それって被害妄想じゃない?



今日は日曜日で休みだったんだけど、先週から団蔵に言われていた剣道部の大会があると言うことで、バイクを飛ばし隣町の道場にやって来た。木の扉を開けるとそこはすでに来ていた団蔵のクラスメートや先生方がわらわらと集まって熱のこもった応援をしていた


「団蔵、裕飛来たか」

「山田先生」


入り口付近に座っていた山田先生に声を掛けられ、俺はその隣に座る。先生に挨拶すると団蔵はクラスメートの方をちらちらと見ていた

((あっち行きたいんだなぁ…))


「団蔵、俺はいいからみんなのとこ行っておいで」

「本当に?」

「あぁ。俺ずっとここにいるし」

「分かった!じゃあ兄ちゃん僕あっちにいくね!」


俺にぎゅっと抱きついた後笑顔で駆けていく団蔵。少し寂しいが、こればかりはしょうがない


「…寂しいのか?」

「えぇ」

「食い気味で返事をするな」

「すいません。てかまだうちの学校の試合は始まってないんですねー間に合って良かった」

「これからだ」


山田先生がそう言うとすぐにうちの学校の名前が呼ばれ、顧問である戸部先生と一番弟子ってゆーか唯一の入部者の皆本金吾くんが精悍な面持ちで姿を見せた。金吾くんが出てくるとは組のよいこたちは挙って大きな声で声援を送る。金吾くんはそんな応援に少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに手を少しだけ振っていた

((応援って嬉しいけど少しだけ恥ずかしいんだよなー))

なんて思ってると一際大きくて、は組のかわいい声とはかけ離れた声が後ろから聞こえてきた


「きぃんごぉ!いけいけー!どーんどーん!」

「七松先輩!こっそり応援するって…あ!三之助、お前は勝手に動くんじゃない!」


見れば“あぁ、やっぱり”と言いたくなってしまう暴君七松小平太先輩と体育委員会の面々だった。滝くんは暴君を抑えつつ次屋くんの縄を引っ張っていて相変わらず大変そうだ。そしていつの間にやら隣にいる時友くんを抱きかかえて一緒になって金吾くんを応援する


「金吾、がんばれー!」

「金吾くん俺がついてるぞー!」

「裕飛…お前は部活の先輩でも小平太みたいに委員会の先輩でも無いだろう」

「言ってみたかっただけっす」


でも団蔵の友達だから真剣に応援するのは当たり前です、と山田先生に言えば、そうだなと笑って外で騒がしく応援してる七松先輩達(騒がしいのは先輩だけ)を呼んでみんなで金吾くんを応援する。ものすごく増えた応援に戸惑いながらも手を振り替えす金吾くん。その期待通りに金吾くんは着々と勝ち進み、決勝に駒を進めた


「次の対戦相手は…」

「やぁ、忍術学園の諸君」


聞き覚えのある声に振り向くと目に入ったのは派手なパンツと赤いサングラスで、すぐに家のお得意様の魔界之小路先生だってわかって、俺も笑顔で対応する


「お、コージ先生!今日もハイセンスなパンツはいてますね」

「裕飛くん、また通販に失敗してしまってね。せっかく熱心にやり方を教えてもらったのに裕飛くんには申し訳ない気分だよ」

「気にしなくていーすよ。コージ先生は家のお得意様なんで!また何かあればぜひ!」

「ありがとう」


コージ先生と話に花を咲かせていると次の対戦相手が発表され、コージ先生がにやりと笑う


「次はうちのいぶ鬼とだ!」


コージ先生がそう言うと“忍侠人間育術学園VS独立剛城付属中学校”と高らかに宣言され、金吾くんが前にでる。少し遅れて反対側に立ったのは独立剛城付属中学校のいぶ鬼くんだった。独立剛城付属中学校とは通称ドクタケ中であり、隣町にある剛城の付属中学校である。普通私立とか町立とかなはずなのに独立なのは剛城の幹部の方が直々に学園長をしているからだとか。生徒は4人という廃校間近なのにみんな元気というある意味恐ろしい中学校である。担任の魔界之小路先生は通販利用者として顔馴染みだ。生徒4人もたまに宅配便で家に行ったり団蔵を通じて一応顔馴染みだ


「お互い、良い試合をしましょう」

「コージ先生俺じゃなくて戸部先生に言うことでしょ!」

「おっとそうだった。戸部先生、胸を借りるつもりでお願いします」

「あぁ…」


ゆらりと戸部先生が揺れて互いに挨拶をし、金吾くんといぶ鬼くんがお互いを見合う頃には辺りは静かになり、2人の試合の合図を待つ

((うっわー…この空気むーりー))

あの暴君も静かだから余計に変な感じがして、ちょっと引き気味に、でも興味あるから見たい気もするー…なんて思いつつ腕の中にいる時友くんを抱き締める力を強めた瞬間、バカでかい騒音が背後から聞こえ、道場にいた全員が振り向いた。


「たのもーぅ!」


入ってきたのはちょんまげ姿で腰に刀を2本挿してるなんかがたいの大きい人。なんだなんだと思っていたら、は組のよい子達が声を揃えて“花房牧之助”と叫んだ。隣の山田先生は頭を抱えてため息をついている。どうやら知り合いらしい。でもなんかぼろぼろなのはなんでだ?


「戸部心左ェ門、しょーぶ!じゃなかった…おい!そこのお前!」

「え?俺?」


戸部先生を指名したと思ったら刀は俺の方に向けられてる。俺なんかしたか?

((いやいや、つーか初対面っす))


「あんた誰さ」

「俺は天下の剣豪、花房牧之助様だ!」

「へー牧之助さんねー」

「兄ちゃん、牧之助に対してさん付けなんかいらないよー」

「そうですよ、裕飛先輩。牧之助はこうやってたまに忍術学園とかにきて、戸部先生に勝負を挑んでくるんですよ」

「迷惑な奴なんすよ」

「ふーん」


団蔵、乱太郎くん、きり丸くんの説明からすると、花房牧之助さんは戸部先生を永遠のライバルとして、新しい技が出来次第、どこでもかんでも現れて技をかけて勝手に負けるらしい。うん、迷惑な人だな!


「つーかその天下の剣豪さんが俺になんの用事っすか。俺は剣術たしなんでねーよ?」


このご時世に帯刀して剣豪って正直どうなんだとか思うけど、金吾くんの憧れ戸部先生も帯刀して学校を歩いてるからなんも言えねぇけど…

((戸部先生の場合は木刀か))

とにかく、剣道も何もしてない俺には逆恨みされる理由が全くわからない


「ここで会ったが100年目…覚悟ー!」

「はぃぃぃい!?」


急に襲いかかられて、びっくりしたけど時友くんを抱いていたから逃げるに逃げれなくて、思いっきり頭突きをかましたら刀が割れた。よく見ると千歳飴だ。おい、きたねーな


「あぁ!俺の大事な刀が!」

「いやいやそれ千歳飴…まぁなんでも良いけど」

「兄ちゃん!」

「団蔵、俺こんなキャラ濃い奴とあったかぁ?客だったら絶対忘れねぇし…誰さ?」

「天下の剣豪、花房牧之助様だ!忘れたとは言わせないぞ!」

「会ってねえし、初めてだし」


なんか鬱陶しくなって睨んだら、牧之助さんは少しビクついたあと、忘れたなら話してやる!と、なんか話し始めた


「あれは今日の朝の話だ…」

「え、聞くの?」

「裕飛先輩、後々ややこしくなるんで聞いてあげて下さい…」

「乱太郎くんが言うなら…分かった」

「…話して良いか?」

「どうぞどうぞ」


では、改めて!と牧之助さんが話し出す


「あれは今朝、朝ご飯のおにぎりを食べようと岩場に腰掛けた時のこと…」


『今日は贅沢に鮭おにぎりかぁ…いっただきまーす!んあ?』

「遠くからものすごい騒音と、煙が上がっていてだな…」


『おらおらおらぁ!』

『兄ちゃーん!』

『あぁん!?』

『気持ちいねー!』

『そうかぁ、ならまだまだ飛ばしてやるよ!ひゃっほぅ!』

『な、なんだあれ…』


「そう思った次の瞬間、バシャっとどろが跳ねて、おにぎりもろとも泥だらけになってしまったのだ!」

「…裕飛、お前何してるんだ」

「いっやー交通規制無いところを久しぶりにバイクかっ飛ばしたんでテンションあがっちゃってー」

「兄ちゃんのバイク乗ると気持ちいんだよ!」

「まてまてー!この話には続きがあるのだ!」

「はぁ…」

「泥だらけにされた俺は当然腹が立って、文句を言おうとバイクを追いかけたのだ!」


『そこのバイク待てー!』

『兄ちゃーん!』

『あぁん!?なんだ、団蔵ぉ!』

『速すぎてヘルメット飛んじゃうー!』

『おぅ!そうか!危なねぇな!じゃあ止まるか』

『なっ!ぎゃー!』

『『ん?』』


「次の瞬間、急に止まったバイクにより、俺は跳ね飛ばされたのだ!」

「…当てつけじゃねーか」

「なんで急に止まるんだ!」

「あぁ!?てめぇ団蔵のヘルメット飛んだらどうすんだよ!事故に合った時団蔵死んじまったらてめぇも殺すからな!」

「う、な…っ!」

「兄ちゃん!僕の為に兄ちゃんの手を汚さないで!」

「団蔵、でも俺、事故なんか起こさないからな!大事な団蔵の柔肌に傷がついたら、俺は…俺はっ!」

「兄ちゃーん!」


ぎゅうっと抱きついてくる団蔵を強く強く抱きしめる。山田先生の呆れた顔と大会会場にいるは組のよい子達以外の呆気にとられた顔が目の端に映ったが気にしないことにした。だって団蔵かわいいもん


「と、とにかく!お前!」

「あん?」

「う、おにぎりを汚した罪とバイクで俺様を跳ねた罪で慰謝料を請求する!」

「断る」

「なに!?」

「飯なんかまた買って食えば良いじゃねぇか。バイクで俺はぶつかってない。てめぇが勝手にぶつかって来たんだろうがよ。被害妄想ひでぇよ」

「うるさいうるさい!人の愛刀も粉々にして!」

「あれ千歳飴じゃん」

「こうなったら武士らしく決闘だ!」


そう言って、金吾くん達を退かし、中心に移動する牧之助さん。なんか巻き込まれた感半端無いんですけど…

((つーか俺武士じゃねー))

どうしたもんかと隣の山田先生を見ると、素直に従った方が早く終わるぞと目で訴えられたため、団蔵を体から引き離し、時友くんを立ち上がらせて、道場の中心に移動した。急な事件により、困った顔した審判さんと金吾くんといぶ鬼くんが見える。なんか申し訳ない


「裕飛先輩…」

「なんかこんな事になってごめんね」

「いえ、大丈夫です。それと裕飛先輩、僕の竹刀使ってください」


そう言って渡された金吾くんの竹刀。一生懸命練習したのか、持ち手は黒く、少し剥げている。強く握ったら、軋んだ音がした

((思ったより脆い…))

金吾くんの頭を撫でて、いつの間にか手に木刀を持っている牧之助さんと相対する。審判さんに代わり山田先生が1本勝負と言い、道場が静まり返った


「はじめっ」

「でやー!」


木刀を振り上げて牧之助さんが勢いよく向かってくる。なんか1年前も似たようなことがあったなーなんてぼんやり思いながら攻撃を避ける

((あん時は金属バイクだけど))

攻撃を避け続けていると、牧之助さんはだんだん息が荒くなり、動きが遅くなった


「はぁ、はぁ…お前、避けるなぁ!武士らしく勝負しろー!」

「だから俺武士じゃねぇって。大体この竹刀金吾くんのだから粗雑に扱えないし…」

「隙ありっ!」


相手の話に応じていると突然木刀を突き出された。しかも目を目掛けて。もちろん避けれたけど卑怯極まりない


「ふ、これを避けるとはなかなかやるな」

「…あんた武士らしくとか言ってて最高に卑怯だよ」

「これで決める、覚悟ー!」

「話聞けよ、おい」


再び向かってくる牧之助さんにちょっといらいらしてきて、こんなバカらしい決闘(にはなってない)を終わらせたいし、ちょっと本気だして、俺も牧之助さんに突っ込み、竹刀で木刀をはじく。勢いよく飛んだ木刀は七松先輩のところに行き、先輩は飛んできた木刀を振り回しながら応援してくれる。一方、得物がなくなった牧之助さんは慌てながら“タンマタンマ!”と叫んでいる

((…待つかよっ!))

そのまま尻餅をついて後ろに逃げ惑う牧之助さんをゆっくり追いかけ、振り上げた竹刀を一気に床に突き刺すと、壮大な音を立てて床に穴があいた


「俺にケンカ売ったんだ。高くつくぜ?」

「は、ひっ…」


勝負あり、一本!と言う山田先生の声が響きわたり、道場は歓喜に包まれた。俺の愛らしくてかわいい団蔵が駆け寄ってくる。あぁ、かわいい団蔵!


「兄ちゃんの勝ちだ!」

「どうすんのまっきー」

「お、覚えてろよ!」


逃げ腰になりながら勢いよく道場から逃げていく牧之助さん。とりあえず一件落着


「さーて試合の続きでも見るか!」

「いや、試合は中止だな」

「え?なんでですか?」

「お前が床に穴を空けたから危なくて出来んだろう」


山田先生が指差す方向に大きな穴と突き刺さっている竹刀。そんな道場を寂しそうに見つめる金吾くん。体中から嫌な汗が噴き出した。結局今日の剣道大会は中止になり、後日用具委員会は道場の修理をすることになった


「裕飛、学内だけじゃなくて市内のも壊すのはやめてくれ」

「すみません、留先輩…」


((不可抗力だっ!))






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