勧誘は承っておりません



休日の家業の手伝いも誠に残念ながら休日中にきちんと終わってしまって、いつも通り学園に戻って生活をしている
((はぁ…読み終わった))
はちや雷蔵は出された休日課題が終わらなくて奮闘してるし(雷蔵の場合は単にやる問題を間違えただけ)兵助は委員会があるって出かけたし、三郎と勘ちゃんはたぶん後輩を連れて街に出掛けた。俺は2人(特にはち)の面倒を任されたから、隣で借りた本を読みながら様子を見ていたけど、2人共全然終わらないから先に本が読み終わってしまった
((この話、あんまり面白くなかったなー…ありきたりすぎだ))
部屋にある本も雷蔵が持ってきてくれたやつも全て読んでしまってやることがない。図書室にいって本を借りてこようか
((…ちょっとくらいいいかな))

「雷蔵、はち…終わりそう?」
「僕は大丈夫」
「終わるわけないじゃん」
「泣き言言ってないで早く手を動かしなよ。てかここ習ったところだからね?」
「だって分かんないし…」

なんて八左ヱ門くん弱気発言。やめろー!俺お前のその顔苦手なんだよ!甘やかしちゃうから…

「あーしょうがないなぁ、じゃあ俺これから本返してくるからその間もう少しだけ自分で解きなよ。帰ってきたら見てあげるから」
「まじで!?ありがと裕飛」
「おう…」

くっそ…結局甘やかしちゃった。まぁ、はちだからいいか

「じゃあすぐ戻るから、雷蔵よろしくね」
「うん、いってらっしゃい」

雷蔵とはちの笑顔に見送られて部屋を後にする。目指すは寡黙な番人がいる図書室(本日の当番は中在家先輩らしい)早歩きで来たからお目当ての図書室にはすぐについて、本を返しているときにひょこっと顔を出したのは見知った顔

「裕飛、丁度よかった」
「留先輩、何かご用ですか?」

腕に大きな荷物を抱えた留先輩が俺を呼び止めた

「今日この後用事あるか?」
「いや、友達と勉強するくらいで特には決まってないですけど…」

正確に言えば友達“と”、ではなく友達“の”勉強を見るなのだけれど、はちの名誉の為にあえてここは言わないでおこう

「そうか、勉強しなきゃならないのか…うーん」
「何かあるならいってください。別に勉強はいつでも出来ますから」

何せはちは同室だし、と思って笑えば留先輩は大きな荷物を差し出してきた。中身は大量のフィギュア、造り方からしてどこか粗雑な感じがするからたぶんプロが作ったやつではない

「実はこれのちょっとした修理を頼まれてな、ついさっき終わったからこれを作法室に届けて欲しいんだ」
「えー立花先輩の所ですか!?」
「俺が届けたいのは山々なんだが、生憎補習が入ってな…」
「あー…それはしょうがないですね」

恥ずかしそうに頭をさげる留先輩、補習となれば仕方ない。何せ先輩はあの【は組】なのだからこればっかりは身内にとてもいい例がいるので、はちには悪いけど留先輩の用事を引き受けることにした
((はー…めんどくさ))
作法室は学園の端の方にあり、そこら一辺は木造で出来て、まるで茶道室の様な感じになっている…と言うか某サラスト委員長が勝手に茶道室を作り替えて作法室にしてしまったんだけど…目の前に現れた大きな看板にため息を吐きつつ、意を決して柱を軽くノックする

「…失礼しまーす」
「その声は裕飛か?」
「そうです。留先輩の代理でお荷物を届けに参りました」
「そうか、入れ」
「失礼しま…」

襖の扉に手をかけようとしたとき、なんとなく嫌な予感がして、右端に移動してから足で襖を開ければさっきまで立っていた所が抜けていた

「やっぱり…」
「裕飛、足で開けるとはなんて行儀の悪い奴だ」

部屋の真ん中で俺のことを見ながら呑気にお茶を飲んでいるのがこの部屋の住人って言うか作法委員会基、S法委員会の主、高等部3年い組の立花仙蔵先輩である。ちなみにサラストランキングは1位。本当にちょっとでも隙を見せるとつけ込まれるし、以前手榴弾を手に持って襲われた(@中間試験参照)ことがあるので俺の中では潮江先輩よりも危険人物である

「誰のせいですか、全く…はい、これお届け物です」
「まぁ、まて裕飛。せっかく来たんだから茶の1杯でも付き合ってくれんか」

フィギュアが大量に入った箱を差し出してさっさと帰ろうとしたとき立花先輩に呼び止められてしまいそれは叶わなかった

「俺この後友達の勉強を見る予定なんですけどねぇ…」
「そんなの後でも出来るだろう。私とのお茶は今しか出来ん。それに私は最上級生だ、後輩は先輩の言うことを聞くのが当たり前だろう」

うわぁ、なんて横暴な…俺の話なんか聞く耳持たない立花先輩はいつの間にかお茶を煎れていて、もう帰るに帰れない雰囲気を醸し出していた。しょうがないから慎重に部屋に入れば“流石に部屋の中には仕掛けはない”と笑われてお茶を差し出された

「実家から取り寄せた玉露だ」
「あ、ありがとうございます」
「甘味もあるから好きなものをとりなさい」

そう言って差し出された茶菓子は三島屋の羊羹とか田部屋のみたらし団子とか、どれも高級店のものばかりだった

「ケーキもあるぞ。どれにする、裕飛」
「あと、じゃあその端のいただけますか?」
「ほぉ…【KARIHA】のチーズケーキを選ぶとはお前はなかなか見る目がある。それは私のいち押しだ」
「あ、そうなんですか?」
「とてもチーズがあっさりしていてな、このお茶とよく合う。ほら、見てないで食べなさい」
「…いただきます」

ケーキを小さく切って口に運べば、柔らかいムースと砂糖の甘さにチーズの香り、そして控えめながらレモンの風味が感じられてとても優しくて美味しい味だった

「美味しい…」
「私が認めた味なのだから当たり前であろう」

自慢そうに話すけれど立花先輩の表情がとても優しいからきっと俺に“美味しい”と言われたことが嬉しいんだろう。なんか先輩かわいく見える。それにしても作法室に入ったのは実はほとんど無くて、周りを見回せば気になるものが山ほどあった。人形とか着物とか、茶道具もあるし、華道や書道の道具もある。作法委員会は街の人にこれらの作法を披露したり教えに行ったりして地域貢献している

「どうした、そんなにきょろきょろして」
「いや、いろんな道具があるなー…って思いまして。こんなに色んな事をして大変じゃないんですか?」
「…大変に決まってるだろう。だけど苦労した時の感謝の言葉はものすごく心にしみるからな。やめられない」

昔は校内整備はしないし、どっかの誰かさんは学園中に穴掘りまくるし、団蔵のお友達は学園中に悪戯して仕掛けをいっぱい作るしで作法委員会はなんて奴らだとか思ってたけど、ちゃんと地域の人々には優しくしてるところを見ると、少しだけ見直す(まだ地域だけだから完全には見直すことは出来ない…)

「そのフィギュアも今度の休みに街外れの孤児院に持って行く物だ。人形はちょっと関節の滑りが悪くて留三郎に直してもらったがな、服のデザイン等は全て作法委員会でしたのだ」
「へー!すごいですね」
「これくらい出来て当然だ」
「いやだって俺は細かい作業苦手ですから、できる人はすごいなって思います」

そうやって言えば立花先輩は嬉しそうに笑って俺の頭を撫でた

「お前はかわいいね…裕飛、作法委員会に入らんか?」
「かわいくないですよ。てか俺用具委員会ですから、勧誘はちょっと…承っておりません」
「なら私とまたこうやってお茶につき合ってくれないか?」

ぐっと先輩の顔が近くなって言葉に詰まった。立花先輩のさらさらした髪が揺れて、大きな瞳に俺が映っている
((睫毛長いな…))

「え、あ…でも…」
「たまにでいい。お前と一緒にいると落ち着くからな」

“また来てくれ”と優しく笑って言われたら首を縦に振るしか無くて

「じゃあまた今度、遊びに伺います」
「あぁ、待っているから」

去り際に立花先輩の顔が目に映って、なんだか恥ずかしくなって急いで部屋に戻った

「ただいま」
「おかえり、裕飛…遅かったね」

部屋に戻ると笑顔で出迎えてくれる雷蔵の端に疲れて寝てしまったらしいはちが映る
((長居しすぎた…))
そう思って部屋に上がれば雷蔵が急に俺の手をつかんだ

「ら、らいぞう…なに?」
「裕飛顔赤いよ?」

“どうしたの?”なんて聞かれたけどなんて答えたらいいかわけわかんなくなって、意味もなくはちに抱きついた

「ちょ!裕飛痛い!寝てたのは謝るから離して!」
「無理」

((だって顔上げたらまた見られるから…))






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