利吉と裕飛の戦争



学園長先生のお使いも済み、かえるだけで暇になった。でもせっかく街にきたしなにか買ってくかなぁ…なんて考えて団蔵はもちろん1年は組のみんなのためにお菓子を買うことに決めた

((どこのお菓子を買おうかな))

なんてうきうきしながら歩いていたら、何やら目の前に人集り。しかも女性ばっかり。なんだなんだと思って、覗けばその中心には憎き山田利吉の姿が見えた

((うわぁ。街で会うとかうきうき気分台無し…))


「裕飛くん?」


見つからない内にそっと逃げちゃえ!と思ったら、なんとお得意先の奥様に声をかけられた。何でここに居るんですか…?


「裕飛?」


ほらほら、見つかっちゃったじゃんよ。くそ耳障りな声が俺の名前を呼んで近づいてくる。超逃げたい。逃げ出したい


「裕飛、探したよ!」

「…はぁ!?」

「私達、お茶する約束してたじゃないか」

「なんでてめぇみたいなくそ野郎と仲良く茶なんか飲まにゃならんのだ」

「いいから!合わせてくれ」

「なんで…むっふ!」

「あらぁ、裕飛くんと約束だったの?」


ちょ!奥様違う違う!こんなくそ野郎と約束なんかしてない!誰でもいいから助けて!


「そうなんですよ!では私達は失礼します」

「むふー!」

「あらあら、呼び止めてごめんなさいね」

「いえいえ、それでは」


“ごゆっくり”と言う言葉を最後に俺は拉致られて薄暗い、路地に連れて行かれた


「はぁはぁ、何すんだ」

「いや、街を出歩いたら捕まってしまってね。困っていたんだ」

「勝手に困ってろ。くそが」

「裕飛、口が悪いぞ。私は年上だ」

「なんでてめぇなんかに敬語使わなきゃなんねーんだよ。話してやってるだけありがたいと思いやがれ」

「裕飛」

「あん?」


振り向いた瞬間、壁際に追いやられて、顎を掴まれた

“あんまり悪い子だと、その口塞いでしまうよ?”

にやり、目の前で野郎はそう言った。どきりとして俺は固まってしまう


「な、な…!」

「相変わらず素直でかわいい反応だね」

「はな、せっ!」

「おっと」


殴ろうとしたら、ひらりとかわされてしまう。“裕飛に殴られたら、怪我じゃ済まなくなるな”なんて言い方が優雅で余計に憎らしい


「はぁ…てめぇと居るとイライラするんだよ」

「私は久しぶりに裕飛に会えて楽しいよ」

「ふざけんな。てゆーか用済んだよな。俺、用事あるから」


そう言って、路地からでようとした瞬間“待って”と腕を掴まれた。触れられた腕から熱が帯びていくのを感じて、慌てて振り払った

((くそ、俺はまだ…))


「なんだよ」

「せっかくだからお茶しないか?」

「死ね」

「なんでだ?いいじゃないか。行こう」

「ちょっと待てよ!引っ張るな!」


野郎に引っ張られて再び明るい世界に包まれた


「すいません。お団子ください」


連れられて来たのは俺御用達のお店三島屋。ここの団子は美味い、羊羹も美味い…だけどな


「なんで野郎と2人で茶屋なんか来なきゃなんねーんだ!」

「…裕飛、立ち上がるとお茶こぼすよ」

「大体いつまでも手ぇ握ってんじゃねえよ!気持ち悪い!」

「手を離したら裕飛逃げるからね」

「当たり前だろ。さっさと帰りた…い?」


言葉を続けてる間に手が離れたと思ったら、がちゃりと言う金属音が聞こえた。何かと思って見れば、手錠が繋がっていた


「これなら大丈夫だね」

「…まじで殺すぞ」

「いいから、私は裕飛とお茶がしたいんだ」


“久しぶりの休日、付き合ってくれないか?”なんて儚い笑顔で言われたら何も言い返せなくて、どかっと椅子に座った


「…お茶したら帰るからな」

「ありがとう、裕飛」


にっこり笑われてどんな顔をしたらいいか分からなくてそっぽを向いた。それを見て野郎はまた笑ったんだ。長閑に流れる雲と時間、なんだか心地いいと感じ始めてる俺は確実に感化されてる


「裕飛は優しいな」

「ぶっ!いきなり何!?」

「昔と変わらない。優しくてかわいい」

「かわいいは余計だ」

「私の言いつけを守って、他人に暴力を振るわないし」

「てめぇを殴ろうとしたろ」

「本気じゃなかったのくらい知っているさ。それに、裕飛ならこんな手錠位簡単に外せるだろう?なのに逃げようとしなかった」

「そんなに力ねーからな」

「はいはい。そう言うことにしておくよ」


話してる間中、顔は見なかった。ただでさえ一緒にいるだけで顔が赤くなるのに目を見て話なんか聞いたらますます歯止めが利かなくなる

((終わったんだ。終わった恋なんだ))

そう言い聞かせながらお茶を飲み干したら、喉を火傷した。最悪


「今日はありがとう」


かちゃり、手錠が外れて腕が軽くなった


「もうこりごりだからな」

「あ、裕飛…ちょっと」

「ん?」


次の瞬間、唇に走る衝撃。“またね”と過ぎ去る背中。全てが一瞬でついて行けなかった。しばらくたって呆然としながら唇に手を当てて、今起きた事を考えた


「―――――…あんの野郎!」


((やっぱり大嫌いだ!))




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