日だまりの放課後。はちと部屋でお話ししようね、なんて言ってたのに委員会が入ったらしく慌てて部屋を出て行ったのが数分前。暇を持て余していると、突如訪れた訪問者
「裕飛」
「何、三郎?」
部屋にやってきたのは隣人で級友の鉢屋三郎くん。さっき外で勘ちゃんが庄左ヱ門くんと彦四郎くんを連れて歩いてるのが見えたのに、こんなとこに居て良いのかとか思ったけど、三郎が委員会さぼるのは今更過ぎるから何も言わなかった
「裕飛、ちょっと話をしないか?」
「急になんだよ。気色悪い」
「たまには真剣な話をする私も素敵だろう?」
「言ってろ。それで、話は?」
そう言った瞬間、暗転。次に見えたのは天井と電球と明るい髪の三郎
「何すんだよ、てめぇ」
((後頭部が痛い…))
精一杯の虚勢をはって三郎を見つめると、瞳がどこか悲しそうだった。そんな三郎は見たくないが、何かあったんだろう。とにかくこの状況を何とかしたかったけど、強い力で動くことが出来なかった。力は俺の方が強いのにおかしいな
「…どうした?」
「裕飛、抱かせてくれ」
「ふざけんな。どたまかち割るぞ」
「割られてもいい。抱かせてくれ」
「はっ、冗談。誰がっ!」
「裕飛…」
さらりと三郎の髪が肌を掠める。それと同時に感じた唇の柔らかい感触。あぁ、こいつ本気なんだと確信する
「…馴れてるだけあって反応薄いな」
「驚いてるっつーの。一体急になんなんだよ」
「裕飛」
嫌に三郎の声が響いた。さっきまで聞こえていた窓の外の騒がしい声も聞こえない。静かすぎて怖かった
「私は裕飛が好きだ。友として、人として、そしてそれ以上の感情を持ってると言っても過言じゃない」
「そりゃどーも」
「ずっと追いかけていた。3年前、利吉さんがいなくなって悲しんでる裕飛を見て正直チャンスだとも思った。振り向かせたいと思った」
「あんなくそ野郎の名前なんか出すんじゃねぇよ。胸くそ悪い」
「でもその穴は私ではなく八左ヱ門が埋めた。心底悔しかったし、羨ましくもあった」
「…はちには感謝してる」
「今、高校2年生になって、この気持ちを抑えようと何度も何度も裕飛を諦めようとした。でも出来なかった。愛してるんだ、裕飛」
「ありがとよ」
力が緩んだから起き上がって震える三郎を慰めるように抱きしめると、三郎は俺を突き放した
「諦めようとしたのに裕飛は何度もそうやって優しくしようとする。その気がないのにそんなことするのは止めてくれないか?」
「俺は別に…」
「食満先輩にしてもそうだ。その気が無いくせになんで突き放さないんだ!」
「食満先輩にその気が無い訳じゃなぁ…」
「じゃあ、今度は食満先輩が好きなのか?」
「…ちが、う」
否定の言葉が辛い。違う訳ない。好きだ。でも何かが違うんだ
「では、私にもチャンスがあるのか?」
「それは…」
「八左ヱ門よりも、食満先輩よりも私を好いてくれる可能性はあるのか?」
迫る三郎に俺はただ俯くしか出来なくて、ただただ、三郎に抱き締められて時間だけが過ぎていった。あの時何か言えばよかったと俺は後々後悔することになる。でも何も言えなくて、脳裏に浮かんだのは笑ってこっちを向くはちの姿だった
((分からねえ、助けてくれ))
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