笑顔になあれ

2011/10/10 14:20

鏡の前に立ち、そこに映る自分に笑いかけると、桃色の肌はぎこちなくひきつる。苦手な笑顔の、練習というわけだ。
なぜそんなことをしているのか、と問われれば理由は至極単純で、恋慕う相手に笑顔を見せたいがため、というそれだけのものだった。
エリスの脳裏にはこの世で最も魅力的な笑顔をした少女の姿があった。


「まあ、どうせこの目付きじゃ何しても無駄ね」


諦めてしまおうとしたその時、うさぎのような耳が真隣に飛び出してきた。


「何してるのー?」

「うひゃっあ、わわ」


鏡の中の自分の背後にひょいと現れたのは、たった今まで脳内に浮かんでいたのと同じシルエットだった。
驚きのあまりあらぬ声をあげてしまい、エリスは恥ずかしくなってあわてて両手で自分の口を塞ぐ。


「あはっ、何か見ちゃイケない事でもしてた?ごめんねー」

「や、やましい事なんかないわよ…」


まるで目が合わせられなくなる。もっと上手く笑いたいと考えるようになったのは、そもそも、せらに会ってからの話なのだ。
何しろエリスにとってせらは、生まれて初めて恋愛感情を持って接した、ただひとりの存在である。
どうしたら良いものか悩み抜いた末に、まずは表情という結論に至ったのだった。
どうせ、と諦念を抱く悪い癖はそのままに。


「…ねえ、せら」


話しかければ、んー?、と間延びした愛しい声がこだまみたいにすぐに返ってきて、エリスの鼓膜を震わせた。
心音が少しずつ加速していく。頬は言うまでもなく、手足の末端に至るまで全身が普段以上の熱を帯びていくのがわかった。


「私…せめて可愛く見えるくらいには、ちゃんと笑えるようになる。頑張るから、上手くできたら…」


褒めてほしい、と言葉を続けてしまってから、自分は見た目に違わず犬のような思考だな、とエリスは心の中で自嘲した。
と、エリスの頭頂部にせらの手がのびる。頭を撫でられていると気付くのに時間はそうかからなかった。


「えらい、えらい」

「ちょっと、い、今なんて言ってないわよ」


嬉しい反面、ほんの少し触れ合うだけでも、溶けてしまうのではないかというほどに照れくさくて気恥ずかしくて、いられなくなる。元来照れ屋なたちではなかった筈なのに、だ。
エリスの声はすっかり上擦っていた。


「あれ?あたしの見た限りだと、エリスってよく笑ってるけど」


せらの言葉に、エリスは口元をおさえる。
まさか、そんな。
せらの傍にいることに対しての幸福は感じていたが、無意識に顔に出ているとは夢にも思わなかった。
途端に頭の中が真っ白になって、もう表情など見られぬようにと、エリスはせらの豊かな胸に顔を押し付ける形で、彼女を抱きしめた。

先よりずっと大胆な行動に出てしまった、と後悔するまでに、数秒の時間を要した。



はずむしあわせ
(恋に練習などいらないのです)

*
いばらもりさん宅のせらさんをお借りさせていただきました!
毎度お世話になっとりますいばらもりさんとそのお子さんとの交流はメールから(ありがとうございます!)なのですが、今回いばらもりさんから恋人のお誘いを受けた時にはとくに嬉しく小躍りしてました←
というのも私、サイトstk中にせらさんに一目惚れしてまして…
しかしエリスはそんな私以上にせらさんにぞっこん参ってるみたいです。骨抜きのようです。
恋人承認ありがとうございました!(^O^)


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