君の気持ちを聞かせてよ
しばらく部屋で呆然とした後、自分の唇を触った。確かに触れた柔らかい感触、名字ちゃんの真っ赤な顔、偶然とは言え、俺達はキスをした。つーか、名字ちゃんのあの反応は何だよ。期待、しちゃうだろ…
「…ってやべー追いかけなきゃ!」
とりあえず謝んなきゃな、だって俺はラッキーだったけど、名字ちゃんは嫌、だったかもしれない。つか自分で思ってて嫌とか傷つくけど…俺は、名字ちゃんだけは傷つけたくなくて…なんつーか、他の女の子とは違う名字ちゃんにもうとにかく夢中で、愛おしくて、大切にしたくて…もう何言ってっか分かんねーけど、とにかく名字ちゃんの部屋に急いだ
「名字ちゃん、いる?」
ドアをノックして名字ちゃんを呼んだ。返事はない。居ねーのかな…?でも鍵は開いている
「名字ちゃん、入る…な?」
謝りたい一心でドアを開ければ、枕に抱きついて埋もれている名字ちゃんが見えた。耳が赤い
「名字ちゃん…その、さっきは事故とは言え、悪かった…ごめんっ!」
もちろん返事なんてない。当たり前か…びっくりするよな。つーか嫌だった、よな。“それだけ言いたかった”と笑顔を作って部屋を出ようとしたら、顔を上げた名字ちゃん。涙目だ。そして“桑田くん”と立ち上がってこっちに来た
「名字ちゃん?」
「…」
ジャケットの裾を掴んで何も言わない名字ちゃん。俯いて、耳が真っ赤で…つーかどうしたらいいか分かんねー
「名字ちゃん、俺、帰れねーんだけど…」
「…だめ」
「へ?」
「帰っちゃ、だめっ…!」
切ない声を上げる名字ちゃんに胸がときめく。え、本当になんだよ。期待するからやめてよ。マジで、期待するから…
「桑田くん、あのね。あたし、ね…」
「名字ちゃん!」
ぎゅっと抱き締めた。もう我慢出来なくて、名字ちゃんが可愛すぎて、もうどうにでもなれって半ばヤケクソで抱き締めた。そして、耳元で小さく“好きだよ”と呟いた。名字ちゃんがこっちを向く、そんな目で見ないで欲しい
「名字ちゃん、そんな見ないで。俺にも一応…恥ずかしいって気持ちあるんだから、さ」
「…嬉しい」
「…マジで?」
「あたしも桑田くんがずっとずっと好きだったから。でもさっきはそのびっくりしちゃって、嬉しかったけど恥ずかしくて逃げ出しちゃったの…」
“ごめんね”なんて泣きながら笑う名字ちゃんを再びぎゅっと抱き締めた
「っはー!俺幸せ!」
「桑田くん?」
「名字ちゃんと両想いとかマジ、やべーよ!」
そう言えば、名字ちゃんはクスクス笑った後、“好きです、怜恩くん”と言った。だから俺も、笑って“好きだよ、名前ちゃん”と言ったんだ
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