死闘・激走 炎の中間試験

無事試験が終わって数日が過ぎた。いつものように6人そろって朝ご飯を食べにくれば、食堂の入り口付近に人集り。何かと思って近づけば、大きな紙が目に入った。食堂前に張り出されたのはそれはおばちゃんが作った新メニューの宣伝ポスターではなく今回の試験の順位である

「やっぱり今回も三郎が学年1位か…」
「いや、今回は調子があまりよくなかったから地理と地学だけ落としたんだよ」
「それは俺らに対する嫌みか?」
「総合的に負けてるからうれしくも何ともないな」

三郎の言葉にいち早く反応したのはやっぱり兵助と勘ちゃん。今回も2人はすごく頑張って勉強していたから総合順位が2位と3位に上がっている。自分の友人が学年順位のベスト3を取るなんて普通は誇らしいことだから3人を祝福したいところなのだが、い組の2人はこの順位にあまり納得してないようだし、三郎に至っては試験前日で俺とはちが必死に勉強しているところに乗り込んできて目の前でゲームをし始めたので全く褒めたくなんかない

「よっしゃ!赤点なし!」
「はち、よかったね」
「…本当にぎりぎりだけどな」
「あ、ほら…裕飛も順位上がってるよ」
「雷蔵が英語教えてくれたからだねー。ありがと」
「裕飛は元々頭がいいから」
「本当に、他の教科は全部高得点なのに…なんで英語だけそんなに苦手なんだ?」

はちの素朴な疑問。前に似たようなことを兵助に言われたんだけど、本当にいつも思うことで“なんで俺ら日本人が外人に合わせて英語言わなきゃいけないの?”“外人がそんなに偉いわけ?”とかどうしても思ってしまうわけで、それを聞いた兵助は“共通語は英語なんだから諦めろ”って言ってたけど、誰が英語を共通語にしたって言うんだ

「英語って嫌いなんだよね。外国から来た言葉なのに日本に浸透しているところとか」
「裕飛、なんてことを言うんだ!勘右衛門に謝れ!」
「三郎、てめーが謝れ」

そして一度思いっきり殴られて、その無駄な知識が詰まっている頭を割られてしまえ。そんなことを思っていると、兵助が中等部1年生の順位が貼られているところにいるのを見つけた

「裕飛の弟、どこ?」
「お前の足元ら辺かな…」
「そんなに下なの…?」
「団蔵はは組だからねー」

そうやって言えば兵助は納得したのか、しゃがんで団蔵の名前を探している。俺も一緒になって探せば、紙の下の段はほぼは組の名前で埋め尽くされていた

「裕飛は団蔵に勉強を教えなかったのか?」
「えー教えてるよ。教えてるけど団蔵ははちよりひどいからなー」

ずーっと教えてやってきてるけどなかなか覚えてくれないし、すぐに忘れちゃうからやりがいがない。まぁ、分かんなくて“兄ちゃん教えてー”って団蔵がやって来るのがかわいいから頭よくない方が嬉しいんだけど…

「裕飛…そっちが本心だろ?」
「うん」

きっぱりと答えれば兵助は額を押さえてため息をはいた。“しょうがないじゃん、団蔵かわいいんだもん”と兵助に団蔵の愛らしさを説明しようとしたときに、廊下をぱたぱたと走る足音が聞こえてきた

「鉢屋先輩、尾浜先輩!」
「彦四郎、どうした?」
「実は学園長先生が…」

誰かと思えば三郎と勘ちゃんの委員会の後輩の彦四郎くんで、何やら困った顔をしながら三郎に話をしている。てか学園長先生って聞こえたのか気のせいだろうか?

「いや、気のせいじゃないな」
「兵助…心読まんで」
「裕飛口に出てるよ?」
「本当に!?…気をつける」

雷蔵に言われて慌てて口を押さえ、“いつになったら朝ご飯食えるんだ”と思いつつも三郎と彦四郎くんの話の様子を伺えば、ふいに三郎と目が合ってしまった
((てか一瞬三郎の顔が曇った))

「わかった、彦四郎一緒に行こう」
「三郎どうした?」

はちが聞けばすっと背筋を伸ばして俺らを見る三郎。なんか珍しく焦っている

「1つ、約束してくれないかい?」
「何を?」
「絶対に怒らないって…特に雷蔵と裕飛!約束してくれないか?」
「僕に何か疚しいことでもあるの?三郎…」
「三郎、勿体ぶらないで早く自首しろ。雷蔵若干スイッチ入ったから」

雷蔵を抑えつつ三郎を促せば、なぜか三郎の脚にしがみついている彦四郎くんまで顔が強張った

「【あれ】をする」
「は?【あれ】すんの!?」
「まだ試験から一週間経ってないぞ」

三郎の言葉にいち早く反応したのははちと兵助だった。俺も勘ちゃんもすぐにわかったけど、三郎の言葉にびっくりして言葉がすぐに出なかった。雷蔵に至っては、光臨状態から解放されてしまっていた

「学園長先生が連休前にすると彦四郎が連絡をくれたからな」
「いつすんの」
「…今」
「はぁッ!?い、今って…飯は?」
「食べてなんかいたらやっぱり…」
「即欠点ものだな…」

まじかよ。ふざけんな!飯食わないでするなんて本当にやばいんだけど…でも学園長先生の決定は絶対だから、逆らえるはずもなく、渋々食堂を後にしてみんなに付いていくと、後ろから彦四郎くんに服の裾を引っ張られた

「あ、あのー裕飛先輩?」
「なぁに?彦四郎くん」
「【あれ】ってなんですか?」

あまりにも今更な質問で彦四郎くんの目の前で転びそうになったが、彦四郎くんは中等部で1年生。知らなくて当たり前か…

「知りたい?」
「はい!」
「じゃあ一緒に行こう」

小さな手を引いて、俺らは校庭に向かった。彦四郎くんの手を引いて、みんなで校庭に出てみれば既に高等部の3年生や俺らと同じ2年生がちらほらと集まっていた

「…3年生と2年生が多いね」
「つまり【VS.3年】ってことか」

雷蔵とはちが辺りを見た瞬間口に出した言葉を聞いた彦四郎くんは益々疑問に満ちた顔をしている

「あ、あの…せんぱ「彦四郎、今学園中に放送はいるから」

隣にいた三郎が彦四郎くんの言葉を遮るようにして話すとすぐに全校生徒に向けての校内放送が響き渡った。【全学年、そして先生方は今すぐ校庭にお集まりください】と言う簡潔な放送をしているのは彦四郎くんと同じく三郎の委員会の後輩の庄左ヱ門くんだろう。彼もまた、意味も分からず放送を流しているのだろうか…そう思うと自然に笑みがこぼれた

「裕飛、何が可笑しいんだい?」
「いや、彦四郎くんみたいに庄左ヱ門くんも他の中1達も意味分からずに校庭に集まるのがさ、なんか昔の俺らと一緒だから面白いなと思ってね」
「私も初めは彦四郎と同じ様に意味も分からず仕事をしていたよ」

懐かしい気分になり、三郎と笑いあっているとぞろぞろと下級生が校庭に集まってきた

「あ!兄ちゃーん!」
「だーんぞー!」

手を繋いでいる彦四郎くんがぶつからないようにしつつ、走ってくる団蔵を片手で受け止める

「兄ちゃんおはよう!」
「おはよう団蔵」

いつものように頬に口付けして抱きしめれば、彦四郎くんの顔が赤らんでいた
((そうか、い組っ子の前じゃ初めてするからか…))
彦四郎くんは俺の手を離して三郎の後ろに恥ずかしそうに隠れたが団蔵は何故か勝ち誇った顔をして俺に抱きついてきた。いつも団蔵からはこんなに抱きしめてこないので俺は幸せすぎてお返しとばかりにぎゅうぎゅう抱きしめ返す

「兄ちゃんいたいー」
「その痛さは俺の愛だっつーのー」
「えへへ、じゃあ僕ももっと強く抱きしめるね」
「あぅ、団蔵ッ!」
「裕飛、程々にな」
「もうはちわかってるって!俺は団蔵相手なら力加減は可能だから!」
「逆に言えば団蔵以外は無理ってことだよね」
「さすがブラコンだね」

勘ちゃんと雷蔵の暴言が聞こえたけど聞かなかったことにしようと思う

「鉢屋先輩、裕飛先輩っていつも団蔵にき、きき…」
「あぁ、そうだよ。いつも頬に口付けしているんだ。あとそこにいる蕎麦頭にもね」
「誰が蕎麦頭だッ!」
「はちの事だな」
「兵助…」

奥で髪型に反応したはちが兵助によってさらにダメージを受けているのを無視して、三郎は再び話を再開した

「まぁ、口付けと言っても裕飛にとっては一種の挨拶だからな」
「そうなんですか…」
「裕飛はみんなにしてくれるぞ…見せてやろうか?」

彦四郎くんと何をはなしていたか知らないが気味が悪いほど笑顔で俺を呼ぶ三郎に悪寒がした

「何、さぶろッ…わ!」
「兄ちゃん!」

三郎に引っ張られて腕の中、全く意味が分からず顔を見ればずいっと唇が近づいてきた

「三郎?」
「裕飛、私にも口づけ…」
「「死ねばか」

声を揃えて言ったのは俺ではなくて雷蔵と兵助。雷蔵が勢いよく三郎の頭を殴ったので唇がつきそうになったが、その前に兵助が引き離してくれたので間一髪、助かった

「大丈夫か?」
「兵助ありがとッ!」

笑顔でお礼を言えば兵助もにっこり笑って“雷蔵にも言ってあげて”と言うので、三郎をシメている雷蔵の所に団蔵と2人で向かってお礼を言った

「雷蔵もありがとー!」
「どういたしまして」

笑う雷蔵は優しさに溢れているけど三郎をシメている手には憎しみが籠もっているので団蔵も彦四郎くんも少し引き気味だ
((雷蔵様光臨は本当に怖いし))

「兄ちゃん、なんで校庭に集まるの?」
「裕飛先輩、いい加減教えてください!」

団蔵と彦四郎くんを引き連れて歩いている途中、すっかり忘れていた質問の内容をぶつけられた

「あぁ、ごめんね。実はね、まだ中間試験は終わっていないんだよ」
「えッ!?なんで?」
「だって試験結果はもう出たじゃないですか!」
「筆記は、ね…」
「中1は知らなくて当然なんだけど、この学園の試験は筆記と実技の両方があるんだよ」

俺の言葉に続いてはちがそう答えると、校庭の真ん中にある段に学園長先生がマイクを片手に飛び乗った

「これから実技試験を開始する!今回は高等部による上級生VS下級生の下剋上対決じゃ!」

大声で話すのでマイクがきんきん言ってうるさかったが、内容はなんとか聞き取れた

「高等部ってことは今回中等部は見学なんだなー」
「はっちゃん、呑気に構えてるけど高等部だけってことはつまり危ないことなんだよ?」
「危ないの!?」

はちと勘ちゃんの会話を耳にした団蔵は心配してか俺にぎゅっと抱きついてきた

「大丈夫。学園長先生は生徒を危険な目に合わせたりしねーって」
「本当に?」
「あぁ。それにこの実技試験は各学年から選抜された奴がするから早々選ばれないし」
「そうは言いつつ裕飛はほぼ毎回出てるよね」
「え!?不破先輩、それ本当ですか?」
「うん。裕飛は身軽な上に力もすごいから」

優しく団蔵に説明している雷蔵の足下には泥だらけで地面に突っ伏してる三郎が見える。いまだに俺の手を握りしめて震えている彦四郎くんは三郎の下に駆け寄りたいんだろうけど、怖くて近づけないらしい…

「彦四郎ー!」
「あ、庄左ヱ門…」
「おや、庄左ヱ門くん」

怖がる彦四郎くんを落ち着かせようと頭を撫でていたら遠くから庄左ヱ門くんが駆け足で近づいてきた

「おはようございます、裕飛先輩。彦四郎、さっき鉢屋先輩と尾浜先輩に説明したらすぐ戻ってきてくれって言ったじゃないか」
「でも鉢屋先輩が…」

彦四郎くんの指差す先には三郎っぽいものが転がり、それを見た庄左ヱ門くんは少し言葉につまりながら“鉢屋先輩はいつも仕事しないから別に良いけど、彦四郎まで欠けたら困る”なんて言って、俺に一礼してから彦四郎くんの手を引いて駆けだしていった

「三郎、ついに委員会の後輩にまでぞんざいな扱いされてんな」
「日頃の行いからだから微塵にも可哀相と思わないね」
「ら、らいぞうさん?」

いつもより怖い雷蔵にちょっと引きながらも、仕事に戻って行った庄左ヱ門くんと彦四郎くんの話を聞くことにした
((真剣にね!))



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