豆腐小僧と秋の空

ここは【忍侠人間育術学園】通称【忍術学園】と呼ばれる中高一貫の学園だ。忍術と言っても別に昔みたいに忍者を目指す学校っていうわけじゃない。極道の任侠のようにと言うわけではないが“生徒同士、人間同士が助け合って生きていこう”と言う意味らしい。最も大昔、この学園は由緒正しき忍者の学校だったらしく、その名残も無くはないのだけれど…(例えば組み分けがいろはになってるとか、校章デザインが手裏剣だとか)しかし今は現代だ。忍者はいない。俺はそんなよくわからん学校に通ってもう5年になるのだが、今非常に困っている。どれくらい困っているかと言うと、事務員の小松田さんのドジっ子ぶりくらい困っている

「兵助ー…どうしたんだよー」
「裕飛、やめてくれ…俺はもう昔とは違うんだ」
「だけど兵助、お前本当に平気なのか?」
「人はいくつもの壁を乗り越えて強くなるんだ。俺だっていつまでも壁に寄りかかっている場合ではないんだ!」

言っている意味は全く持って理解不能だが、ことの発端は今朝俺が兵助の豆腐料理を落としてしまったことから始まる

『うそ!マジでごめんね兵助!』
『大丈夫。気にするな裕飛。豆腐ならおばちゃんに頼めばまだ…』
『あ、今豆腐切れたってさ』
『三郎!』
『…………』
『ごめん、本当にごめんね兵助!昼休みに豆腐買ってくるから。今日は俺のご飯突っついてもいいよ?』
『裕飛お前ただでさえ食わないんだからちゃんと食えよ。兵助、俺の豆腐やるから許してやれよ』
『なんなら三郎の冷や奴あげるよ』
『雷蔵!何を勝手に…』
『なぁに?』
『いえ…』
『はちも雷蔵もいいよ。悪いの俺だから…兵助ごめん』
『気にしないで、裕飛。豆腐離れするいい機会かもしれない』
『…へー、すけ?』
『お前、どうした?』
『決めた。俺今日から豆腐食わない!』
『『『『えー!』』』』

そう周囲を脅かす発言をした兵助。昼ご飯はおろか夕方になっても豆腐料理や俺が買いに行った豆腐にも手をつけようとしない

「兵助ー悪かったから食べてってばー」
「何も裕飛が謝ることじゃないだろう?俺はむしろ感謝しているんだ。豆腐離れできる機会を与えてもらって」

そう言って笑うけど、兵助…お前気がついてないけど顔色が半端なく悪いんだよ(2食豆腐食わなかっただけなのにすごいな)普段から兵助がどれだけ豆腐に依存しているかよくわかった。兵助が脱☆豆腐宣言をしてからもう3日がたった
((本当に、本当にまじでやばい))
今ここにいるみんなが思ってる

「木綿・絹ごし・豆腐田楽…」
「兵助ッ!!おい、しっかりしろ!」
「はち、あんまり揺すったらだめだよ!」
「豆乳・調節豆乳・豆乳プリン…」
「やべー…兵助調節豆乳嫌いだったはずなのに口ずさんでる…」
「え、裕飛観点そこなの!?」
「でも確かにそれだけイソフラボンが足りないってことなんだよね…?」
「そうだね雷蔵。兵助以外の口から【イソフラボン】って言葉を聞く日がこんなに早く来るなんて思わなかったよ私」
「三郎、残念だけど雷蔵の【イソフラボン】と兵助がいつも言ってる【イソフラボン】とは使い方が違うよ」
「裕飛、残念だけどってなんだい?」
「勘ちゃん、兵助…今日もやっぱり食べなかった?」

三郎を無視して隣にいた兵助と同じ組の尾浜勘右衛門に話しかければ不安そうな顔をして手元にある絹ごし(豆っ子美人)をぎゅっと握って抱きしめた

「今日は豆っ子美人だったのに口も開けてくれなくて…」
「ちょっと何その豆腐!」
「お前豆っ子美人ばかにすんなよ。この豆腐すげー高いんだぞ」
「知らねぇ!つかみんな知らないだろそんなマニア豆腐!」
「え、僕食べたことあるよー」
「ら、らいぞう…」
「お、おおおおまえ…し、しらなかったのか…」
「はち、お前も知らないくせに合わせてんじゃないよ」

まぁ、コントをしている奴らはさて置き…どうしよう。今日は何が何でも食わせないと兵助の体力が持たない…

「みんな、兵助が豆腐食べる方法考えてよ」
「無理矢理食べさせるとか、でも兵助食べてくれないし…」
「雷蔵悩みだした…」
「ほっとけ。でもどうする?」
「一応1つだけ考えはあるんだよね…」

俺がそうやって言うとさっきまで悩んでいた雷蔵も飛んできて、みんな俺の前に集まった

「で、裕飛どうするの?」
「うん…実はね…」

みんなに作戦を伝えて決行する

「できた…っ!」

食堂のおばちゃんに台所を借りてせっせと例の物を作り上げみんなが待つ寮へと急いだ

「お待たせ!」
「裕飛遅いよ!さっき保険委員長の善法寺先輩に兵助診せたとき、兵助発作起こしちゃって…」
「まじか、ついにこそまで…でもちゃんと出来たから!」

見た目も上々だよ、と自信満々に見せるも4人の反応がいまいち

「質問よろしいですか」
「何ですか、2年ろ組の鉢屋三郎くん」
「これはなんですか?」
「見てわかんないの!?豆腐のレアチーズケーキに決まってんじゃん!」
「いやぁ、これは…」
「どうみても…」
「「「白い塊」」」
「ひでぇよ、雷蔵とはちまで…」
「ごめんね裕飛…」
「でもさ、お前俺と一緒で大雑把だから砂糖の分量とか適当にしたんだろ?」
「お菓子作りなんて馴れないことするからこうなるんだよ」
「失礼な。俺委員会でいつもお菓子作ってるもん」
「「え゙…」」
「先輩だってかわいい後輩だってみんな“おいしい”って食べてくれるもん!」
「あー泣くなよ裕飛!(苦労してるな用具委員会…)」
「私達が悪かったよ!(今度私のお菓子をしんべヱ達にあげよう)」
「なんでも良いから兵助に豆腐あげようよ」

兵助の看病をしていた勘ちゃんの言葉で気がついて、作ってきたレアチーズケーキを兵助に食べさした

「兵助、レアチーズケーキだよ…たべて」
「裕飛、そこ焦げて…」
「ん…う、うぅ!?」
「兵助!?大丈夫!?はち、兵助がぁ…」
「兵助、大丈夫か?(裕飛なんで1番最初に1番真っ黒なところ食わせたんだ…)」
「あ、あ…裕飛…これ…」
「レアチーズケーキだよ。兵助、たべて…」
「あ…うん…うッ!!」
「兵助ぇ!?…いたッ!!」
「お前なんで焦げたスポンジばっかり食わすんだよ!」
「三郎なんで殴るの!だいたいオーブン使ってないから焦げねぇし!」
「「「「(じゃあなんだあれ…)」」」

途中食べさせるごとに兵助は変な声をもらしてたけど、全部食べ終わる頃にはすっかり顔色もよくなり、兵助は無事今まで通り豆腐を食べるようになった

「兵助、豆腐うまい?」
「あぁ!」
「じゃあこの豆腐のレアチーズケーキも食べて食べて!」
「…ッご、ごめん裕飛」
「え!?どうしたの兵助!?」
「なんかよくわかんないけど吐き気がッ…!!」
「え、おい…兵助ッ!?」
「「「「どんまい兵助」」」」

なぜか兵助だけは俺のお菓子を食べたくなりました

「しょうがない、委員会の子にあげよー」
「止めとけ」
「なんでよ」
「良いから止めなさい」
「はちまで…どうして!」
「裕飛それ捨てようか?」
「…う、はい」

((なんで雷蔵そんなに怒ってるの?))




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