部屋に入って息を吸うとつん、と薬品の香りがした。入り口付近に飾ってあるコーちゃんに軽く挨拶して中にはいると、ふわふわの茶髪を揺らして善法寺先輩がこっちを向いた
「やぁ、いらっしゃい。めずらしいね」
「委員会の仕事してたら腕擦りむいちゃって…消毒してもらえますか?」
そうやって言えば先輩はにっこり笑って手招きをした。よかった、留先輩の話だといつも善法寺先輩は怒って治療してくれなかったりするらしい。まぁ留先輩関しては潮江先輩とけんかして作る傷だからなんだろうけど
「いっ…」
「しみる?でもちゃんと消毒しなきゃいけないからちょっと我慢してね」
善法寺先輩の長い睫毛が揺れる。それになんかどきりとして、顔が赤くなる気がした。先輩は歴とした男性だけど、時たま女の子よりかわいい気がする。まぁ、立花先輩も綺麗な女性と間違えるように見えなくもないけど…
「はい、できたよ」
ぐるぐるに巻かれた白い包帯が目に入って大袈裟ですね、なんて笑ったらちょっとむっとした善法寺先輩の顔が見えた
「裕飛、怪我を甘く見ちゃだめだよ。傷口から膿んだりするんだからね」
「ただの擦り傷ですよ?」
「膿んでばい菌入ったら体に毒なんだから!」
「いつも人に毒を盛る人の台詞じゃないっすね」
俺は丈夫な体のせいかたまに善法寺先輩に変な薬を盛られたり色んなことをされる
「だって、裕飛とこうやって話がしたかったんだもん」
「話がしたいならいつでも保健室に来ますから薬盛るのやめてください」
「本当に?でも基本的に怪我人、病人以外受け付けないよ?」
「じゃあどうするんですか?」
「そうだなぁ、裕飛が僕と付き合ってくれたらいいよっ」
「…え」
それは真剣な目をした、男らしい善法寺先輩がそこにいて、いつもの優しくてふわふわした善法寺先輩はいなくて
((またこれだ…))
留先輩の時にも感じた歯がゆい感覚、自分たち以外の時間が一瞬にして消えるような感覚。どうしたらいいかわからなくて、先輩からも目が離せなくなって、やっと動きそうな口をぱくぱくとさせた瞬間、善法寺先輩は大きな声で笑った
「うそうそ、嘘だよ。裕飛変な顔ー」
「ちょ、からかわないでくださいよ!あーびっくりした」
「裕飛もびっくりすることあるんだね」
「どーゆー意味ですか」
ふてくされるとけらけら笑う善法寺先輩、こんなに笑うのも珍しいなと思いつつお礼を言って委員会に戻るために部屋を出た
「からかわないでください、か…」
俺が出て行った後ドアを見つめながら善法寺先輩が呟いた言葉を俺は知らない
((俺いつから弄られキャラになったんだよ…))
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