今更で許されますか



「せんぱ、い…」


泣きそうな顔であたしに手を伸ばす黄瀬に背を向けて歩き出した。今はただ会いたくなかったのだ。幼なじみで初恋だった幸男にフられたのも、あの時黄瀬にキスされたのも全部つらくて、あたしは逃げ出した

それから何ヶ月かたって廊下を歩いていれば、体育館から足音やボールをつく音が聞こえてきた。あれ以来訪れていない体育館。一緒に歩いていた薔薇の蕾ちゃん達が“どうなさいました、お姉様?”“入りましょうよ!”なんて聞いてきて苦笑いをしてしまう。ここには幸男と黄瀬少年がいるのだ。足が進まない


「体育館入りたい?」

「はい!もう黄瀬くん格好良くて!」

「やだ、お姉様の方が素敵ですよ?」

「はいはい。見たいならあたしに構わず行っておいでよ」


“あたしは待ってるから”と薔薇の蕾ちゃん達に言った。ただ、体育館に入りたくなかっただけなんだけれど。素直な返事を返してくれた薔薇の蕾ちゃん達と入れ違いにボールが転がってくる。それを拾っていれば、目の端に見えた金色。びっくりして顔を上げれば“せん、ぱ…い?”なんて声が聞こえた


「…久しぶりね」

「…そうっスね」

「ボール取りに来たんでしょ。練習が、んばって…ね?」


声が震えた。“頑張って”の一言が言えなかった。ボールを返して立ち去ろうとすれば黄瀬少年は何か言いたそうにしているのが見えた。聞くべきだろうか、それともあの時みたいに泣いて逃げるべきだろうか。あの時はただ怖くて、幸男以外の人が心の中に入ってくるのが怖くて泣き出して逃げた。でもあれから黄瀬の事が忘れられなくて、何度も体育館に行こうとした。結局入り口で立ち止まって何も出来なかったけれども。それでも失恋したあたしを慰めようとしてくれた黄瀬に何かお礼がしたかった。あんなにひどいことをしたのにね。あたしは都合良すぎるな、なんて思って黄瀬に振り返る。目があって沈黙が続いた


「黄瀬、涼太…少年」

「…っ!」

「今更だけどあの時慰めてくれてありがとう。嬉しかった」


“幸せになってよね”

それだけ伝えて、また逃げだそうとした。黄瀬には幸せになってもらいたい。あたしがしたことはひどいことなんだろう。償いをする事さえ自己満足に過ぎないんだろうけれど、それでも謝りたくて…


「あの時はごめんね。大好きだよ。少年」

「せんぱ…」


走って逃げようとしたときに抱き締められた。汗のにおいと黄瀬少年が使ってる香水のにおいがした。抱き締めないで、優しくしないで、あたしはまた甘えてしまうから…黄瀬にひどいことしてしまうから


「先輩、本当に今更っスね。でも…」


“嬉しいっス”

そう言われて涙が溢れた






ユニゾンブレス様に参加させていただきました。素敵な企画に参加出来て幸せです



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