叫びたくなるのは人間の性

日は流れて遠足当日。雨天なんかないと思えるくらいの晴天
本日絶好の遠足日和。校庭に出ると俺の姿を見つけた留先輩が駆け寄ってきた

「裕飛調子はどうだ?」
「大丈夫です。心配おかけしました」
「謝るならこいつらに言ってくれ」

留先輩が言うと後ろからひょこっと現れた中1トリオ。3人とも半泣き顔で“裕飛先輩、大丈夫ですか?”と抱きついてきた。別にただの貧血つーか寝不足だっただけなのに、1年生の中では思いの外大事になってるらしい

「なんともないよ。ごめんなみんな」
「本当ですか?」
「うん!ほらいつも通りだよ!」

そう言って喜三太を抱き上げ、脚にしがみついている平太としんべヱの頭を撫でると3人とも安心したように笑った。ふと視線に気がつき後ろを向けば作兵衛が心配そうに見つめる

「作兵衛、どうした?」
「先輩、無理はしないでくだせぇ…」
「…ありがとな」

1年生と同じ様に頭を撫でれば照れくさそうにそっぽを向いた

「用具委員会集合!」

留先輩の声がかかり、みんな一斉に先輩の周りに集まった

「みんな、例のものはちゃんと持ってきたか?」
「「「はーい!」」」
「よし、今から検査があるからな。荷物になるから全員着込め」
「「「はーい!」」」

かわいい1年生がリュックから出したのはあの食満留三郎印【家鴨さんジャージ(用具委員会スペシャル)】だった。ちなみに前にはなかった用具委員個人個人の名前刺繍入りなところがスペシャル仕様らしいんだけど…部屋の奥隅に閉まったはずなのにいつ部屋に来て仕立て直したのか…正直名前が入ったせいで余計に着づらいと言うか恥ずかしい。隣を見ると作兵衛も何ともいえない顔をしていた
((中3でお揃いは嫌だよな…))

「…えー先輩、本当にこれ着るんですか?どうせなら持っと用具委員会を主張出来るものがよかったんじゃ…」

今回の遠足は委員会対抗で行うため、各委員会が何か1つ共通の持ち物を持って参加するのが原則ルール。委員会みんなで同じ様にすることで協調性を養うことが目的らしい。ちなみに生物委員会のはちは遠足がてらに動物の散歩をさせると言って各々の部屋で飼っている動物をリードに繋いでいた(はちはあの逃げ出した狼)雷蔵の所属する図書委員会は植物観察やバードウォッチングが出来るように植物図鑑や動物図鑑。兵助に至ってはタカ丸さんが“屋外美容室を開く”とか言い出したらしく、タカ丸印のシャンプーやらリンスやらを持っていた(山でシャンプーしていいのか?)そして俺ら用具委員会は【食満留三郎印家鴨さんジャージ(スペシャル)】である。確かに用具委員会で家鴨さんボートを扱っているけど、どうせなら金鎚とかの方がよりわかりやすい気がするのに…

「よく考えろ裕飛。うちは元々下級生が多いんだ、俺やお前は平気かもしれないが山を登るのに大工道具なんか持たせたら可哀想じゃないか」
「あー…確かに。それならしょうがないですね、俺はてっきり留先輩がこの家鴨さんジャージを俺らに着せたいがために選んだんだと思ったんで」
「そ、そんなわけないだろう…」

じゃあ先輩、なんで俺から目をそらすんですか?

「まぁ、作…しょうがない。嫌だろうけど着なさいな」
「裕飛先輩!俺は嫌だなんて一言も…!」
「あーごめんごめん。いやさぁ、俺が作兵衛くらいの歳だったらこんなんまじで嫌だなと思って」

((刺繍は完璧だけど、委員会でペアルック擬きなんて…きつすぎる))
そう思いながらジャージを腰に巻いた。“着込め”と言われたが俺はこれから重い荷物を持たなきゃならないのにジャージを着たら体力を消費するからな。これくらいなら留先輩だって許してくれるだろう…と、考えて隣の作兵衛を見ればしっかりとジャージを着ていた

「作兵衛、えらいな…ちゃんと着て」
「別に、先輩のいうことを聞くのが普通ですから…」
「へー作にとっていうことを聞いてない俺は普通じゃないと…」
「ち、ちがッ…!」

ちょっとからかっただけだったのに作兵衛は泣きそうな顔をした。元々気い遣いな方だし、先輩の言うことに作兵衛は敏感すぎる。何もいってないのにいつの間にか頭の中で暴走している作兵衛は1年生よりも心配だ

「ごめんね作。嘘だよ…ちゃんとわかってるから心配しないで」
「…からかわないでください」

謝って頭をなでれば安心したような顔をして俺の手を離して走り去って行った。中3と言っても作兵衛は子供体温なのか手のひらがすごく熱かった

「裕飛先輩、何してるんですか?」
「はやく行きましょう!」
「はやくー!」
「あ、うん」

後ろから現れた中1トリオに両手を引っ張られ腰を押され、留先輩と作兵衛が待つ場所に連れて行かれた

「用具委員会だ」

次々に校門をでていく委員会の面々を見送っていたらいつの間にか自分の委員会の番になった

「裕飛元気かい?」
「この前会っただろう…三郎」
「いや、裕飛が倒れるなんて珍しいからな。一応心配してるんだよ」
「その割には変態行為は自重しないんだな、鉢屋変態三郎くんは」
「…私の名前にミドルネームはないよ」
「知ってる」
「…はちと雷蔵はもう行ったよ」
「あぁ見てた。生物委員会なんて動物連れてるから大所帯で目立ってたな」
「そうだな。雷蔵達は本が邪魔にならなきゃいいんだが…」

なんて三郎と2人で雑談している隣では

「えっと…まずは点呼を取りたいと思います。用具委員会は欠席等はありませんか?」
「ない。全員揃ってる」
「では食満先輩はこちらの外出届にサインをお願いします」
「あぁ」

三郎とは違ってきちんと仕事をしている中等部1年は組の黒木庄左ヱ門くんと同じく中等部1年い組の今福彦四郎くんが委員会の仕事をしていた

「お前、中1にさせるなよ」
「何をいってるんだ。私も仕事しているんだよ、裕飛」
「煎餅食いながら話すんじゃない」

ボリボリボリボリ…
口の周りに食べかすついてるし、しかもしんべヱの前で食べるのだけは止めろってーの
((もうすでにすごい食いついてみてるじゃないか…))
そんなしんべヱの視線に気が付いた三郎は持っていた袋から煎餅を1枚出してしんべヱに差し出した。もちろん角がたたないように喜三太と平太にもあげているのだけれど…

「これから山に登るて言うのにそんなしょっぱいもの食べたらのど乾くぞ?」
「良いじゃないか。食べたがっているんだから…それにしても裕飛、家鴨ジャージよく似合っているよ」
「てめぇしばくぞ」

俺はもう吹っ切れたからいいけど、まだあんまり腑に落ちてない奴とかいるんだよ!作兵衛とか作兵衛とか…

「つか学級委員長委員会は遠足しないわけ?」
「いや、全部の委員会の点呼をとったら行くよ。これつけて」

そう言って三郎が見せたのは【審判係】と書かれた襷。何を審判するんだよ、と思ったがこれ以外に三郎の委員会だと言う目印が正直思いつかなかった

「用具委員会行くぞ」

留先輩の手続きがようやく終わり、みんなで固まって玄関をでた

「もう無理ー」
「僕のど乾いちゃった…」
「つかれた…」

まだ歩いて数分間しかたっていないというのに、案の定三郎から煎餅をもらった中1トリオは“喉が乾いた”とすでに弱音を吐いていた

「だから食うなって言ったのに…」
「「「ごめんなさい」」」
「まぁ、まぁ裕飛…もう結構歩いたじゃないか、休憩しようか?」

留先輩、あんた甘すぎだよ…まだ全然歩いてないですからね。ほんの数分しかたってないですからね…とは言うものの、ずっとこのまま歩かせるのも酷だしなぁ…

「作兵衛、ちょっとリュックから水出して」
「あ、はい!」

隣を歩いていた作兵衛の前でしゃがんで担いでいたリュックから500mlのペットボトルを取り出してもらった

「先輩、どうぞ」
「ありがと」
「先輩、中身すごくいっぱい入ってたんですけど…」
「あー弁当と水とかジュースとか入ってるからねー」
「重く、無いですか?」
「大丈夫。慣れてるし」

“心配してくれてありがと”と笑って言えば作兵衛は顔を赤くしてそっぽを向いた。それを見てなんだか自然に笑みがこぼれた

「さて、喜三太おいで」
「はにゃ、裕飛先輩?」

へろへろしている喜三太を抱き上げるとびっくりして蛞蝓が入っている壷を落としそうになっていた

「はい、お水。今から休憩してたら日が暮れるだろ?だっこしててやるから好きなだけ飲んでいいぞ」
「あ、でもなめさんが…」
「あー持っててやるよ」

喜三太に水を渡して片手で喜三太を持ち、もう片手で壷を持った。喜三太は細くて軽いので片手で持つのは容易なことなのだ。喜三太が飲み終わったら今度はしんべヱを抱き上げた。中1で1番重いと言われているしんべヱも俺にとっては何ともない

「はーおいしい!」
「そうか、よかったなー」
「先輩僕が重くないんですか?」
「平気だよ。さ、もう歩けるな!」
「はい!」

元気に返事をするしんべヱを下ろして平太を抱き上げた。さっき留先輩から水をもらっていた平太は喉は乾いていなさそうだけど、なんだかつらそうだ。普段から顔色が悪いからあんまり体調悪いとか分かり難いんだけど…

「平太ーどうした?」
「疲れました…」
「そうか、じゃあだっこしててやるから寝ていいぞ」
「でも…」
「いいからいいから」

頭を撫でると俺の胸に顔を埋めて小さくなる平太。平太は本当に細いし小さいから心配になる

「裕飛、早すぎるぞ」

しばらく平太を抱いたままかつかつと歩いていたら少し離れたところにいる留先輩から声がかかった。よく見れば隣にいたはずの作兵衛は早歩きで息を切らしながらついてきているし、しんべヱも喜三太も辛そうにしていた

「あ、すいません…早かったですね」
「あぁ、俺はいいがこいつらに合わせないとだめだろ」
「すいません。だけど早くつきたくて…」
「裕飛、何をそんなに急いでいるんだ?」
「会計委員会が何を持って行ったか気になって気になって…」

もしも10kg算盤だったら団蔵があの鍛錬ギンギン脳筋ムッツリふけ顔委員長のせいでひどい目に遭わされているに違いない

「お前文次郎のことそんな風に思っていたのか…」

きっと頭に算盤乗っけて走っているかもしれない…いや、あの訳も分からない無意味な頭にされて匍匐前進させられてたりしてッ…!

「裕飛、全部口に出てるぞ」
「団蔵ぉぉおおお!」
「うるさい」
「いたッ!!…三郎何すんだよ」
「よく見ろ。下級生引いてるぞ」
「うぅ…ごめん。だけど団蔵が心配なんだよ。会計委員会は何持ってったんだ?」
「10kg算盤」
「なッ!!」
「以外」
「あぁ、よかった…」
「…の反対」
「団蔵ぉぉおおお!」
「待て!裕飛せめて平太を置いていけ!」
「あーすごい勢いだな」
「鉢屋!なんで火に油注ぐような真似するんだ!」
「しょうがないじゃないですか。私、嘘はつけないたちなので」
「減らず口を…」
「なんでもいいですから裕飛先輩追いかけないと!」
「平太大丈夫かな?」
「裕飛先輩平太落としたりしないかなー…なめさんも心配してるし」
「うーん…すごい早さだったから。でも裕飛先輩だから落としたりはしないと思うな」
「とにかく、裕飛を追いかけるぞ」
「はいッ!!」
「「はーい!」」
「私達も行こう、面白そうだ!」
「鉢屋先輩…」
「僕…加藤裕飛先輩、鉢屋先輩と違って優しいし真面目だったから憧れてたのに…」
「裕飛先輩は普段はいい人なんだけど団蔵絡みだと別人になっちゃうんだ」
「そうなんだ…」
「おーい2人とも置いていくぞ」
「「はいッ!!」」

三郎にとんでもないことを言われていてもたってもいられず、慌てて山を登る。途中飼っている生き物同伴で歩いている大所帯の生物委員会に出くわして、某毒虫野郎…じゃなくて、中等部3年い組の伊賀崎孫兵くんの彼女(?)のジュンコを踏みそうなった。どうやらまた逃げたらしい

「あぁ、ジュンコ!」
「伊賀崎くんさぁ、愛してるなら放し飼いにすんなよ。まじで踏んじまうとこだったんだから」
「すいません、裕飛先輩」
「分かればいいんだよー」

よしよしと頭を撫でれば真っ赤な顔をして伊賀崎くんは俺の手を振り払った

「あや」
「あ、すいません…その恥ずかしくて…」
「いいよいいよ。俺が悪かった」
「孫兵は団蔵じゃないんだぜ?」
「分かってますよ。八左ヱ門くん」

つい団蔵と同じように扱ってしまうのは俺の悪い癖だし、まだ腕の中ですやすやと寝込んでいる平太を抱き直してはちのとなりを歩いていたら、突然目の前をさらさらした髪が掠めた

「ちょっとまて!」
「な、加藤先輩!こんにちは」
「おぅ。神崎くん」

捕まえたのは迷子の天才。会計委員会所属の中等部3年ろ組の神崎左門くんだった。三郎の話によると会計委員会は初めの方に出て行ったらしいのに何でこんなところにいるんだか…

「神崎くんはどこに向かってんの?」
「実は会計委員会は頭に算盤を乗せて一列にマラソンをしながら山を登っていたのですが、途中靴ひもを縛りなおしていたらおいて行かれてしまいまして…」
「頭に算盤…一列マラソン…」
「…加藤先輩?」

神崎くんの発した決定打と言うべき衝撃的な一言を頭の中で繰り返ししながら神崎くんを見れば手には噂の10kg算盤

「おーい、裕飛ー…「団蔵がやべぇ!」
「ひッ!!」

大声を出してしまって生物委員会の下級生や手の中にいた平太がびっくりしていたが今はそんなこと気にする余裕すらない

「先輩、どうしたんですか?」
「よし。神崎くん行くぞ。君を糞会計委員長のところに連れて行ってやるよ…」

すぐとなりを歩いている神崎くんの服の襟を掴んで一目散に山を駆け上る

「裕飛ー気をつけろーってもういないし」
「竹谷先輩、止めないんですか?」
「「あれは無理」」
「あれ、三郎」
「よ、裕飛もう行ってしまったのかい?」
「あぁ、たった今」
「はぁ、はぁ…裕飛先輩…」
「作兵衛、大丈夫?」
「せんぱ、い…なんで5lの水と、弁当持って、いるのにあんな…登れるんだろ…」
「裕飛は七松先輩並の体力ばかだからさ」
「(ごめん、裕飛…三郎の言うこと否定できない)」

はちがそんなことを思っているのも知らず、がんがん山を登っていると変なかけ声と独特の意味不明な頭が目に入った

「団蔵ッ!!無事か!?」
「あ…兄ちゃ、ん…」
「ぎゃー団蔵!」

やっと見つけたと思ったらへろへろでぼろぼろになっているかわいいかわいい俺の団蔵

「団蔵、大丈夫?」
「兄ちゃん…つかれたよ」
「だろうな。可哀想に…左吉くんも大丈夫?」

団蔵の後ろを見れば同じくぼろぼろの中等部1年い組の任暁左吉くんがふらふらしながら“大丈夫です”と答えてくれた

「加藤裕飛先輩、どうしてここにいらっしゃるのですか?」

騒ぎを聞きつけたのか高等部1年ろ組の田村三木ヱ門くんが駆けつけてきた。自分を【学年1のアイドル】と自負するのに性格は一途で健気。茶色のかわいい髪はぼさぼさになって葉っぱをつけて、赤のカラコンの入った赤い目にはどこか涙を浮かべていた。
((あぁ、アイドルなのに可哀想に…))
すっかり目を覚ました平太を下ろして、三木くんの頭を撫でて葉っぱを取ってあげれば、泣きそうな顔をしながら“左門見ませんでしたか?”と言うので平太とは反対の手に抱えていた神崎くんを三木くんに差し出した

「ここに来る途中で拾ったよ」
「あ、ありがとうございます!」
「いやいや。次は迷子にさせんなよ」
「はいッ!!」
「お前ら何をしてるんだ」

再び三木くんの頭を撫でて平太を抱きしめていると算盤片手に現れた老け顔。会計委員長で高等部3年い組の潮江文次郎先輩だ

「お前は留三郎のところの…」
「お初にお目にかかります。加藤団蔵の兄、高等部2年ろ組の加藤裕飛と申します」
「知っている。初対面じゃないだろう」
「あ?嫌みに決まってるじゃないですか」

にっこり笑えば潮江先輩の顔は引きつった。それに比例して団蔵達の顔も曇っていく


「お前、何しに来たんだ…用具委員会は最後の方に校門を出ることになっているはずだろう?」
「どっかの老け顔委員長が俺のかわいい団蔵を虐めているんじゃないかって、慌てて登ってきたに決まってるじゃないですか」
「老け顔だと…」
「その通りでしょう。ああ、むっつりロリコン野郎の方がよろしかったですか?」

背負っていたリュックを下ろして団蔵達に水を飲ませながら嘲笑うように言えば潮江先輩は顔を真っ赤にしながら怒りはじめた

「加藤…お前には先輩に敬意を払うってことが足りてないようだな…」
「嫌だなぁ、潮江先輩。俺が敬意を払ってないのは先輩だけですよ」
「このやろう…」
「あれ、先輩やる気ですか?この俺と」

三木くんに合図を送って平太達を避難させ、ぼきぼきと指を鳴らせば潮江先輩もニヤリと笑った。笑う顔が本当に気持ち悪い

「後悔させてやろうか」
「その言葉、そっくりそのまま返しますから。潮江ギンギン文次郎先輩」
「加藤ぉぉおおお!」
「裕飛先輩!」
「作兵衛!?」
「もらったぁ!」
「しまッ…!!」

茂みから現れた作兵衛に気を取られた俺に潮江先輩が殴りかかろうとした瞬間、見たことのある鮮やかな髪が俺と潮江先輩の間に入った

「はい。そこまで」
「お前は…」
「三郎…」

目の前に現れたのは三郎でよく見れば潮江先輩のパンチを止めている

「先輩、今は遠足中です。最上級生であるあなたが後輩に殴りかかるなんてもってのほかだ」
「す、すまん…」

珍しく真面目なことを言っている三郎に唖然としながら見ていると、突然三郎が振り返ったのでびっくりした

「裕飛大丈夫かい?」
「あ、うん…ありがとさぶろ…「先輩ッ!!」
「…ッ!!さく、べ…」
「いきなりいなくならないで下さい!先輩病み上がりだったのにあんなに荷物持ってたのに!急に走ったりなんかしたら、また…」

俺に抱きついてきた作兵衛はぼろぼろなのに泣きながら俺の心配してくれて、なんだか本当に悪いことをしたなと思った

「ごめんよ、作兵衛。心配かけて…俺団蔵のことしか考えてなかったよ」
「先輩が団蔵のこと、1番大事なのは知っています…だけど、無理だけはしないでください」
「わかった。ごめんな、作」

ぎゅっと抱きしめれば、また作兵衛は俺の腕の中で泣き始めた。それを見てなぜか団蔵や平太まで泣き出すから困ったものだ

「団蔵も平太も何で泣くんだよ…」
「僕、裕飛先輩にずっとだっこしてもらってたから…先輩も具合悪いって言ってたのに…」
「僕も、算盤持ってマラソンするのが嫌だって、疲れたって言ったから兄ちゃんと潮江先輩がけんかになっちゃって…」
「平太、そんな事で泣くな。俺はもう治ったし、別に平太を抱いていた時に苦とも思ってないからな。それに団蔵のは全てそこの糞会計委員長が悪いんだから」
「…裕飛、せっかくまとまりそうだったのに何でまた油を注いでいるんだい?」

三郎が呆れた顔をしているがだってそうだろう。元はと言えばそこにいる老け顔ロリコン変態委員長がよくわかんない鍛錬を後輩に押しつけてるのが悪いんだよ

「まぁ、一理あるな。だが老け顔ロリコン変態委員長は…確かにロリコンっぽいがな…」
「だって潮江先輩のストライクゾーンは12歳以下だと立花先輩が豪語していたからな!」
「仙蔵…」
「とにかく!俺はまだ潮江先輩許した訳じゃないから。だってこれ一種のパワハラだっつーの!」

さっき三木くんも泣きながら頷いていたし、本当に何とかしないと、団蔵の将来が心配だ

「結局そこかい?」
「三郎いつも言っているだろう。俺にとって団蔵は全てだ」
「兄ちゃん!」
「団蔵ッ!」
「…僕、加藤裕飛先輩。あほのは組の団蔵と違って頭よくてちょっと尊敬していたんだけどな…」
「左吉、それさっきうちの彦四郎も同じことを言っていたよ」
「作兵衛、裕飛先輩っていつもああなのか?」
「あぁ、さすがに3年も一緒だと慣れるけどな」
「…慣れって怖いですよね」

作兵衛のため息やら平太の暴言が聞こえてきたけど気にしない。今日は遠足だし、さっき三郎に止められたけど、次あったときは潮江先輩をぼっこぼこにして俺のかわいい団蔵を救ってみせる!

「今に見てろよ!」
「「せんぱーい!」」
「わッ!しんべヱ、喜三太!」
「裕飛、やっと見つけた…」
「あれ、留先輩遅かったですね」
「お前が走ったからだろうが…」
「だって団蔵がぁ…」
「わかったから、もういいよ」

あれ、留先輩なんでそんなに疲れた顔してるの?俺嫌だよ。留先輩まで潮江先輩みたく老け顔になったら!
((醜い顔は1つで十分!))





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