裕飛兄ちゃんのお仕事


めんどくさかった中間試験も終わり、明日から連休と言うことで学園にいるほとんどの生徒が浮き足立っている中、いまいちテンションがあがっていかないのはこの俺

「なぁなぁ、明日から大型連休なんだからさ、みんなで集まって遊びにいかねぇ?」
「おーはちたまには良いこと言うじゃないか。じゃあとりあえず手始めに兵助ん家押し掛けよ!」
「みんなはいいけど三郎は絶対来ないでくれ」
「何故だい兵助?」
「すぐ暴れるからでしょ」
「目を離せばすぐにそこら辺漁ってるし」
「他の人の家は未知な空間だから気になってしまうんだ。しょうがないだろう?」
「雷蔵と勘ちゃんはそんなこと小学生でもしないって言ってるの」
「じゃあ兵助は私が小学生以下だと言うのかい?」
「小学生以下というか…」
「みじんこ以下だね」
「雷蔵、酷すぎる…」
「あーじゃあさ、カラオケとか行かない?」
「いーね、流石竹谷くん!」
「お、そう?」
「(はっちゃんの意見は普通にいい意見なのに三郎が賛同すると馬鹿にしてるように聞こえるのはなんでだろう…?)」
「勘ちゃん、言葉漏れてるよ」
「え、あ…でもカラオケいいと思うよ。兵助も雷蔵も行こうよ」
「カラオケかぁ…」
「僕歌苦手だからなぁ…」
「雷蔵、大丈夫だ。音痴なのは知って…痛い!」
「…三郎ってなんで怒られるの分かっててあんなこと言うのかな?」
「構われたいからじゃない?」
「どMなだけだろ」
「「(兵助の口からそんな単語がでるなんて…)」」
「な、なぁ…裕飛もカラオケ行かねー?」

盛り上がっているみんなと少し離れたところで大きなクッションに寄りかかりながら携帯を見ていた俺にはちが近づいてきた

「カラオケ?」
「あぁ、せっかくの休みだし…裕飛歌上手いじゃん」
「行かないよ」
「えー裕飛なんで!?」

一応はちを傷つけないようにふにゃりと笑って断ったつもりなんだけど、俺の言葉を聞いた勘ちゃんが反応して声を上げた

「裕飛祭ごと好きじゃん」
「カラオケ祭じゃないし」
「休み中は委員会もないんだろ?」
「ないよ」
「だったら行こうよ。僕達だけで三郎の相手をするのは無理だよ!」
「雷蔵、せめてもっといい引き止め方してよ…」

話を聞きつけた兵助と雷蔵にも誘われるが、残念ながら俺は首を縦に振ることは出来ない

「とにかく、俺はいかないよ」
「なんでだよ!」
「遊ぶ暇のある鉢屋くんには分からないことですから」
「え、裕飛もしかし…」

はちが何か言おうとした瞬間突然流れた校内放送によってその言葉は聞き取れなかった。【高等部2年ろ組加藤裕飛、中等部1年は組の加藤団蔵は今すぐ学園長室に来て下さい】こうやって呼ばれるのは分かってた、だってもうすでに連絡ははいってたから

「んじゃ、行ってくるわ」
「裕飛、兄弟そろって何したの?」
「三郎じゃないんだから裕飛が変なことするわけないでしょ。裕飛気をつけてね」
「雷蔵ありがと。すぐ戻るから」

笑って返事をしたとき、はちの不安そうな顔が目に映った。高等部の寮を出て校舎に渡り、離れにある学園長室に着くと何やら中がえらく騒がしい。入るのが心底めんどくさかったが、呼ばれた以上入らなくてはならないからしょうがなくドアを叩いて部屋に入る

「失礼します。高等部2年ろ組加藤裕飛です」
「兄ちゃん!」
「団蔵!」

俺が入った途端一目散に駆け出してきた団蔵を抱きしめながら中を見れば学園長先生に土井先生と山田先生もいた。学園長先生に促されて団蔵を抱き上げながら部屋に入れば見覚えのある顔が近づいてきた

「だんなぁぁあああ!」
「清八ッ!お前なんでいるの!?」
「旦那ッ!う、う…」
「泣くな、泣くな、抱きつくな!団蔵潰れんだろ」

俺の顔を見た瞬間抱きついてきたのはうちの従業員の清八で、さっきも団蔵がやってきたとき同じ様に“若旦那!”と叫んで抱きついたらしい。とにかく泣いていたら拉致があかないので清八を座らせて事の成り行きを聞いた

「で、何の用?休日の配達の件ならさっきお父さんから連絡あったから俺も団蔵もわかってるんだけど」

さっきの放送もお父さんが家の仕事がどれだけ長引くわからないから学校に俺と団蔵の公欠届を作るために呼ばれたと思ったのになぜか清八がいるから意味不明だった(しかも泣いてるし)

「なんか学園長先生に書類を届けに来たわけ?」
「違います。それではなくてちょっと揉め事が起こって…」
「何の?」
「実は隣町の連中との抗争を親方が勝手にのんでしまいまして…」

終盤になるにつれて清八の言葉は徐々に消えていったが何を言ったかはよーく聞こえた

「ふーん…父さんがねー…へぇー…」
「兄ちゃん怒らないで!」
「旦那ぁ!俺がついていながら止められなくてすいませんでした!」
「怒ってないけど、まずいな…俺参加しなきゃなんないじゃん。その抗争」
「裕飛どういうことなんだ?」

土井先生が眉間にしわを寄せて真剣な面もちで聞いてきた。あーあー…秘密にしておきたかったのに、この雰囲気は言わなきゃいけないタイプの雰囲気だなぁ…まぁ、いずれはばれるからいいんだけど

「加藤家が運送業をしてるのは先生方もご存知ですよね?」
「あぁ…」

大昔は馬借としてとても栄え、今でもうちはその先祖の歴史を一番色濃く受け継いでいる運送業なのだ

「馬借は荷物を運ぶと言う重要な役だったために用心棒などを常につけていたのです。そしてその力もあってか常に一揆の中心でありました。そしてある一揆を境に1つだった馬借はばらばらになり各地に広まりました。そして各地でどんどん勢力が大きくなり、いよいよ馬借同士の抗争が起きるようになりました。それが今でも続いているんです」
「そんな歴史が…」
「そんな抗争をまた再びまとめようとしたのは俺と団蔵の爺ちゃんで、爺ちゃんは先ずある組織を作ったんです。先生、【冴隊富満族】って族知ってますか?」
「知ってるも何も有名な暴走族じゃないか!暴走族の癖に一般人には一切の迷惑をかけない仁義があって、悪徳会社や危険な族だけは見逃さず次々廃業にしたり、舎弟にして」
「なんでも総長はまだ高校生だとか言う噂…まさか」
「ぴんぽーん!その組織が【冴隊富満族】って言う走り屋と言う名の暴走族」
「それで兄ちゃんはその暴走族の初代総長なんです」
「「なにぃ!?」」
「うるさ…」

山田先生と土井先生が大声を出すからとてもびっくりした。やっぱり言わなきゃよかったな

「裕飛が、暴走族…ぐ、ぅ!」
「なんで土井先生胃痛起こしてるんですか。俺先生の生徒じゃ無いのに…」
「この学校にあの有名な暴走族の総長がいるって事に驚いたんだろう。しかも目の前に」
「なーるほど…つかそんなに驚く事なんだ。俺前に改造バイクで校門に突っ込んだことあるのに」
「兄ちゃんそんなことしてたの!?」
「したんじゃなくて事故」
「旦那、それって去年の冬に愛車で学校行った時の話ですか?」
「うん、雪で滑ってぱーになったときのやつだねー」

あんときは学校炎上するんじゃないかってまじで焦ったよ。なんて思い出に浸っていると今度は学園長先生が近づいてきた

「ところでその抗争の何がまずいんじゃ?」
「どんな対決であれ、抗争に負けた者は勝った者の舎弟になるのが原則ルール。つまり負ければ相手の言いなりなんで下手したら運送業が出来なくなるんです」
「つまり儂の所に通販で取った豪華食材を届けたり、手紙を届けたりすることは…」
「一切出来なくなりますね」
「それはまずい!そうなったら儂の楽しみが減ってしまう!」

学園長先生は本当に自分の私欲の心配しかしないんですかねー…もっと俺ん家の心配をしたりしてくれないんでしょうか?

「ところで清八、その抗争いつすんの?」
「今日の夜です」

今聞かされて夜にするなんて…はえーな、おい。何にも準備とかしてないんだけど…色々考えていると複雑な顔をしていたのか団蔵が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。上目使いはかわいいけど、なんか苦笑いしか出来なくてますます団蔵は心配そうな顔をした

「兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。要は勝てば良いんだから、家の経営がかかってるから負けたりしないよ」
「本当に?」
「あぁ、負けねぇ…じゃあ学園長先生、そーゆーことなんで俺と団蔵は休み中家の事情で忙しいのでもし登校日になっても学校に行けそうに無かったら長期公欠届を作成しておいてくださいね」
「うむ、わかった」
「あと、今日した話は誰にも言わないでください」
「わかった、誰にも口外しないでおこう」
「ありがとうございます。では準備があるので失礼します」

団蔵を抱き上げ、隣にいる清八を引き連れて学園長室をでた。部屋に戻って荷物を鞄に詰め込んで雷蔵達に1日早く家に帰ることを告げると、見送りするって言うからみんなで校門に向かった。もちろん俺は寮の自転車置き場に置いてあった愛車を押しながらみんなであるいていく

「裕飛のバイク、いつ見てもごついな…」
「そーかー?前のよりシンプルにしたつもりなんだけどな…」
「普通バイクに装甲なんて付けないよ」

雷蔵が俺のバイクを見ながら苦笑いをしているその隣からひょこっと顔を出した勘ちゃんと兵助が俺の顔とバイクをまじまじと見ている

「てかそのバイク、裕飛のだったんだ」
「委員会に行くときずっと誰のかと思っていたよ」
「あぁ、勘右衛門と兵助は裕飛がバイク乗るの知らなかったのかい?」
「俺は三郎にも言った覚えはない。お前なんで知ってるんだよ」
「裕飛の事ならば私に知らないことなんてないよ」
「気持ち悪い」

何勝ち誇った顔してんだよ。本当に気持ち悪い、寄るな

「三郎の言葉はともかく、ほら裕飛の家は運送業だろ?裕飛もバイク使って仕事を手伝ってるから」
「裕飛は年齢的にまだ車は運転できないからか…」
「おや、はちと兵助…俺がいつトラック運転できないなんて言った?」
「へ?」
「出来るに決まってんだろー。ただすぐにぶつけるから乗せてもらえないだけ」
「…裕飛それ運転できないって言うんだよ」

勘ちゃんのつっこみは聞かなかったことにしておこう。そんなこんなで話をしているから校門にはすぐについて、もう準備が終わったらしい団蔵とバイクに跨って待っている清八の姿が見えた

「団蔵、清八待たせた?」
「いえ、若旦那もさっきいらっしゃったところなんで大丈夫です」
「そうか」
「兄ちゃん、いこッ!」
「あぁ」

団蔵が腕を引っ張るのを解いて、もう一度みんなの方を向き直る

「んじゃ一足先にお休み満喫してくるねー」
「仕事でしょ」
「そうです、まぁまた今度な。あ…そだ、はち」
「俺?」

はちを手招きして抱き寄せて、ほんの少しだけ頬に口づけした。はちはびっくりした顔をしていたけど“休み中は出来ないだろう”と言えば笑って抱きしめてくれた。はちの体は相変わらずあったかいな

「ありがと、はち」
「気をつけて行ってこいよ」
「なんか裕飛とはちって付き合ってるみたいだよねー…って三郎?」
「裕飛!はちにするなら私にもッ…「三郎うるさーい」

雷蔵が三郎にエルボーを食らわせると、どごっと普通しないような音が響いた。清八は顔が真っ青になっている

「とにかく、いってきまーす」

団蔵を抱き上げて俺のバイクの後ろに乗せて、俺らは学校を後にしてた。バイク飛ばして山の方にある家について、だらだらしていたら気が付けば約束の時間。重い腰を上げてジャケットを羽織って外に出ればみんなバイクにエンジンをかけて準備満タンだった

「総長、おはようございます!」
「「おはようございます」」
「…今、夜なんだけど」
「では総長こんばんは!」
「「こんばんは!」」
「あー…」

世間的にはこの挨拶で良いんだろうけど“こんばんは”ってなんか格好つかないな…かと言って他に良さげな挨拶は無いしなー…いっか!

「んじゃ行きますか!」
「兄ちゃーん」
「団蔵?」

バイクに跨り決戦場所に向かおうとした時に急に団蔵に呼び止められた

「僕も一緒に行きたい」
「若旦那、旦那…いや裕飛総長は決闘に行くんですよ」
「やだ!僕も兄ちゃんと行きたい!」
「団蔵…」
「若旦那、総長を困らせてはいけません」

団蔵のわがままをいつもなら清八も反対せず、むしろ味方になってあげるのだけど、今回ばかりはそう言う訳にはいかない。しかも団蔵には以前の決闘でついて行ったために危ない目に合うという前科まであるから、清八も必死になって俺にしがみつく団蔵を引き離そうとしている

「やーだー兄ちゃんといくのー」
「い・け・ま・せ・ん!」
「やだー!」

おいおい…これじゃいつまでたっても出かけられねーよ。団蔵の行きたいって気持ちもわかるけどな、かと言って連れてって前みたいなことになるのも嫌だしなー…

「もういいよ、清八。連れてくから」
「総長!」
「兄ちゃん本当に!?」
「あぁ、だから寒くないようなんか着ておいで」
「うん!」

団蔵の頭をなでて荷物を取りに行かせる。隣を見れば清八が申し訳なさそうな顔をしていた

「すいません、総長。俺…」
「いーって。どうせ団蔵折れないだろうし、要は危ない目に合わせなきゃ良いんだから」
「ですが…」
「じゃあ清八、お前も来いよ」
「え?」
「だーかーら!清八も一緒にいこ。んで団蔵のお守りを頼む」

本当は清八はお父さんの右腕みたいな奴だから家に残る予定だったんだけど、団蔵来るって言うなら清八に面倒見させた方が良いだろうし…

「お父さん、清八借りる。別にいいよね」
「あぁ、清八。団蔵と裕飛を頼む」
「はい!親方」
「兄ちゃーん」

お、団蔵もちょうど戻ってきたところだし、行きますか!

「…って案外近所」

気合い入れてバイクとばした割には目的地にすぐについて、お相手さんはすでに目の前に陣取っていた。つかなーんか見たことある…

「団蔵、俺挨拶してくるから清八んとこお行き」
「えー、兄ちゃんといる」
「若旦那、危ないですから」

清八が言うけど団蔵は俺から離れようとしない。今日はなんでこんなに甘えたなんだか…
((いや、嬉しいけど))

「しょうがないな…清八もついて来て。団蔵、おいで」

少しでも危なくないように団蔵を抱き上げて対戦相手の目の前まで足を運んだ

「こんばんは」
「お?」

赤い特攻服に赤いサングラスをかけた集団の真ん中に白い服を着たリーダーっぽいおじさんが振り向いた

「坊主、何か用か?」
「俺が運送屋加藤家嫡男、【冴隊富満族】初代総長加藤裕飛だ。以後お見知りおきを」
「まだ餓鬼じゃないか」
「あぁ、齢は16だ。ちなみに早生まれだ」
「総長、そんなこと言わなくていいんですよ」

だって初対面の人には礼儀正しくってお父さんに言われたから。それに人相は悪いけど悪人じゃ無さそうだし…

「あー八宝斉!」
「八宝斉?」
「む、お前は忍術学園1年は組のッ!」

団蔵と八宝斉とか言うおじさんはいきなり睨み合い始めた。なんだなんだ…なんだこれ?

「何、団蔵知り合い?」
「兄ちゃんドクタケ組合幹部の稗田八宝斉知らないの!?」
「ドクタケ組合…なーんかどっかで聞いたような…」

あ、思い出した!いつも忍術学園の所有権を奪おうとしている隣町のヤクザか

「稗田八宝斉って確かサラストランキングが10位以内なんだよね」
「いやー…その事を知っているとは坊主、なかなかだな」
「いえいえ」
「兄ちゃん、そんなことどうでも良いんだけど…」

え、だって俺あんまり八宝斉のこと知らないし、知りたいとも思わないからどうでもいいし

「てか八宝斉も兄ちゃんに褒められたからって調子乗らないで!」
「兄ちゃん…さてはお前ら兄弟か!?」
「さてはじゃなくても兄弟です。うちの団蔵可愛いだろッ!やらねーからな!」
「要らんわ!」
「あ゙ぁ゙!?こんなにぷりてぃーな団蔵を要らんだと!?どの口がほざいてんだよ!」
「ぅ…じゃ、じゃあ欲しいなー…」
「あ゙ぁ゙!?やんねぇよ!団蔵は俺の宝なんだよ!つーか色目使ってうちの団蔵見てんじゃねぇよ!」
「「(じゃあどうしろとッ!)」」
「旦那、前の抗争と同じパターン…」
「裕飛総長、あれさえなければ完璧な人なんだけどな…」

周りが騒がしくなったり、目の前にいるドクタケ組合がなんか相談しだしたけど関係ない

「婿入り前の団蔵に手ぇ出す奴はぶっ潰すまでだ」
「兄ちゃん、僕一応若旦那だから入り婿じゃないよー…」
「あ、あぁ!そーだよな。悪い悪い、勢い余ったから!」
「もー…でも兄ちゃんかっこいい!頑張って!」
「おう!団蔵の為にすげー頑張るつーの!…って事でうちの団蔵は死んでもやらんから」
「旦那、若旦那を賭けた戦いじゃないですから!うちのシマを賭けた戦いですから!」
「…そうだっけ?」

はて、どこで話が拗れたのやら

「ま、団蔵が絡んで居なきゃどうでもいいや。気楽にやろうか」
「どうでもいい…だと?」
「あぁ、どうでもいい。うちのシマが欲しけりゃくれてやるよ。持ってけ泥棒ー!た・だ・し…」

“俺に勝てたら、な”そう言えば八宝斉を含めドクタケ組合の皆さんは高笑いをし始めた。やっぱり餓鬼相手に本気になるやつなんかそうそういないよね

「なんか余裕そうだから俺1人で相手するよ」
「総長!」
「大丈夫。お前らは団蔵をよろしくな、気合いいれて護ってくれ」
「「はい!」」
「ふはははは!儂等もなめられたものだな」
「あぁ、なめてるもの。なんなら全員でかかってきても構わないよ。おじさん達」
「ぬぅ…小僧!後悔しても知らんぞ!」
「ルールは走り屋らしくバイク競争と行こうか。範囲はこっからすぐ側の防波堤まで。どう?簡単でしょ?」
「簡単すぎて話にならんな!」
「八宝斉さん結構よゆーみたいだから始めよっか!清八、合図頼む」
「わかりました。それでは位置についてよーい…始め!」

清八の合図と共にドクタケ組合の人達のバイクが一斉にスタートした。ありゃあー…敵さん結構速いな

「兄ちゃん!」
「まぁ、待てって俺のバイク、エンジンかかるまでが大変なんだから…」
「ふはははは!小僧遅れているぞ」
「知ってる。でも残念…俺の本気はここからなんだなー」

グリップを思いっきり握りしめてアクセルを回せば、エンジンが動く音がして一気にスピードが上がった。みるみるうちにドクタケ組合の集団に近づいていく

「今から追い上げてもこんなに密集していれば抜けれまい」
「…誰が抜くって言ったよ」

さらにアクセルを思いっきりかけて近づくと八宝斉は青い顔をした

「ま、まさかお前!よせ!お前のバイクもボロボロになるぞ!」
「なんねーよ。俺のバイクは特別製でね、俺の怪力にも耐えられる造りになってるから…ぶつけるぐらいどうって事ないんだなーこれが」
「や、やめッ!」

思いっきりアクセル切って真っ直ぐつっこんだ瞬間、大きな爆風が起こって周りにいたドクタケ組合の人達は次々と海へ飛び込んでいった

「あっちッ!やっぱりちょっと火傷したな…」
「お、おおおまえはばかか!」
「ばかとは失礼な。これでも学園で成績は高い方なんですけど…英語以外は」

海の中で吠える八宝斉さんは髪濡れてる上に真上に何もないから河童みたいに見える。つか河童は海だったかな?

「とにかく、俺の勝ちだから。もう二度と勝負なんか挑まないでね?」
「くッ…」
「あれ?総長、ドクタケ組合のシマ取らないんですか?」
「あんなど田舎いらん。大体うちの経営は十分だし、隣町も元々範囲内だから必要ない」
「確かにそうですね。あ!若旦那!」
「兄ちゃーん!」
「団蔵、危ないよ」

駆け寄ってくる団蔵を抱き上げて“勝ったよ”と笑えば団蔵も嬉しそうに笑った

「さーて帰りますか、眠いし」
「「おーっ!」」

海の方で“覚えてろー!”と言う叫び声と大きなくしゃみが聞こえたけど、もう眠すぎてどうしようもなかったからあんまり聞いてなかった

「あーだるい!」

家について真っ暗な居間で寝そべる、団蔵はいつの間にか寝てしまって俺の服を掴んで離さない。本当は焦げ臭いからお風呂入りたかったけど、かわいい寝息をたてている団蔵を起こすのが可哀想だったからそのまま一緒に横になった

「旦那、お疲れさまです」
「おー…清八もお疲れ様。仕事に差し支えるから寝ていいよ」
「はい、じゃあ旦那…おやすみなさい」

そう言って俺と団蔵に毛布を掛けたあと、清八は自室に戻っていった。他のみんなも俺に挨拶したあと続々と自分の部屋や家に帰って行って、真っ暗な居間には俺と団蔵だけになった

「にい…ちゃ、ん」
「ん、寝言?」

寝返りをうってさらに俺にくっ付く団蔵の顔を覗けば、大きな口を開けてすやすや寝ている

「すぐ隣にいるにも関わらず俺の夢を見てくれているなんて、やっぱり可愛いな、団蔵は」

頬を突っつけば眉を八の字にして唸り、また俺の服を強く握った。かわいい
((そう言えば今日の団蔵、やけに甘えただったな…))
俺から団蔵に何かする事は日常茶飯事だけど、団蔵がこんなに甘えてくるのは珍しい。それに団蔵はもう中1で、そろそろ反抗期が来たっておかしくないのに…

「来られたら来られたでかなり困るけどねー…」
「ん…兄ちゃん?」
「あ、起こした?」

焦点の合わない目が俺を見つめて、そして団蔵は嬉しそうに笑った

「どうした、寝ていーんだよ?眠気覚めた?部屋行く?」
「ううん、嬉しくて」
「嬉しい?」
「うん。だって久しぶりに兄ちゃんと2人きりだから。学校にいると必ず周りに先輩やみんながいたでしょ?だけど今は2人きり…兄ちゃんと僕だけだから」

そう言って嬉しそうに、でも恥ずかしそうに笑って毛布にくるまる団蔵。そうか、そう言うことか。だからあんなに甘えてたのか

「団蔵喜べ。兄ちゃんは一生お前のものだよ」
「本当!?」
「うん、だって兄弟だからな。もう離れられないよ」

ぎゅっと抱きしめればえへへってかわいい声が聞こえてきて、そっと額に口づけした

「さ、もう寝ろ。兄ちゃんずっと側にいるから」
「うん!おやすみ兄ちゃん」
「おやすみ団蔵」

考えれば学園に戻ると高等部と中等部に分かれるからこうやって一緒に寝ることも出来なかったんだよな…団蔵も俺のこと考えてくれてたなんて健気!出来たら団蔵はずっとこのままでいて欲しいな―――…そんな事を思いつつ目を閉じた。朝、ぼやーっとする視界に眩しい日の光が映って目が覚めた。隣にはまだ夢の中の我が弟
((そうだ、昨日居間で寝たんだ))
周りを見れば近くのテーブルにラップのかぶったおにぎりが置いてある。多分清八が作ってくれたんだろう…誰も俺らを起こさないなんてすげーいい人達!

「…寝直すか」

昨日は久しぶりに疲れたし、休みは始まったばかりだし…今日は1日かわいい団蔵と一緒にすごそうかな、なんて思って再び毛布に潜り込むと何やら外が騒がしい…

「だ、だめだよ押しかけたら!」
「大丈夫!私が許可しよう」
「三郎が許可しても意味ないし」
「…裕飛怒るぞ」


うっせーな誰だよ。


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