バナナはおやつか否か

いつもの面子で朝ご飯を食べ、各々の教室へ向かう途中鳴り響いた校内放送。内容は【朝礼を行うので校庭に集合】とのことだけど、どうせ学園長先生のいつもの思いつきに違いない

「めんどくさい」
「そう言うなって」
「だってさー…どうせ学園長先生のしょうもない思いつきだし。いきたくないー」
「もう、裕飛…はちを困らせたらだめでしょ」
「いいよ雷蔵。ほら、裕飛おんぶしてやるからいくぞ」
「…はーい」

にっこりと笑ってからはちが目の前でしゃがむ。俺ははちの肩をつかんで、広い背中に飛び乗った

「はちは裕飛を甘やかしすぎだよ」
「確かに、裕飛16歳にもなっておんぶはどうなんだ?」
「うー雷蔵も兵助もうるさいなぁ」
「裕飛…」
「ごめん兵助、雷蔵。昨日部屋にいた狼の子供が逃げ出したから裕飛が一緒に捜してくれて、寝たのは明け方なんだ」
「裕飛寝起き悪いからね」
「違うよ。勘ちゃん失礼だしッ!」

ぷいっと話しかけてきた勘ちゃんから視線を逸らして、はちの背中に顔を埋めた。大きくてあったかい…安心する。なんだか気分が和らいで、俺は校庭につくまでうとうとしていた

「裕飛、ついたよ」
「ん、んー…」

目をこすっているとはちが降ろしてくれて、隣にいた雷蔵が乱れた服を直してくれた。本当に寝てしまったのでふらふらしながらあるいていたら、兵助がさりげなく手をつないで俺を引っ張りながら一緒歩いてくれる。兵助、普段こーゆーことしてくれないからなんか嬉しい

「委員会ごとに並ぶみたいだ」
「ん、本当だ」
「タカ丸さんと食満先輩が隣にいるから俺らとなりだな。一緒にいこう」

雷蔵とはちと勘ちゃんにお別れして兵助に手を引かれて留先輩のところまでやってきた

「裕飛眠そうだな…」
「昨晩いろいろあったみたいで…」
「そうか…」

兵助から話を聞いた留先輩は俺の頭を撫でてくれた。なんだか嬉しくて留先輩に抱きつくと少しびっくりしてたが笑ってくれた

「じゃああとよろしくお願いします」
「あぁ、すまんな」
「へーすけ、ありがと」
「お礼を言われる事じゃないから」

照れたように笑った兵助は黒いふわふわした髪を靡かせて自分の委員会の輪の中へ入っていった

「裕飛、これから学園長先生の話が始まるから並べ」
「はい…っと」

何もないのに思いっきり躓いて、それをみた留先輩が俺の右手をひっぱるから…また留先輩の腕の中に逆戻り

「本当大丈夫か?」
「はい…」
「作兵衛、裕飛を後ろに連れて行きなさい」

すぐそばにいた作兵衛に連れられて、用具委員会の列に並ぶ。すぐさま心配顔の中1達に囲まれたが、大丈夫と笑っておいた。本当は貧血っぽくっていっぱいいっぱいなんだけど、心配かけるわけにはいかない

「裕飛くん、大丈夫?」

ふらふらしながたっていると、隣の兵助と同じ委員会で高等部1年は組の斉藤タカ丸さんが話しかけてきた。学年は1つ下なのに歳は1つ上というカリスマ美容師の息子のタカ丸さんはきらきらした金髪とアシメが特徴的で、巷でも話題の人だ。ちなみに俺の髪もタカ丸さんのお父さんにやってもらっていたりする。そんなタカ丸さんは俺の体を寄せて“僕にもたれかかっていいよ”と小声で囁いた

「で、でも…」
「裕飛くん本当に顔色悪いから少し寝たほうがいいよ」


“下級生も心配するよ”なんて言われたら従うしかなくて。お願いしますと一礼して頭をタカ丸さんの肩に置いた。俺より背の高いタカ丸さんにもたれるのは大変だったけど、タカ丸さんはさり気なく屈んでくれた。タカ丸さん特有の甘い香水の香りと俺の髪を撫でる仕草が留先輩やはちとは違う、美容師ならではの撫でかただから優しくて…俺はすぐに眠りに落ちた。どれだけ寝ていたのだろうか、目を開けてぼーっとする視界に映る真っ白い天井と金色と藍色

「裕飛くん、おはよう」
「兄ちゃん!大丈夫!?」
「あ、団蔵…」
「裕飛くん!まだ寝てなきゃだめだよ」
「タカ丸さん…」

体を起こしたらタカ丸さんに止められて、再びベッドに寝かせられた。団蔵が呼びに行ったのだろうか、不運…いや、保健委員会委員長で高等部3年は組の善法寺伊作先輩が目の前にいる

「裕飛くん、突然倒れたって言うからびっくりしたよ」
「俺、倒れたんですか…?」
「うん。軽い貧血みたいだけど…昔からそうなの?」
「いや、そんなことないです」

だって昔から【加藤家の裕飛と団蔵の兄弟は病気知らず】って近所じゃ有名だったから

「多分、寝不足なだけです。もう元気ですし」
「でもまだちょっと帰すわけにはいかないから、もう2時間寝ていてね」
「はーい」

本当は何ともないから教室に帰りたかったんだけど、以前留先輩に“伊作に逆らったらいけない” なんて聞いたことがあるから…素直に従うことにした

「兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だって。ほら、団蔵も教室戻りな?」
「やだ!僕も残って兄ちゃんの看病する!」
「団蔵…」

この子ったらなんていいこなのかしら…もう大好き!でもただでさえ1年は組は授業が遅れてるって土井先生が嘆いてるんだから団蔵の気持ちは嬉しいけど…やっぱりだめだよね

「ありがと団蔵。でもお前は元気なんだから勉強しないと」
「勉強やだー」
「気持ちはわかるけど勉強しないといけないんだからな。ほら、行きな…少し寝たらは組に顔を出すから」
「本当に?」
「あぁ、だから教室で待ってろよ」
「うん!」
「じゃあね」

団蔵の額に口付けして、走り去る小さな背中を見送った

「いい兄弟だね。僕一人っ子だから羨ましいよ」
「タカ丸さんもずっとついていてくださってありがとうございました」
「気にしなくていいよ。またこんど裕飛くんの髪を触らしてくれれば!」
「こんな髪でよければいつでもどうぞ」

にっこり笑えばタカ丸さんも笑った。いつも思うけどこの人の笑い方は透き通っていて綺麗だ

「タカ丸さんも教室に戻らなくて大丈夫なんですか?」
「うん。先生が裕飛くんについてって、それに善法寺伊作くんも今いないし」

そう言えば善法寺先輩の姿が見あたらない。留先輩に報告にでも行ったのだろうか…そう考えていると突然保健室のドアが開いて見知った顔が目に入ってきた

「裕飛大丈夫か?」
「あ、久々知兵助くん!」
「タカ丸さん、裕飛は?」
「あと2時間したら帰れるんだって」

タカ丸さんと兵助が雑談をしているうちにこそこそと隣に来たのははち

「はち、なんで隠れてんの」
「だってタカ丸さんいるから…ッ!」
「しょうがないよ、はちはタカ丸さん苦手なんだから」

そう言えばそうだった。髪の毛が常に痛んでボサボサのはちは目を光らせたタカ丸さんにいつも追いかけられてるんだっけ
((あの時のタカ丸さんは別人のようだからなぁー…))

「ところで裕飛大丈夫なの?急に倒れたから…」
「大丈夫、大丈夫!善法寺先輩が言うには軽い貧血らしいけどもう元気だし心配しなくて大丈夫だよ。雷蔵」
「俺のせいだよな」
「はちのせいじゃないって、気にすんな」

本当に元気なのにみんな心配性だよね。でも嬉しいけど

「ところでさ、朝礼の内容はなんだったわけ?」

うっすら聞いた話だとなんか学園長先生の思いつき行事みたいなことを言っていたような気がするんだけど…

「つか三郎今日朝からみてないし」

いつの間にか隣に来ていた兵助と苦笑いしている雷蔵に訪ねる。ちなみにはちはタカ丸さんに捕まり目の前で説教をされている

「ね、雷蔵…三郎は?」
「なんだ裕飛、私がいなくて心配か?」
「ぎゃあぁぁああ!!」

突然布団の中から現れた三郎にびっくりして、兵助に抱きついた

「な、ななななんで!?」
「ずっと布団の中にいたよ。それより裕飛、抱きつくなら私に…」
「三郎ー?何やってんのかなー?」

光臨した雷蔵様に首を掴まれてむせかえる三郎。てか雷蔵いつも以上にオーラが黒い…

「裕飛は具合悪いっていってるのにだめじゃないか!」
「「すいません」」

謝罪の言葉がかぶったと思ったら向こうではちが正座をしてタカ丸さんに謝っていた

「髪だって生きてるんだよ!」
「…はい」
「まぁ、まぁ…タカ丸さん、はちだって反省しただろうから許してあげてください」
「裕飛…」
「裕飛くんが言うなら…竹谷くん、ちゃんとケアしてねッ!」
「はいッ!」

はち涙目になってる…よっぽどタカ丸さんが怖かったんだ

「これで一件落着か…」
「そうだね…わッ!」
「裕飛、私のことは雷蔵から助けてくれないのかい?」

すごい涙目で三郎が俺の足を掴んで悲願するけど、いまだに俺を抱いている兵助が三郎の手を振り払ったのですぐに手は離れたけど匍匐前進しながらこっちにくる三郎はゾンビみたいだ

「しょうがないなぁ…雷蔵」
「裕飛…何?」
「裕飛ッ!ありがとう!実はさっき寝ている間に裕飛の頬に口づけしたんだがそれをお礼して受け取っ…「おい。雷蔵…もっと激しくしてくれ」
「言われなくても」
「なんでだ!裕飛!私これ以上されたら命の危機…」
「命の危機にさらされればいいんじゃないのか?」

兵助、なんで兵助がそんなに怒ってんの?

「ところで本当に朝礼はなんだったの?」

両頬をタカ丸さんとはちにごしごし拭かれて消毒されながら、兵助にベッドに降ろされてみんなに聞いた

「あぁ、なんかまた学園長先生の思いつきなんだ」
「あー勘ちゃん!」
「ごめんね、果物切ってたら行くの遅くなったんだ。食べる?」
「うん!ありがと…で?」

勘ちゃんから瑞々しい果物を受け取ってはちに話を聞いた

「なんでも裏裏山まで遠足をするんだって」
「遠足って…小学生以来じゃない?」
「ちなみに明後日だってさ」
「まじ?てか雷蔵制服血だらけ…」
「本当にもう三郎ったらしつこいからちょっとやりすぎちゃった☆」
「あぁ、そう…」

にっこり笑顔は爽やかだけど目の端に見える三郎らしきものと返り血のせいで雷蔵がとても怖く見える。俺に引っ付くタカ丸さんはこんな雷蔵を初めて見たらしく泣き顔だし、兵助もはちも勘ちゃんも顔がひきつっているから、タカ丸さんが怖がるのも無理はない
((俺だって怖い))

「ま、まぁ話を戻すと明後日遠足があるんだ」
「学年行動?」

そもそも遠足なんて今までしたことないから若干2名ほど迷子フラグが立つじゃないか。そして作兵衛を含め中3は遠足どころじゃなくなるだろう…

「いや、委員会行動だ」
「僕と兵助くん一緒だね」
「委員会ね…体育と会計は大変だろうなぁ」

体育委員会はいつもマラソンで裏裏山まで行ってるって聞くけど、必ずと言って良いほど無自覚方向音痴の次屋くんが迷子になり、七松先輩は暴走するらしいし、会計委員会は次屋くんより(作兵衛が言うには)たちが悪い決断力の方向音痴である神崎くんが迷子になると捕まえられなくて、委員長である潮江先輩は鍛錬好きだと聞くから…
((どっちも大変だな…))
遠足が大波乱になることだけは確実だよね

「あとは?」
「お弁当は各委員会で作って、おやつは500円までらしい」
「ふーん。じゃあ弁当は留先輩が作るんだろうな…」

そうぽつりとつぶやくと兵助は安心したようなため息を吐いた。なんでだろう?

「つかお前ら勉強は?」
「中等部はあるらしいけど高等部は明後日の遠足の買い出しや準備で休みなんだよ」
「あ、三郎復活」
「今回は学級委員長委員会も参加するから準備が大変なんだ」
「まぁ、遠足に審判もくそもないだろ」
「だが出発する前に持ち物検査をするがね、今回は【委員会対抗】ってことで、何か委員会で共通のものを持つことになっているから」
「へー共通のものね…」

会計委員長が【10kg算盤】なんて言わないことを祈りたい

「てかさ、おやつ500円なんでしょ?」
「そうだよー」
「…バナナっておやつなんすかね?」
「なんで僕の顔みていうのー!」
「うーん…どうだろうな」
「兵助くんもみないで!」

いや、金髪ってバナナを連想させるからつい…ね。それに用具委員会の下級生は食べ盛りだからなあ…おやつもたくさんいるだろうし

「あ、留先輩が弁当作るならおれがおやつ作ればいいんだ!そしたら経済的だし大量生産でき…」
「「「絶対だめ!」」」
「えー…」
「これ以上トラウマを増やすな…」

トラウマって…おい。つか兵助顔真っ青なんだけど…
((どうしたんだ?))




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