「うわぁ!わたあめ!焼きそば!りんご飴!」
「勘右衛門迷子になるなよー?」
はちの言葉に“わかってるー”なんて手を振りながらどんどんと人混みを掻き分けて進む勘ちゃんに苦笑いしながらみんなでついて行く。今日は夏祭りに来た。“勉強だけじゃ煮詰まっちゃう”“刺激がほしい!”なんてみんなが口々にいうから、街に出てきた。案の定勘ちゃんが1番はしゃいでる
「お、かわいい子発見」
「え、どこ!?三郎!?」
「豆腐はないのか」
「田楽ならあるんじゃない?」
((いや、みんなはしゃいでるな))
なんて思いながらため息をつけば、“裕飛、ナンパ行こうぜ!”なんて三郎とはちに肩を組まれた
「お前がいないと捕まらないからな。はちじゃ役立たないんだ」
「ひどいな三郎!」
「はいはい、いくからいくから」
そんなやり取りを見て残りの3人が笑っている。そんな夏祭り、俺も胸が踊っているから浮かれてるんだろう
「あ、花火するみたいだよ!」
たくさん歩いて丘で休憩していたら、雷蔵が空を指さした。するとすぐにどん、と音が鳴って夜空に大輪を描く
「おほー!」
「たまやー!」
「かぎやー!」
「裕飛ー!」
「名前を呼ぶもんじゃねーんだよ三郎」
「山びこで返ってくるな」
「そんなん良いんだよ兵助」
ぼっけぼけの連中にくすくす笑いながら、はちの隣へ来た。“綺麗だな”なんて呟くはちの横顔を見て、幸せだなぁと何故か思った。なんでかはわからない。とにかく幸せを感じたんだ
「裕飛ー」
「んー?」
「なんかいいな、こーゆーの」
“みんなでバカやって、楽しく過ごせるなんて幸せだな”なんて笑うはちに胸が痛い。三郎の告白を蹴って、これを望んだのは俺自身のはずなのに…何故か痛くなる胸。隠しきれない気持ち
((はち、俺は…))
出かかった言葉を飲み込んだ。留先輩が頭を過ぎったからだ。いろんな人に愛想振りまきすぎだな、八方美人かよ俺は…なんて思いながらはちに“ずっとこのままがいいな”なんて言った。これも本心だった
「そうだな!」
笑顔で言うはち。後ろで花火があがった
((俺は誰を選ぶ?))
prev next