あれからしばらくして、レイナさんは咳き込みはしますが、元気に学校に通い、僕も部活に専念していました。あの頃の僕は、正直レイナさんを気に掛けてあげる余裕なんか無くて、むしろいつもレイナさんに支えられて毎日を過ごしていました。そして迎えた春、僕もレイナさんも同じ学校に入り、同じ部活を選択しました
「テツヤくんと同じ学校なんて夢見たい」
「大袈裟ですよ」
「…でも、一緒にいられるなんてこれほど幸せなことはないから」
そう言って笑うレイナさん。あの時、僕は無言でただ、笑うレイナさんを見つめることしか出来なかった。本当に大袈裟なんですから、と思っていて、今思えば、レイナさんは高校に上がれたこと自体が幸せなことだったのかもしれないと思いました。もちろんあの時の僕はそんなこと分かりませんでしたが
「テツヤく…ごほっ」
「ほら、風邪が治ってないんですからあまりはしゃがないでください。咳き込みますよ」
「うん、ごめんね。でも大丈夫だから!」
元々色の白いレイナさんは体調の変化とかが分かり難くて、でも中学の時からずっと風邪を引いているレイナさんに不思議だと思ってはいました。でも、万年風邪気味の人なんて体の弱い人なら当たり前なのではないかと思ったからあまり気には止めていませんでした。少しでもレイナさんの様子の変化に敏感になっていればよかった。結局、僕はまだまだ自分のことでいっぱいいっぱいで、レイナさんを守ってあげれませんでした。あんなに守ってきてもらったのに…
「テツヤくん、火神くん、お疲れ様」
部活にも慣れてきたある日、レイナさんが僕と火神くんにスポーツドリンクを手渡してきました。“サンキュー”と受け取る火神くんに続いて僕も受け取ろうとした時、異変は起きました
「ごほっ、ごほごほっ」
「なんだ、岡本。風邪か?」
「う、うん…治んなくて…ごほごほっ」
「…今日は一段と咳き込みますね」
そう言って体をさすってあげようと触れれば、震えているレイナさん。びっくりして顔を見れば唇が真っ青だった
「おい、お前本当に大丈夫かよ?顔色マジで悪いぞ?」
「…レイナさん、保健室行きましょう」
「本当に大丈夫だから、心配しないで…」
「ばっか!お前無理すんなよ。俺運んでやるよ」
「いえ、僕が運びます」
「テツヤくん、本当に大丈夫」
「見栄張らないで下さい。火神くんは監督に部活をちょっと抜ける事を伝えてください」
「お、おう!」
「2人とも、ごめんね…」
「いいんです。行きますよ」
そう言ってレイナさんの手を取ろうとした瞬間、一段と咳き込み、レイナさんはふらりと僕の方に倒れてきた。それを受け止めきれずに僕ごと床に転がった
「レイナさん?」
返事が無く、顔をのぞき込めば真っ青で、呼吸する音もしない。慌てて手をかざせば、息もしてなくて…
「レイナさ、ん…?」
僕は目の前が真っ暗になった
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