイナさんが手を伸ばすからレイナさんの手を握って、“僕はここですよ”と笑いかければ、レイナさんも笑いました
「すぐ、に…よく、なりますからね」
「うん」
「また、部活、しましょうね」
「うん」
「全国、連れて行きますから、ねっ…!」
我慢していたのに涙が止めどなく溢れてきてどうしようもない。レイナさん、いつからですか?いつから具合悪かったんですか?いや、僕が気がつかなかっただけだ。僕が自分自身でいっぱいいっぱいだったから…だから
「レイナさん、すみませんっ!」
「なんで、テツヤくんが、あやま…るの?」
「僕は、僕はあなたの側にいながら、あなたを守ることも、支えることもできなかっ…」
「テツヤくんはいつまでもあたしのヒーローだよ」
ふんわりとレイナさんが笑った後、ピーッと言う機械音が部屋中に響く。それと同時に慌てて入ってくるお医者さん、重くなる、握っていた手…嘘だ、嘘だ嘘だ!レイナさん置いていかないでください。まだ話したいことが、まだ一緒に見たいものがあるんです
「レイナさん!」
「ちょっと君、どいて!」
僕の叫びは悲痛にも部屋中に響いた。そして、あの日僕は声を上げて泣きました
「黒子くん、いる?」
物思いに浸りながら部室で変わらない着信履歴を見ている時、監督の声がした
「入るわよ」
「なんですか」
静かになった部室で差し出された手紙
「…これは」
「岡本さんから預かっていた手紙よ。黒子くん宛て」
はらり、開いた便箋…中には僕と出会えて幸せだったことと、僕に心配かけたくなくてどうしても病気のことが言い出せなかった謝罪が書いてあった
『テツヤくんを愛してる』
『何ですか、急に』
『ちょっと言いたくなっただけ。テツヤくんは?』
『もちろん愛してますよ』
『嬉しいな。ありがとう。その気持ち、大事にもらっておくね』
『これから先何回も、何十回も言いますよ』
『…ありがとう。嬉しい』
『な、泣かないでください』
『プロポーズみたいだった』
『みたい、じゃなくてそのつもりです』
『また、聞けるといいな』
『また聞かせます。僕もあなたじゃなきゃ嫌だ』
『あはは!私もです』
あの日、やけに明るかったレイナさん、そして文章の最後には滲んだ文字で、“プロポーズ、また聞けなくてごめんなさい。でもねがんばるあなたが大好きだから、負けないで”と書かれていた。ぽたぽたと、涙が溢れてきて紙に染みた。レイナさんの遺品なのに、大切にしなきゃいけないのに
「黒子くん、あのね…この手紙渡すかずっと悩んだわ。でもこの手紙を読んであなたが前を向けるなら必要だと思ったの」
「レイナさんは、本当にお人好しなんです。いつも周りの人のことばかり気にして…」
「…そうね」
「そんな彼女を僕は…」
悔やんでも悔やみきれないくらいの後悔を胸に僕は生きなければならない。そう、彼女の分までも…生きなければなりません
「大好きです、レイナさん」
窓の外を見て笑えば、レイナさんが笑ってくれたような気がしました
end
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