死闘・激走!炎の中間試験
学園長先生の説明によると高等部の1〜3年生の選抜者数名が2人1組となり、各学年2人対2人で行う鬼ごっこで総当たり戦。制限時間は1組30分で武器や道具の使用ありで逃げる方は両方が捕まるか、動けなくなったら負けというなんともバイオレンスな鬼ごっこ(ごっこなんて平和なものじゃない)なお、鬼はくじによって決められる

「ちなみに今回の実技試験は豪華特典付きじゃ!」
「何ッ!?ついに団蔵を会計委員会から引き抜きOKって言うお達しかッ!?」
「そんなのしたいのは裕飛だけだって…」
「てか何そんなこと勝手に学園長先生に頼んでいるんだい?」
「うわ、三郎復活…呼んでないのに復活した」
「はちだっていきなり会話に入ってきただろう?」
「お前とはちじゃ太陽とすっぽんの差なんだよ」
「普通そこ【月とすっぽん】だよね?」

兵助、冷静に突っ込まないで。そんなことわかってるに決まっているじゃないですか。だけどはちは月って言うより明るくて眩しい太陽みたいな存在だから太陽にしただけなんだよ

「まぁ、確かにはちが太陽のイメージがあるのはよくわかる」
「だろ?はちは俺の太陽なんだから!」
「裕飛、ありがとな」

嬉しそうに笑うはちを見ると俺も嬉しくなって笑った。すると腰あたりに力強い締め付けを感じ、何かと思ったら団蔵が俺に目一杯抱きついていた

「団蔵ー?」
「兄ちゃんに取っての太陽…俺じゃだめ、なの…?」

え、何この子…嫉妬?団蔵嫉妬してくれてんの?すごい上目使いでこっち見ないでよ!俺、兄弟としての一線を越えちゃうかもしれないじゃん!

「おい、裕飛絶対越えるなよ」
「既に片足は突っ込んでるよね」

い組っ子がなんか言ってるけど嬉しすぎて全て褒め言葉にしか聞こえないくらいの勢いなんですけど。とりあえずいまだに俺を見つめる団蔵の腕を解いて抱き上げる

「団蔵、はちは太陽だけど…俺にとってお前はそれ以上の価値があるんだよ」
「本当に!?どれくらい?」
「団蔵が俺のこと思ってる以上に、俺はお前が好きだよ」
「じゃあこーんぐらい?」
「いやもっともっと大きいよ」
「兄ちゃん大好き!」
「ああ、俺も大好き」

嬉しさ余ってまた団蔵の柔らかい頬に口づけ。そしたら団蔵も嬉しそうに笑って俺に体を預けてきたから幸せすぎてどっか行きそうだ

「あー…しあわせー」
「はいはい。そこのばかっぷるさん達、そろそろ高2で誰が出るか決めなきゃいけないんだけど」
「あ゙ー?そんなの俺と団蔵がペアで出れば優勝間違いなしだ!」
「高2って言っただろ!話をちゃんと聞いてくれ!」
「三郎(へんたい)に注意された!」
「振り仮名違うから!」
「もう三郎を虐めるのは勝手にしてくれて構わないけど、本当にそろそろ決めないとだめだから裕飛真面目に話を聞いて」
「ごめんね、勘ちゃん」
「勘右衛門までひどい…」

いじけた三郎を放置してみんなで話し合った結果、結局俺ら6人が出ることになった。しかも…

「うっわー…テンション下がるー」
「裕飛、何故だい?」
「お前と同じ空気なんか吸いたくない」

バランスを考えてペアは【はちと勘ちゃん】に【雷蔵と兵助】そして【俺と三郎】と言う結果になってしまった。個人的にはさっき三郎にセクハラをされたので三郎以外がよかったんだけど、あれよあれよという間に俺と三郎の腰は縄で結ばれ繋がっていた

「なんか裕飛とだとこの縄も運命の赤い糸のように感じてこないかい?」
「豆腐の角に頭ぶつけろ変態」
「裕飛気持ちはすっごくよくわかるけど、我慢してね?」
「そーそー。もしもの時は俺が全力で助けに行くからな!」
「雷蔵よくわかるって何?てか足踏んでるから!」

三郎の主張は虚しく開催の合図でかき消されて、一番手である雷蔵と兵助が2人仲良く中央に躍り出た

「相手は1年生のタカ丸さんと綾部くんかー」
「雷蔵も兵助も何だかんだで優しいからなぁ…本気だせるかな?」
「えー本気出してもらわないと俺の団蔵救出計画が…」
「…だからそんな特典はないんだって。学食一週間食べ放題だってさっき言ってたじゃん」
「そうなの?知らなかった…」

はちの言葉になんだかがっかりしたのと同時にものすごくお腹が空いてきた
((つかご飯食ってない俺らに勝ち目があるのかどうかが疑問なんだけど…))
なんて俺の心配もよそに2人は綾部くんとタカ丸さんを捕まえて見事勝利。兵助に至っては豆腐を食べながら鮮やかにタカ丸さんを捕まえていた

「おかえり雷蔵、兵助」
「ただいま。お腹空いてたから綾部くんの穴に落ちそうになったよ」
「あの穴また埋めなきゃいけないのか…」
「どんまい裕飛!」

はちに慰められたが、綾部くんが掘る穴はでかい上に深いから本当に大変だ。複雑な気持ちで団蔵を撫でていると次の試合の対戦カードが発表された。はちと勘ちゃん対七松先輩と留先輩だった。これは…

「はち、勘ちゃん…死なないで」
「裕飛縁起でもないこと言わないでもらえるかな?」
「いや、でも勘右衛門。本気でいかないと殺られる…」

はちの言うとおり、留先輩は良いとして、暴君と名高い七松先輩は鬼ごっこと言っても全力を尽くして2人を捕まえに来るだろう。現に体育委員会がとてもよい例である

「よーし、いけいけどんどーん!」
「「ぎゃあ!」」

始まりの合図と共に駆け出していろんなところをぶっ壊しながら進むのはもちろん七松先輩。その後ろでは七松先輩に注意しつつ追いかける留先輩の姿が見える。てか留先輩半泣きだ

「壊して進むな、小平太!」
「いけいけどんどーん!」
「やめろぉぉおおお!」
「食満先輩泣いてる…」
「はっちゃん見てみて、裕飛も複雑な顔してるよ」

勘ちゃん、そりゃそうだよ。後片付け誰がすると思ってんの?俺ら用具委員会なんだぜ?本当ははちと勘ちゃんを応援しなきゃいけないけど、この試合だけは全力で留先輩を応援したい

「留せんぱーい!委員会のためにがんばってー!」
「裕飛違うでしょ。今ははちと勘ちゃんを応援しなきゃ」
「そっちも大事だけどこんなに壊されたら俺休み無しでまた委員会しなきゃなんないから!」

“饂飩も蕎麦もこしが強いから大丈夫だと思う”と雷蔵に言えば隣で三郎が大爆笑。兵助も雷蔵も見えないように笑いを堪えているが肩が上下に揺れている

「麺類コンビか…そうか」
「裕飛までひどい…」

いつの間にか凹んでいる2人は七松先輩に捕まってしまった。そこそこ早かったものの、校庭の至る所は破壊されて、留先輩や俺ら用具委員会の願いも虚しく、休み中は学校修繕が確定された

「七松先輩さいってー」
「諦めろ。運命だったんだよ」
「三郎他人事だと思って…」
「まぁまぁとにかく今度は三郎と裕飛の番だから行っておいで」
「兄ちゃんがんばってね!」

雷蔵と団蔵に後押しされて三郎と一緒に中央に行くと、立花先輩と潮江先輩が出てきた

「なんだ相手はお前らか」
「そうらしいですね。潮江先輩」
「裕飛、なんで試合直前だと言うのに飴なんか舐めているんだい?」
「これ?さっきお腹空いたったら善法寺先輩がくれたの」

あんまり甘くないけどぴりぴりするんだ、と言えば俺以外の2年生の顔が明らかに険しくなり、端に避けている善法寺先輩は笑ってるけどなんか怖いし、留先輩は心配そうな顔をして俺を見ていた。立花先輩と潮江先輩は勝ち誇った顔をした

「何、三郎食べたかったの?1本しか貰ってないからもうないよ」
「あれほど人から物を無闇に貰うなって言ったでしょうが!」
「お前は俺のかーさんか」

だとしたらかなり遠慮したい母親である。三郎なんか嫌だ

「勝ったな」
「何でですか?潮江先輩、まだ始まってもないのに」
「今に分かるぞ。すぐに捕まえてやろう」

そう立花先輩に言われた瞬間開始の合図が鳴り響き鬼ごっこが始まり、いきなり石が飛んできた

「いてッ!三郎、逃げるぞ!」
「ちょ、ちょっと待て!裕飛!」

三郎を引っ張るようにして高3い組コンビから逃げるが、なんか体に違和感がある。不思議に思って地面を思いっきり殴るとどごっという音がして岩や土がいっぱい噴き出しただけで、いまいち。腕はいまだにぴりぴりする

「あー、もしかしてさっきの飴に毒入ってた?俺盛られた?」
「だからいくらお腹が空いても善法寺先輩からは何ももらうなっていつも言ってるじゃないか!」
「確かに、これは本当に不味いな。何時もより全然力はいんねー」
「これで半減か…?」
「裕飛は小平太より力が強いのではないのか?」
「いやいや、七松先輩には適いませんから。ね、三郎!」
「あ、ううん…?」

なんでそんな顔すんだよ。ガチンコ鬼ごっこは意外となかなか終わらず、俺と三郎の服はぼろぼろだった

「つかこれ制服なのにー」
「…ぼろぼろな裕飛はえろくてやばいな」
「死ね」
「ちょ!裕飛、いくら薬盛られたからといっても殴られたら警察沙汰になるから!」
「うるせー!じゃあ黙ってろこの変態野郎」
「ねぇねぇ留さん、結構痺れ薬を盛り込んだやつを渡したのに裕飛はなんであんなに動けるんだろう…?」
「いや、でも効いてるぞ。何時もより力不足だ」
「あれだけ盛って、半減かー…じゃあ次はもっと強力にしないとだめだね」
「伊作、そこまでして勝ちたいのか…?」

留先輩が引いた顔してる。ちょっと本当に力でない、半分以下なんだけど…まじ後で善法寺先輩殴ってやろう。半減してるんだもん大丈夫だよね。そんなことを思いながら走っていると突然爆風に飛ばされた

「た、立花先輩あぶねぇ!手榴弾とか卑怯じゃないっですか!?」
「武器の使用は許されているはずだ。問題無かろう」
「大有りですよ!規模考えてください!他の子に当たったらどうするんですか!」
「心配するな。お前達と文次郎にしか当てない」
「なんで俺まで入ってるんだ」
「そこまで言うなら潮江先輩のみに当ててください」
「鉢屋ぁぁあああ!」
「潮江先輩、うるさい上に汗臭いんでよらないでください」
「よし、もっと言え三郎!潮江先輩、先輩のところにいると団蔵が汚れるのでいい加減返してください」
「お・ま・え・らぁ〜…」
「三郎と裕飛って何だかんだで息が合ってるよね」
「そうだね」

兵助と雷蔵がなにか言ってるけどそれどころじゃない。ブチ切れた潮江先輩が鬼の形相で追いかけてくるから。立花先輩だって手榴弾を所狭しとと投げてくる。危ない、でも楽しい!

「ほらいくぞ!裕飛に鉢屋!」
「ま・じ・あぶねぇって立花先輩!俺ら殺す気ですか!?」
「お前も鉢屋もただでは死なんだろう」
「はい、団蔵を汗臭ロリコン野郎の所に残してなんて死ねません!」
「裕飛もいちいち答えなくていいんだよ。それより立花先輩、もう手榴弾玉切れみたいですね」

立花先輩の手元を見れば両手には何も持ってないし、腰に付いていたベルトにも何もない

「残念ですね。自慢の武器がなくなって」
「ふ、甘いな。予備がある!」

そう言う立花先輩の服の内側には大量の手榴弾が見えた

「うわッその言葉久しぶりに聞いた!」
「違う裕飛、突っ込みはそこじゃない。なんであんなに持ってるのかって話だ」
「それはもちろん…」
「うちの委員会の管轄だな」
「「兵助!」」

兵助の委員会は火薬委員会だけど、こんな平和なご時世にそんな物騒な委員会や、手榴弾なんか一切必要ないはずだ

「ほらほら、いくぞ!」
「あつッ!あぶなッ!まじで立花先輩いつか爆弾魔として捕まるってーの!」
「これこそ警察沙汰だ!」
「鉢屋、裕飛…私から逃げられると思っているのか?」
「仙蔵!こっちに手榴弾を投げるんじゃない!危ないじゃないか」
「何を言う、文次郎。わざとに決まっているだろう」
「お前は…!」

なんか揉めだした高3い組コンビを放っておいて、一目散に学園の裏側に逃げた

「はぁ、はぁ…まずは立花先輩の手榴弾をなんとかしないと」
「投げにくい場所や壊しちゃ行けない場所に逃げればいいんじゃないか?」
「えーどこだよそこ…」
「校内なんか一番いいんだが、そこは範囲外だしな…屋根の上はどうだい?」
「ばーか。そんなとこ無理…」

そう言いかけたが三郎とふと目があって閃いた

「わかった。そこに行こうか」
「はいはい、ちびっ子さん達どいてー!」
「鉢屋先輩、裕飛先輩…どうし…「しー…」

すぐ近くにいた乱太郎くんと伏木蔵くんの口を塞いで近くにいた中等部の子達を三郎が退かしている。その間に俺は木を触りながら確かめる

「うん、これがいいかなー」
「みんな離したよ」
「ありがと」
「それじゃ大きすぎないかい?」
「大は小を兼ねるんだからいーの。三郎は細い木が折れてあの2人に捕まっていいわけ?」
「いや、裕飛よろしく頼むよ」
「はいよー…みんな頭気をつけてね?」
「「はーい」」
「んーいいこだね。じゃあいくよ…せーのッ!」

どごぉっと壮大な音を立てて大木にひびがはいり倒れるのを支えて、学校に立てかけた。うん、さすがにでかすぎたかなって思ったけど学校壊れんくてよかった

「何の音だ!」
「げっ…来たよ」

上っている途中にさっきの音を聞きつけた潮江先輩と立花先輩が追いかけてきた

「校舎の屋根の上か考えたな…だが行かせん!」
「あぶない!」

立花先輩が俺らを落とそうと手榴弾を投げた瞬間、三郎がいち早く俺がいまだにくわえていた善法寺先輩からもらった飴の棒を投げたおかげで手榴弾は俺らのところに届かず、空中で爆発した

「ちッ!」
「ナイス三郎!」
「裕飛先輩、大丈夫ですか!?」
「作兵衛ありがと!大丈夫ー!」
「なんかすごくスリルー」
「伏木蔵、今私達危ない目に合ってるんだよ?」

作兵衛の隣にはきらきら目を輝かせる伏木蔵くんと不安の色を隠しきれない乱太郎くんが目に入った

「うちの作兵衛かわいいだろ?」
「ほら、いいから行かないと今度は私達が灰になってしまうよ」
「はいよ。じゃあ三郎こっち」

俺と三郎を繋ぐ縄を引っ張って三郎を抱き寄せる

「え、なに…?」
「あーやっぱりぴりぴりするから両手じゃないと無理だな」
「は?」
「三郎、捕まってろよ?」

にっこり笑顔を三郎に向けて抱き上げる。いつもなら片手で抱えれるんだけど、やっぱり薬効いてるからお姫様抱っこになってしまった


「や、やだ、裕飛降ろしてくれ!」
「2人でちんたら不安定な木の上歩いてたら危ないって言ったのは三郎だろ。薬効いてるから片手じゃ無理なの、あきらめて」
「兄ちゃんすごーい!」
「久々知先輩、裕飛先輩って鉢屋先輩も抱いて持つことが出来るんですね」
「鉢屋は高2でも細い方だからな」
「じゃあ久々知先輩も鉢屋先輩持てるんですか?」
「そりゃ無理だ。池田」
「竹谷先輩」
「兵助は力強いってタイプじゃないからな」
「じゃあ竹谷先輩は持てるんですか?」
「久作、あれは裕飛だから成せる技なんだよ?」
「裕飛ははっちゃんのことも持てるから…」

なんか口々にみんな色んな事を中2のろじくんと久作くんに教えてる気がするんだけど…

「兄ちゃんかっこいー!」
「だーんぞー!」
「背が小さい裕飛にお姫様抱っこされるなんて…しかも公衆の面前にさらされるなんて…もうお嫁にいけない!」
「お前男なんだか嫁は無理に決まってんだろ。あほか」
「裕飛ならきっとお嫁さんになれるよ。どれ、今度は私がお姫様抱っこをしてあげよう」
「てめぇ、次言ったら立花先輩が手榴弾投げたときお前盾にするからな」

三郎のセクハラ発言に制裁を加えつつ降ろすと、立花先輩も潮江先輩もいつの間にか屋根の上にあがってきた

「追いついたぞ」
「やべー、木割っときゃよかった」
「大丈夫だ。手榴弾は投げれないさ」
「確かに手榴弾を投げることは出来ない、しかしお前達も屋根の上じゃ逃げられないんじゃないのか?」
「まぁ、確かに…」
「でも捕まんなきゃ良いんです」

制限時間はあと5分…ぎりぎり逃げ切れるはず!

「逃げるぞ三郎!」
「そうはいくか!」
「うわッ!」
「裕飛ッ!」

逃げようとした瞬間何かに脚を引っ張られ、気が付いたら汗臭い潮江先輩の腕の中

「捕まえたぞ、加藤裕飛…」
「よくやった文次郎。逃がすなよ」
「裕飛ッ!」
「さぶ、ろ…」

あぁ、まずいまずい…気ぃ抜いた。まさか潮江先輩に捕まるなんて、汗臭いのに離してくんない。どうしよう、このまま三郎が捕まったら負けが決まる…どうする、どうする…考えろ

「裕飛いつもの威勢はどうした?」
「むかつ…くぅッ!」
「ふん、聞こえんな」
「おいこら文次郎!うちの裕飛抱きしめんじゃねえよ!」
「黙れ留三郎!勝ちたくないのか!」
「勝ちてぇけどそれ以上にてめぇみたいな変態に裕飛を触られるのがむかつくんだよ!」
「留さんどっちの味方?」

留先輩の気持ちはすごい嬉しいけどそこで吠えられても状況は変わらないな…あと3分ちょい

「文次郎、裕飛に逃げられると困るからな。腕を縛っておけ」
「おぅ、それにしても本当に動かなくなったな…降参か?」

降参なんかするかこのふけ顔!ってもまじ絶体絶命…どうしたら逃げれるかなー抱きしめられてるせいで腕は動かないしなー…つか潮江先輩の手が俺の腰に―――…そうだ!

「縛りにくいな…」
「あ、あ…潮江、せんぱ…い」
「なんだ?」
「そんなにきつく縛ったら手首に痕が残っちゃいます…」
「そんなこと言って逃げる気だろう。通用するか」
「う、ちがう…のに…あ、いたいッ!」
「変な声を出すなバカタレ!」
「じゃあせめて優しく縛ってください」
「…わかった」

あとちょっとかなー…三郎もまだ捕まってないし、潮江先輩もちゃんと律儀に優しく縛ってくれてるから、大丈夫だよね

「ん、や…くすぐった」
「お前また…」
「制服ボロボロだから、潮江先輩の手が当たるんです…」
「我慢しろ」
「や、やだ…さわっちゃ…ん、あッ!」
「なっ!?」
「裕飛!」
「文次郎、貴様…」
「ごッ、誤解だ!」

あと一押し――――…

「潮江先輩、するなら…こんなみんないるところじゃ…恥ずかしい、です」
「貴様、何をでたらめ…」
「ん、ひゃあッ!」
「うッ…!」
「おりゃあぁぁあああ!隙ありぃぃいい!」
「ごはッ!」

一瞬潮江先輩がたじろいだ隙に思いっきり顔を蹴り上げると先輩は俺を腕から解放した

「三郎ー!」
「はいよ」

三郎に縄を引っ張ってもらい、潮江先輩から離れてついでに腕の縄も外してもらう

「きーさーまー…」
「はッ、このむっつり野郎が。騙されてんじゃねぇよ」
「本当にどん引きするくらい気持ち悪かったんですけど」
「鉢屋!裕飛!最上級生に向かってなんたる無礼!」
「後輩にセクハラ紛いなことをする方がよっぽどやばいと思いますけど」
「やっぱ団蔵を会計委員会に置いとくわけにはいかないな」

まじであぶねぇし、と三郎と笑いあって動こうとした瞬間俺らの腰が以上にくっついていることに気が付いた

「三郎、ちけぇ」
「いや、私のせいじゃない」
「お前達文次郎をばかにしすぎだ」
「「立花先輩!」」
「おかげで捕まえやすかった」

爽やかにさらさらの髪を靡かせて笑う立花先輩をみた次の瞬間、試合終了の合図が鳴り響き“勝者高等部3年生”と言う学園長先生の声が響いた

「うそー負けた!?」
「あと1分だったんだがな」
「せっかく逃げたのに…あー学食食べ放題と団蔵引き離し交渉権がー」
「いや、後者のはないから。何度言わせるんだい、裕飛」
「つかみんなに合わす顔ねー」

そんなことを愚痴りながら立花先輩に連れられて屋根から降りるとみんな一斉に駆け寄ってきた

「裕飛、大丈夫か!?」
「まさか三郎以外に裕飛にセクハラする人がいるなんてね…」
「はち、勘ちゃん…」
「裕飛、俺があとで文次郎をぶっ飛ばしておくからな!」
「部外者は黙っていろ留三郎!」
「うるせーこのギンギン野郎!うちの嫁入り前の娘に何手ぇだしてんだよ!」
「留先輩、俺女の子じゃない…」
「本当にさいてーだよ文次郎」
「……………」
「長次先輩が“文次郎、見損なった”って言ってます。僕もそう思います」
「雷蔵の言うとおり、後輩を公衆の面前で襲うなんて最低です!」
「兵助!」
「ご、誤解だと言っておるだろう!」
「おい、みんな…1つ提案なんだがこの食べ放題、みんなで分けないか?」
「おー賛成!もちろん文次郎抜きね」
「何故だ!小平太!」
「後輩に手を出すなんてさすがの私もしないからな」
「では行くとしよう」
「団蔵おいで」

はち達に縄をほどいてもらって、心配そうな顔をして潮江先輩を見る団蔵を連れて学校に帰る

「兄ちゃん、いいの?」
「いいの。団蔵は俺より潮江先輩がいいわけ?」
「ううん。兄ちゃんが一番だよ!」
「ありがとー俺も団蔵いっちばーん!」

団蔵を抱き上げながら歩くと隣にいた三郎がそっと耳打ちしてきた

「裕飛本当に何かされたのかい?」
「んなわけないだろ。演技です」
「えげつないな」
「褒めてる?」
「褒めているよ。私もあの潮江先輩があんな顔を見るのが面白かったしね」
「まぁ、確かにな。次またあったらもっと困らせてやろうよ」
「よし、のった」

三郎と小さく拳を合わせて校庭に1人残された潮江先輩を横目で見つつ歩き続けた
((負けたけど、楽しかったから結果おーらい!))


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