スキッスしようZE☆

※某笑顔動画よりインスピ!
作品との関係性はありません

ある晴れた絶好の委員会日和の中、とんでもない爆弾を投下したのはめずらしくこの人でした。

「なぁ、裕飛…お願いがあるんだ」
「んー留先輩改まってなんですか?団蔵ならあげませんよ?」
「いや団蔵じゃなくて、どっちかって言えば裕飛を含め用具委員にお願いなんだが…」
「はい?」
「…きす、してくれないか?」
「――――――…は?」

その留先輩の言葉の後は俺はもちろん、俺の後ろにいた作兵衛の動きすら止めた。
((この人何言ってんだ!))

「――――…てな事があったんだよね」
「そうか、裕飛がめずらしく俺んところにくると思ったら逃げてきたわけか…」

所変わって俺は今生物委員会が管理している飼育小屋にやって来てさっきの出来事を同室のはちにご報告。作兵衛には悪いがなんか貞操の危機を感じて脇目も降らず逃げ出してしまった。かわいい後輩を生け贄にしたのは少し罪悪感だ。

「まさか留先輩まであんなこと言うなんて…」
「それは違うんだよ裕飛。俺や三郎と兵助はさっき学園長先生に呼ばれていなかっただろ?」
「うん」
「実は学園長先生のいつもの思いつきが関係してるんだよ」

なんて苦笑いしながら俺に説明してくれた。なるほど、確かに留先輩は他の先輩に比べて常識人だから変態行為なんかしないよね、うん。なんだ誤解か、安心した。そう思ったら嬉しくなって思わず俺のすぐとなりに伊賀崎くんを抱き締めてしまったけど嫌がるどころかむしろ俺に引っ付いてきた…。

「伊賀崎くんどした?」
「孫兵…?」
「…竹谷先輩はこっちに来ないでください」
「うわッ!」

ぽそっと伊賀崎くんが何か呟くと彼の周りにいた毒虫が一斉にはちに向かって行ったり、彼女(?)のジュンコもすごい威嚇している。伊賀崎くんの躾がいいから俺に害は無いけれどあぶない…

「お前伊賀崎くんに何したんだよ」
「何にもしてないよ」
「何もないなら伊賀崎くんこんな事しねぇっての」
「…強いて言うなら食満先輩と同じように俺も委員長代理だから学園長先生の思いつきに振り回されてるんだよ」

はーん…なるほどね。そりゃ大変なことですね。てか今回の学園長先生の困った思いつきの内容は一体何なんだろう?きすと関係あるんでしょ?しかも委員長と委員長代理だけが困るようなことなんだよね…

「伊賀崎くん、何があったの?」

考えてても埒があかないと思い、いまだにはちを睨みつけて臨戦態勢の伊賀崎くんにそっと事情を伺うと、俺の顔を見て顔を真っ青にさせた。
((いったい何したんだ…))

「顔青いんだけど、大丈夫?」
「裕飛先輩…ッ!」
「よしよし、伊賀崎くん俺がついてるぞー」

涙目で抱きついてきた伊賀崎くんはかわいいがはちが声をかけると軽蔑の眼差しを向けているのが見えた。かわいい後輩に侮蔑されてたじろぐはちも同時に見えた。しかしそんな事を続けられても第三者の俺に事の事情が伝わるわけもないので、再度何があったのか、と攻防(?)を続ける2人に問いただせば、伊賀崎くんが意を決したように顔を勢いよく上げて口を開いた。

「裕飛先輩聞いてください」
「おう。聞く聞く!…どした?」
「た、竹谷先輩に…」
「うん」
「く、くちづけするように言われました…」

ほほー!口付けね。俺が毎朝団蔵とはちにするやつね。はいはいはいはい…
口付け=接吻=kiss=…love?

「はち、お前本物さんだったのか?」
「裕飛…今最後の解釈明らかにおかしかったよね?ごめん、全然そう言うのじゃないから」
「嘘です!竹谷先輩、僕達に口付けするように言ってきたんです!」
「僕達?」
「竹谷先輩は僕だけじゃなくて生物委員会みんなに言ったんですよ!“きすしてほしい”って!」

伊賀崎くんの口から出たセリフやらシチュエーションが激しくデジャヴだけど、まさかはちがそんなこと言うなんて思わなかった。

「お前口付けなら俺が朝したじゃんか」
「竹谷先輩と裕飛先輩は毎朝そんなことしてるんですか!?」
「うん。習慣だしーあと団蔵にもするんだよ」
「…恥ずかしくないんですか?」
「別に。一種の挨拶だし…あ、もしかしてはちもっとしてほしかったの?」

毎朝してるけど一回きりだったもんね。もしくは頬だけじゃ飽き足らなくて唇にしてほしかったとか…?

「はち、いつからきす魔に?」
「竹谷先輩、キス魔だったんですか」
「ちがーう!裕飛妄想ひどすぎる!孫兵、断じて違うからな!」

そうやってはちは必死に弁解するも、伊賀崎くんの目はいまだにはちを睨んでいる。

「もう信用無くなったっぽいね。きすしたいなら俺がいくらでもしてやるってば」
「だからそうじゃないんだって。それに孫兵じゃなきゃだめなんだよ…」

はちのことだから弁解かなんかのための言葉なんだろうけど、端から見ればとんだ口説き文句。おかげで伊賀崎くんは赤面を通り越して硬直している。天然って言うのは本当に…。

「お前新手のたらしか」
「え?」
「…何でもない。とにかく、なんで伊賀崎くんときすしたいの?やっぱりlove?本物?」
「何度も言うけどその2つは全然違うからな。そりゃ孫兵は好きだけど後輩としてだし…」
「じゃあ何?」
「…言えない」
「はぁ?」
「言えない決まりなんだって!強いて言うなら学園長先生の思いつきや、食満先輩が裕飛に言ったことと深く関わってるってこと」

はちは素直でいい子だから絶対に嘘はつかない。そんなはちが言うことなんだから本当なんだろう。深く追求しないでおく。

「秘密なのね」
「あぁ、悪い」
「いーよいーよ。訳があるってことがよくわかったし、目標のために伊賀崎くんと仲良く鬼ごっこ続けなよ」
「え!裕飛先輩行っちゃうんですか!?」

すっと立ち上がると隣にいた伊賀崎くんは不安そうな目で俺を見上げていた。普段感情変化をあまりしない子でも危険なときはこんな顔するのか…やっぱり伊賀崎くんも人の子だなー。

「そんな顔しなくたってはちは伊賀崎くんのこと取って食ったりしないから。それにわけありみたいだし…君は俺が守んなくてもお友達がたくさんいるじゃん」

いまだに周りにわさわさしている毒虫や威嚇体制のジュンコは間違いなく強い。

「大丈夫だって、ね?」
「はい…先輩はどこ行くんですか?」
「最初に言ったでしょー逃げてきたって。逃げるの!」
「え、誰から…「じゃあはちまたね!」
「あぁ、気をつけてな」

伊賀崎くんの言葉を遮り、はちに別れを告げて足早にその場を後にする

「裕飛先輩、どこに…」
「竹谷!」
「あ、食満先輩。裕飛ならついさっきどこかに行きましたよ」
「そうか…ずっと逃げられてるんだ。誤解されたままな」
「大丈夫です。さっき一応当たり障りないくらい事情を話しましたし、裕飛の事だからそのうち自分から先輩のところに戻りますよ」
「すまないな、竹谷」
「いいっすよー」

自分の目の前で仲良く話をする先輩に疑問と不信感を覚えながらも、孫兵はジュンコの頭を撫でながら裕飛が行った方向を見つめていた。留先輩の気配を感じて慌てて逃げて来たものの、勢い余って中庭まで来てしまった。うーん…何をしたらいいかさっぱりわからない。しかも今は全校生徒が委員会中のため、一緒に学校をうろつく相手もいない。まぁ、さっきみたいに委員会やってる級友を訪れて暇をつぶすってのもありだろうけど、そんなことしたらすぐに留先輩に捕まっちゃうからできない
((つか委員会さぼんの何気に初めてでどうしたらいーか真面目にわかんないんだけど…))
自分で言うのもなんだが、俺は根は割と真面目な方だし、委員会で仲違いしたのもこれが初めて。今まで一度も留先輩を拒否したこともなかった。
((まぁ、留先輩があんなこと言うから正直ショック通り過ぎて引いたから逃げて来たんだけどー…))
ふらふらと中庭を歩いていると遠くから騒がしい声が聞こえてきた。よく見るとあの暴君率いる体育委員会で、自慢の髪を靡かせるどころか気にも止めず振り回して走る滝くんと同じく涙目で滝くんの横を走る金吾くんと、滝くんに抱えられてぽやんとした顔の時友くんがこっちにやって来た。

「おー滝くんに金吾くんに時友くん。血相変えてどしたー?」
「はぁ、はぁ…裕飛ぜんばい…ごんにぢわ…」
「おいおい…大丈夫かよ」

ぜーぜー言いながら俺に挨拶する滝くんの背中をさすっていると今度は聞き覚えのある口癖が遠くから高らかに響き渡り、滝くんと金吾くんの顔が青ざめた

「たッ、滝夜叉丸先輩!ど、どどどどうしましょう!?」
「おおおちつけ金吾!まだ七松先輩に私達の居場所はばれてないからな!」
「なんだいつもの鬼ごっこか?」
「いつもの鬼ごっこだったらどれほどよかったことか…」

ぼそっと滝くんが言葉を零す。体育委員会名物の1つでもある鬼ごっこよりひどい鬼ごっこって一体何なのだろうか?

「つか次屋くんいないけど探さなくていーの?」
「三之助には悪いが今回だけはあいつを探しに行く余裕がないんです!」
「次屋先輩には申し訳ないんですが、自分の身の安全の確保が第一です!」
「そんなに?」

滝くんだけじゃなく、金吾くんも涙目で訴えてくるくらいだからよっぽどひどい鬼ごっこをしているんだろう。さすが暴君と言われるだけあるな…うん。

「しょうがない、丁度いい暇つぶ…いやいや、せっかくだから俺が3人を匿ってやるよ」
「本当ですか!?」
「おぅ!まかせろー。てかどんな鬼ごっこしてんの?」
「実は…「みーっけ!」

滝くんの説明を遮って聞こえた猛々しい声とその主。途端に固まる目の前の(時友くんを除いた)後輩達

「噂をすれば猛獣登場…ってか?」
「おぉ!そこにいるのは裕飛じゃないか!委員会はどうしたんだ?」
「今日の用具委員会のメニューは鬼ごっこなんですよ。七松先輩」
「そうか!体育委員会と一緒だな!」

楽しそうに笑う七松先輩に比例して滝くんと金吾くんは俺の後ろに回って身を寄せ合って震えている。俺が蝶々を追いかけている時友くんを抱き上げると七松先輩は何か気がついたように時友くんに手を伸ばした

「裕飛、私達はまだ委員会の途中なんだ。後輩を返してもらえないか?」
「そーしたいのは山々なんですけどねぇ…生憎七松先輩の後輩達にちょっと頼まれたのでそれは無理なお願いです」
「何!?滝夜叉丸!裕飛を雇うなんてルール違反じゃないか!」

俺の後ろに隠れている滝くんを指差して言う七松先輩に少し怖じ気づくも、その後滝くんは少し顔を出しつつ、いつもの先輩をきちんと立てる滝くんには珍しく七松先輩を睨みつけ“七松先輩から私達の貞操を守るため、致し方ないことです!”と金吾くんを抱き締めながら叫んだ
((てか今滝くん、自分等の貞操守るっつった?))

「なんでもいーけど、今日の委員会の内容はなんだったの?」
「普通に裏裏山までマラソンをする予定だったんですが、七松先輩がいきなり“キスして欲しい”と僕達に迫ってきたので、逃げたらいつの間にか鬼ごっこになっていたんです」
「なるへそ。時友くん分かり易い説明どうもありがとう」

ただ、ここでもか!とぜひつっこみたい台詞が聞こえたがな

「ふーん、七松先輩もキス魔なんですか」
「いや、留三郎はどうか知らんが私は違うぞ」
「…俺まだ留先輩の名前出してないんすけど」
「言わなくてもわかるぞ!裕飛も留ちゃんに“キスして欲しい”と言われて逃げてきたんだろう?」

残念だが図星だ。この人普段何にも気にしないくせに感だけは凄まじく鋭いからなぁ。

「そうですよ。だから委員会さぼって逃げてるんですー」
「そうか!でも裕飛これは学園先生から与えられた私達委員会の試練なんだ」
「試練ねぇ…はちも言ってたんですけど、具体的に何なんですか?」
「なんだ裕飛知らないのか」
「はい。何がなんだかさっぱり」
「ふむ、じゃあ私が教えてあげよう!実はこれには深いわけがあってな…昨日委員長と委員長代理が学園長先生に呼ばれたことは知っているね?」
「ええ、一応」
「実は私達は学園長先生からある課題をもらってな、それが【委員会の後輩との親密度をはかるために今日中に口付けをする】という内容なんだ。ちなみにできない委員長は次の休暇が全て補習に返上される」

なるほど、だからみんな焦ってがんばってるのか…しかしはた迷惑な話なんだ。

「…ってちょっとまって」
「裕飛先輩、どうしたんですか?」
「いやぁ…金吾くん、今七松先輩は“全ての委員長と委員長代理”って言ったよね?」
「はい…」
「そんで休みが取れるようにとあの手この手で委員に口づけしようと必死になってるんだよね?」
「そうですね…それで僕達は逃げてるんですけど」
「もう1つ質問していい?」
「はい?」
「…会計委員会は今、徹夜何日目?」
「―――――――…」

俺の一言に金吾くんの動きが一瞬止まり、滝くんは顔を青ざめながら恐る恐る口を開く。

「…私の記憶が正しければ、確か三木ヱ門は4日程寮には帰って居ません」
「だ、団蔵も帰ってきてないです」
「おぉ!昨日文次郎も来ていてな、休みが欲しいから今日中に終わらせると言っていたぞ」
「だんぞおぉぉおおおお!」
「あぁ!裕飛先輩!」

七松先輩のとんでもない言葉にいてもたってもいられず慌てて時友くんを滝くんに預けて愛しい団蔵の元に向かった。

「やはり裕飛は体育委員会に是非とも欲しいな!…今度留三郎に相談しよう」
「な、ななななな七松先輩!なんで火に油注いじゃうんですか!」
「ん?」
「裕飛先輩暴走してしまいましたよ!?」
「いやー裕飛がいたら私が休み無しになってしまうからね?」
「ひっ…」
「…金吾、怖がる暇があるならさっさと逃げるぞ!」
「は、はいぃ!」
「お、まだ鬼ごっこするか?いけいけどんどーん!」
「「ぎゃー!」」

その後学校中に平くんと皆本くんの悲鳴と七松先輩の楽しそうなかけ声が響き渡ったという…。七松先輩から恐怖の真実を聞いて猛ダッシュで会計委員会がいるであろう会計室まで向かう。途中廊下ですれ違ったテカリ先生…いやいや、安藤先生に“廊下を走るな”と注意され、団蔵のことについて嫌みや自分の担当の1年い組の自慢話が始まり、あまりにも鬱陶し…じゃなくて!1分1秒をも争う俺は先を急ぐため安藤先生に思いっきりラリアットをかました。その様子をたまたま通りかかった2年い組の川西左近くんに見られちゃったし、安藤先生が顔面蒼白になったから保健委員会である川西くんにあとを頼み、さっきのことを“秘密な”と言ったら首を縦に振ってくれた。ただ川西くんの顔が青かったのがちょっと心配だなぁ…。
((保健委員会も忙しいんだな…))
なんて思いつつ、やっと着いた会計室。息があがるのを整えつつ、襖に手をかけた瞬間…

「せ、接吻してくれないか?」

襖越しに耳を疑いたくなるような言葉が聞こえて、それが潮江先輩の気持ち悪い声だと気づくのにたいして時間はかからなかった。
((ちょっとマジでこれやべぇ!))
俺のかわいいかわいい団蔵の貞操の危機だと思って、慌てて襖を開けた

「おら!ギンギン!このロリコ…「はぁ!?」

と俺の罵倒は誰かの怒鳴り声と重なって、先輩の耳には入らなかった。しかも俺の声と重なったのは、アイドル学年の三木くんであり、見たこと無い鬼の形相をしている

「…すみません。徹夜4日目にして耳まで遠くなってしまったみたいです。1年が潰れ、先ほど左門も潰れたばかりですが、委員長何かおっしゃいましたか?」
「い、いやなんでもな「じゃあ黙ってください」
「…ごめんね」
「黙れ」

…やべえ。三木くんちょーこえぇ。これがあの可愛いアイドル?裏表ありすぎじゃない?もしかして今のが三木くんの本性とか…

「裕飛先輩、いらっしゃってたんですか?」
「うひゃあ!」

考えていたら目の前には三木くんの顔があり、いつもの慎ましやかな表情で俺に聞いてくるから、びっくりして数センチ飛んだ。おまけに変な声も出たから三木くんは一瞬きょとんとしたあとすぐに“団蔵は奥で左吉と一緒に潰れていますよ”といつものアイドルスマイルを俺に向ける。若干背筋が凍った。

「わ、悪いな…忙しいのに来て」
「いえ、裕飛先輩ならいつでも大歓迎ですよ」
「そ…そうか?でも邪魔しちゃいけないから団蔵と左吉くんに布団掛けてから出て行くわ」
「いつもすいません。ついでに左門もお願いできますか?」
「はい…」

団蔵と左吉を抱えた時に三木くんに言われて、いつもなら潮江先輩の怒鳴り声が聞こえるはずなのに今日は大人しい、てゆーか俺に救いの眼差しを向けてる。あの潮江先輩が、だ。

((裕飛…))
((無理です))
((まだ何も言ってないだろう!))
((言いたいことはわかります。だから無理です))
((…頼む))
((無茶言うな。俺だってこんな疲れてるときにそんな事言われたらキレたくもなるわ。だいたいあんたといい、留先輩といい…自分のことばっかりだ))
((…何?お前もまさか留三郎から逃げ…「裕飛先輩」
「は、はい!」

潮江先輩とひっそりと会話をしていた仲を三木くんの声が遮った。笑顔がすっごく怖く見える、冷や汗が背中を辿る。

「裕飛先輩、食満先輩がいらっしゃいました」
「え?」

そう言われて振り向くと息を切らした留先輩が入り口に立っていた

「はぁ、はぁ…裕飛、やっと追いついた」
「留先輩、お疲れ様です。息切らしてるなんて珍しいですね」
「裕飛…帰ろう」
「いやっすよぉ」

息を整えながら睨んでくる留先輩に爽やかな笑顔で答える。じりじりと迫る留先輩に今度はあえてふざけながら対応する。後ろには団蔵がいるから起こしたら可哀想だし、迂闊には動けなかった。

「裕飛、わがまま言うな。今委員会中だぞ。帰るぞ」
「いーや!」
「先輩方おいかけっこですか?珍しいですね。あ、帳簿は踏まないでくださいね」

そんな俺らのやり取りを三木くんが不思議そうに、ちょっと迷惑そうに聞いてきた。

「でも裕飛先輩、委員会をさぼるのはあまりよろしくないかと…」
「三木くん、ごめんね邪魔しちゃって。でも俺もさぁ自分の貞操守りたいんよ」
「え…?」
「俺、何で逃げてるか教えてあげる。さっきそのヘタレギンギン野郎が言ったことを留先輩にされそうになってるから逃げてんだよ」
「裕飛!そいつと一緒にすんな!俺は別に…」
「だまれ留三郎!」
「え、と…え!?」
「言い訳なんか聞きたくありません。それじゃあ三木くん、頑張って貞操守るんよ。お邪魔したね」

それだけ告げて俺は颯爽と部屋を抜ける。留先輩は潮江先輩に気を取られてたから少しだけ隙ができてて捕まらずに逃げることができた。取り残した団蔵や三木くんが心配だけど潮江先輩の様子からしてまだ手出してないみたいだし、しばらくして会計室から銃声が聞こえたから三木くんは俺の説明を理解して尚且つ戦っているらしい。何よりだ。
((それにしても…))
あたり一面を見ればそこら中穴だらけ…それに絶えず爆発音が響いている。よく見ればあれはどSと名高いサラスト委員長と作法委員会の面々であった。綾くんは穴を掘りまくってるし、浦風くんは迫り来る立花先輩に教科書やら何やらを投げつけていた。その中には手榴弾も見え、立花先輩の背景が炎の壁でまるで巨○兵を思わせるようだ。何ともいえない状況で1年生2人は高みの見物状態だった。
((あんなぼろぼろの先輩はじめてみるなー…うけるから写メ撮ろう))
おもしろいものを見たところでまた歩き進めると激戦している作法委員会のすぐそばの穴から“キスしよー”なんて声が聞こえた。声からして善法寺先輩でまた穴から落ちたらしい。いつもの光景だ。ただ違うのは…

「みんなーキスしよー!」
「…三反田先輩、どうします?」
「んー…ほっとく?」

いつもなら迷わず手を伸ばす優しき保健委員会の面々もどうしようかと困っていた。でもしばらく様子を見ると三反田くんや川西くんが善法寺先輩のいる穴に手を伸ばして救出してるとこが見えた。

「みんなありがとう!」
「ぜ、善法寺先輩!」
「やめてください…」

救出された善法寺先輩は後輩を抱きしめてそれぞれの頬にちゅーをしていた。乱太郎くんや鶴町くんは1年生らしく嬉しそうな顔を川西くんと三反田くんは恥ずかしそうに声を上げたがやっぱりどこか嬉しそうな顔をしていて、見ていて幸せな気分になった。
((保健委員会って本当に仲がいいよなー…))
なんてぼやっとしながら視線を教室に移すと“ほっぺ100円”なんてプラカードを持つきり丸くんと凹みながら財布を取り出す中在家先輩が見えた気がしたが…
((フェアリーのあんな姿見たない…))
無視を決め込むことにした。しばらく歩くと大きな池が現れた。この場所は普段誰も来ない場所だから俺の恰好の昼寝場所である。池をのぞくと自分の顔が映ってそれをかき消すように鯉が跳ねた。
((流石にちょっと疲れたかなぁ…))
遠くでは爆音やら刃物がぶつかる音やら悲鳴やらが聞こえてくる。爆音は兵助のいる火薬委員会があるからまぁ良いとして刃物の音は聞こえていいのか、なんて少し不安になったが、この学校は何でもありだから今更気に留めてもしょうがない気がしてまた視線を池に戻した。青い水の中には色とりどりの鯉が優雅に泳いでいた。みんな争うことなく、ゆらゆら泳いでいる。
((まぁ、俺らも仲良しだけどさ…))
今回こんな事になってるのは学園長の思いつきが思いつきなだけに受け入れがたい生徒もいるだけで、普段は仲がいい。
((俺だって別に留先輩が嫌いなわけじゃないし…))
つかむしろ好きだし。多分先輩の中で1番尊敬してるし…
((だからこそ…))

「裕飛!」

後ろから名前を呼ばれて振り向くと、ついさっきまで考えていた留先輩本人だった。息を切らして体中汚れてるのを見て“そこまでして俺を探してくれたんだ”って思って少しだけ嬉しくなったが、そんなことを顔に出さないように平静を装って笑顔を向けた


「こんなとこまで追ってくるなんてすごい執念ですね。ここ、俺の秘密の場所だったんですよ」
「あぁ、もうここを通って6年になるがこんなとこがあるとは知らなかったな」

辺りを見回しながら留先輩に警戒しつつも逃げる気にはならなかった。

「…もう逃げないんだな」
「追いかけっこ疲れましたし、逃げたとしてもどうせ留先輩はずーっと俺を追いかけ回すだろうし?」

意地悪く笑えば留先輩はため息を吐いて笑った。その顔はいつもの優しい、俺の大好きな先輩。

「留先輩、俺七松先輩から理由聞きました」
「あぁ、小平太が話したらしいな」
「俺は留先輩が好きです。人として、先輩として尊敬してます。用具委員会なのに何にも手伝えないからいつか何か恩返ししたいって思っています」
「そんなことない。裕飛はいつも一生懸命だ。助かってるよ」

留先輩が俺の頭をなでた。大きくて優しい手…留先輩に頭をなでられると後輩扱いされてて悔しくもあり、嬉しくもあった。きっと留先輩の人柄のせいだ。

「俺、今日キスしてほしいとか言われてどうしたらいいかよく分かんなくなりました。最初は驚いたけど先輩は好きだし、断る理由もないし…俺、団蔵とはち以外にはしないって思ってたけど留先輩なら別にしてもいーかなーとか思ったりもします。でもしたくない俺もいるんです」

“なんでか分かります?”そう聞いたのは留先輩宛なのか自分宛なのか?本当に分からなかった。留先輩が好きで、きっと恋愛対象とかじゃないのも分かってる。だからしても問題ないはずなのにそれが出来なかったのはどうしてか分からずに、今日1日逃げ回った。
((先輩達がキスを強請るのは自分達の夏休み目当てだったから?))
ううん、そんなんじゃない。むしろ留先輩を休ませてあげたい。
((先輩と委員会サボって追いかけっこしたかったの?))
そんなのやろうと思えばいつだってできる。
((先輩に気にかけてほしかったの?))
先輩はいつも気にかけてくれるし、優しいのはわかってる。
((じゃあ何で逃げたの?))
それがわかったら苦労しないな…なんて思ってるため息をついた。ふと視線を感じて顔をあげたら留先輩が真剣な顔つきで俺を見ていた。どっか悲しそうな目。
((…そんな顔見たこと無いよ))

「先輩、どうし「裕飛…」

次の瞬間、気がついたら留先輩の腕の中。1歳しか違わないはずなのに俺より背が高くて、体も大きくて…抱きしめる力も強くて苦しい。

「せん、ぱい…?」
「裕飛が逃げた理由は多分俺のせいだ。俺は、お前だけはなんだか軽はずみでしたくなかったから、それが分かったからじゃないのか?」
「それって…」

言い掛けた瞬間また抱きしめる力が強まった。まるで“言わないでくれ”って言うように、力が込められて俺は何もいえなくなった。

「せん、ぱ…くるしい」
「あぁ、悪い…」

話された体は急に外気に触れて寒さを感じた。今日は暖かいはずなのにおかしい。

「…さっきの忘れてくれ。それと今日はもう委員会に出なくてい「留先輩」

呼んだと同時に今度は俺が留先輩の言葉を塞いだ。それはほんの一瞬だったはずなのに妙に長く感じて、くすぐったかった。

「さっきの台詞、これでチャラにしてあげます。先輩には休みの日くらいゆっくり休んでほしいですから」
「裕飛…」
「それと、もう時間無いですけど委員会させてください」

にっこり笑うと留先輩も笑った。それから2人で昔話に花を咲かせながら後輩の待つ用具室まで歩いていった。時間の流れがゆっくりで…ずっとこの時間が続けばいいと思った。隣の先輩はいつもの優しい留先輩…。
((今はこのままで十分だよね))


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