きみだけ、だよ

さっきまでふわふわいい気持ちだったのに、急に感じた外気の冷たさとか、ぼやーっとする視界に嫌気がさした。まだまだ寝ていたい、なんて思ったけど起きなきゃ学校に遅刻する。寮生活と言っても、食堂が校内にあるから早く起きないと飯を食わずに授業を受けなくてはならなくなる

「だぁーりぃー…」

重い体を起きあがらせて向かいのベッドを見れば、枕元に蕎麦が…いや、間違えた。いまだに夢の中を彷徨う同室の竹谷八左ヱ門の頭部だ

「はちー朝だよー」
「ん、ん…裕飛?」

はちに近づいて体を揺すればもぞもぞと布団から這い出てきた。“おはよう”と挨拶するも、まだ眠たいのか欠伸混じりで返事が返ってきた

「眠い?」
「あぁ、昨日委員会が夜まであってな…」
「また逃げたんだ」
「あぁ、ジュンコが…」

はちは生物委員会で、学園で飼ってるあらゆる生物の飼育をしてるんだけど…少々、いや…かなり危険な生き物も飼ってくせにしょっちゅう逃げ出すと言うとんだトラブル委員会でもある。ちなみに【ジュンコ】と言うのは中等部3年い組の伊賀崎くんが飼っている毒蛇である

「そーいや昨日伊賀崎くん叫んでたな」
「悪い、起こしたのか?」
「いや…元々起きてたし。つか大切ならちゃんと管理してあげないとだめなんじゃないのか?」
「一応籠に入れるようには言ってあるんだけど、ジュンコが可哀想だと言って聞かないからな…」

だからと言って毎回逃げ出してるんだからいい加減学習して欲しいものである

「まぁ、はちおつかれさん」

そう言ってはちの頬に軽く口付けをする。これは俺とはちの朝のあいさつ。はじめこそははちもびっくりしていたが5年の歳月は長い。慣れたらしい。抵抗せずにはちも俺がし易いように頬を寄せてくれる

「今日が来たって感じだな」
「毎日してるからな」

そう言うとはちは少し考えたようにして俺を見た

「なぁ、裕飛。前から聞きたかったんだけど、これいろんな人にやってんの?」

これ、とは頬に口付けする事だろう。なんとも今更な質問で拍子抜けだが、はちはかわいいので素直に教えてあげよう

「はちだけだよ」
「え、だって団蔵は?」
「あれは別格に決まってんだろ。団蔵は目に入れても痛くねぇんだから」
「…そうだよな」
「上級生はお前だけ。三郎も雷蔵も兵助も勘ちゃんにもしてない。きみだけ、だよ」

そう言うとはちなんだかは嬉しそうに笑ってくれた。昔、親が留守の時が多くて兄弟2人でいつも一緒だったから団蔵が寂しくないように始めた事だから別に深い意味はない。ただ俺が【今日も好きだ】とか【頑張ろう】とかそう言う軽い感じでする、所謂おまじないみたいなものだ。でも団蔵以外でそうしてあげたいと思ったのははちだけ

「お前は俺ん中じゃ特別な部類なんだよ」

言葉じゃ言いにくいけど、なんてゆーか大切なんだ

「そっか」
「あぁ。さ…てと、そろそろ行かないと」
「うわ、やべッ!もう少ししたら雷蔵と三郎が迎えにくるんだった!」
「あ!?早く言えよ!俺まだ半裸だし!」
「俺もだっ!」

2人でバタバタと慌ただしく動いていると部屋のインターフォンが鳴り響いた

『おーい』
「あーい!」
『裕飛?ご飯食べに行くよー』
「雷蔵まって!はち準備出来た!?」
「あぁ!」

はちの手を引いて部屋の扉を開けると雷蔵の笑顔と三郎の何か企んでいそうな顔が目に入り
後ろにいたはちと目を合わせて笑った

「早くしないと飯食べれなくなるんじゃないか?」
「おぉ!でもその前に俺、我が弟に朝のあいさつ…」
「裕飛中等部まで行く気か!?」
「それしたいならもっと早く起きなさい」
「…はーい」

((しょうがないからはちを引き連れて昼休みに行こうかな))





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