美晴先輩が好き、と自覚してからしばらくがたった。相変わらず練習は大変だし笠松先輩は蹴ってくるし、そんな先輩を殴るのは美晴先輩のお仕事で、それが部内での一連の流れになっていた
「お疲れ様、少年」
外で休んでいると美晴先輩がスポーツドリンクを持ってやってきた。キンキンに冷えたドリンクを頬に当てられて俺が飛び上がったのを見て先輩はお腹を抱えて笑っている
「笑いすぎっスよ!びっくりしたんスから」
「ごめんごめん!ね、となりいい?」
「…っ、どうぞ」
すとんと隣に座った美晴先輩からは女の子特有の甘い香りがしてくらくらした。制服から見える細い手足や長い髪が風に靡いてきれいだと思う
「美晴先輩もうマネージャーしたらいいじゃないっスか?」
「えー嫌よーめんどくさいもの」
「毎日部活見に来てるのに?」
「それとこれとは話が別っ、大体バスケ部のマネージャーになりたい子いっぱいいるんだから」
“あたしがなったらかわいい薔薇の蕾ちゃん達が悲しむでしょ”なんてキザ極まりない発言をする先輩はお姉様と呼ばれて慕われるだけあって凛としていて涼やかだ
「相変わらずフェミニストっスねぇ」
「普通よ。幸男には普通じゃねえって殴られるんだけど」
「当たり前っスよ」
「こーらーどう言う意味よ!」
「いはい、いはいっす!へんふぁい!」
頬を引っ張られて痛いと言えば、“変な顔”ってまた先輩は笑った。先輩の笑う顔が好きで好きでたまらない
「モデルの顔に何するんスか!」
「もっとひどい顔になってしまえ!」
「ひ、ひどいっスよ!」
こうやってじゃれ合ってるときは本当に幸せで、まるで付き合ってるんじゃないかと錯覚すらしてしまう
((そんな訳ないのに…))
「あ、練習終わりみたいだよ」
「美晴先輩」
そう言って立ち上がる先輩の手をそっと引いた。“ん?どうした?”なんて気にも止めない表情が悲しい
「マネージャーしてください」
「やだっつーの」
「先輩いると元気になるんスよ…だから」
「じゃあ毎日応援してあげるからそれでいいじゃん」
ほらいくよ、と手を引かれた。暖かい指先が愛おしい。本当はあなたが欲しくて、欲しくてたまらないと言いたかった
((応援だって笠松先輩のついでのくせに…))
ちょっとむくれていると頭を撫でられた。がんばれって、それだけで元気になる俺は本当に単純だ
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