例えば世界が明日終わるとしたら俺は何するんだろう、なんて目の前に赤いリボンを揺らして俯きながら真っ赤になっている女の子を見ながらそう思った。“えと、あの…加藤先輩”なんて呼ばれてちょっとびっくり。後ろには野次馬根性丸出しの同級生達、ため息が出そうだ
「あの、好きです」
「…ありがとー、嬉しいよ」
にっこり笑って頭を撫でるとその子はより真っ赤になって、ありがとうございます!なんて言って走っていった。こんなYESかNOか分からん回答でよかったのか?
「裕飛もってもてー!」
そんな声と共に最初に出てきたのは今回のことの発端の勘ちゃん。それからぞろぞろと出てくる同級生達。君達暇なのね
「あんなんでよかったかなぁ」
「裕飛、勘違いされたかもよ?」
「そうなんだよなぁ、付き合ってくださいならまだしも、好きです、しか言われなかったからどうしようかと思った」
「もしYESと取られたら付き合うのか?」
「やだなー兵助、団蔵のことでいっぱいいっぱいで付き合わないよ。丁寧にお断りする」
かわいい弟に手をやくことでいっぱいいっぱい、なんて言えば、だよねーなんてちょっと失礼な勘ちゃんの返事が返ってきた。そしてはちも嬉しそうに笑っている。うん、ちょっとじゃないな、ちょー失礼!でも団蔵が大切なのはしょうがない
((団蔵は何にも代え難いぜ))
そんなこんなで青春の1ページとも言える告白タイムはさくさくと終了し、各々用事ってゆーか委員会があるため足早と解散になった
((三郎と勘ちゃんはお菓子食べてごろごろするだけなんだろうけど…))
そんなことを思いつつ歩いていると見覚えのある顔に呼び止められた
「裕飛先輩」
「お、ユキちゃん…何かな?」
金色のふわふわの髪を頭のてっぺんで結んで、短いスカートから細くて長い脚が見えた。表情がなんだか冴えないと言うか怪訝な顔つきで“さっきのやり取り見ました”と小さな声で言われた
「先輩は好きでもない子でも付き合えるんですか?」
「付き合えなくは無いけど、基本的には厳しいよね。相手のためにならないし…」
「ならなんではっきり“好きだけじゃ困る、どうしたいの?”って聞かなかったんですか!?中途半端って1番可哀想です!」
まるで自分のことのように涙をぽろぽろこぼしながらユキちゃんは叫んだ。小さくなった細い体は近づくと俺の胸の中に倒れ込んできたからぎゅっと抱きしめて背中をぽんぽんと優しく叩いた
「…なんで抱きしめるんですか」
「ユキちゃんが泣いてるから、さっきの子の代わりに泣いてくれてるからさ」
「そんなことばっかりするから、先輩は知らない人にも告白されちゃうんですよ」
「知ってる。でも、女の子が泣いてるのに放って置くことは出来ないから」
そう言って大粒の涙を拭くと、裕飛先輩のたらし、なんて失礼な言葉が返ってきた
「先輩はずるい、です」
「なんで?」
「先輩は人を好きにさせることはしても、好きになってくれないから…」
そう言ってユキちゃんは今度はしっかり俺に抱きついてきた。耳が赤くなっている。言いたいことはわかる。でも答えることが出来なくて、小さく細い体をもう一度だけ抱きしめて、背中をゆっくり叩いた。ユキちゃんはえへへって笑って、諦めませんからとだけ言って俺から離れていった
((ごめんね、好きになってあげられなくて…))
prev next