古代の王と妹君
2010/12/13 02:10
優しい笑顔が向けられている。
仮面をすっかり外した赤と黒の眼差しがやけに痛いのは気のせいだと思う、いや私の思い過ごしであるとわかっているけれど、この方はぐいぐいくるからこわい。
「あああ、我が愛しい妹よ。何か欲しいものはあるか?余がなんでも叶えてやるぞ?ん?」
寄せられる好意は家族愛、むかしむかしは王位争奪のために兄弟姉妹であろうと敵と見なさなくてはならなかった反動なのだろうか、モルテルさんはとかく弟妹を溺愛する。
そう、私はそのとばっちりを受けた。
「あ、兄上」
意見しようと声を絞り出すと、目がなくなるのではないかと思うほどにっこりと瞼を閉じ、尚且つ目尻を下げて猫なで声で聞き返してくる。嫌いではないんだけどな。
「余か?」
命以外ならくれてやらんこともないぞ、なんて思っても見ないことを言うから私は慌てて首を振った。
「い、いえ違います、その…」
「なんだ?遠慮せず申してみよ」
言おうとするたび遮るのはどこの誰ですか、と問いたいけど私にそんな勇気はない。
でも、たまには平穏が欲しい。そうだ、もうこれでいいじゃない。
「き、今日一日…ッ!あの、静かにして頂けませんか、ごめんなさい」
失礼にはならなかっただろうか、恐る恐るモルテルさんの表情を見れば呆気にとられていたが、すぐに優しい微笑みを見せた。
「ダネは無欲だな、このモルテルにかかればお安いご用であるぞ?民よ、我が妹のために沈黙を守ることを命ずるぞ!」
なにを取り違えたのかわからないけどモルテルさんが黙れば私はそれでいい…って、ああああやめてくださいってばそんなにおおごとにしないでモルテルさんのばかばかばかばか!
声に出せない無念を、今日も私は飲み下した。
どうかこのおばかさんな王様が気づいてくれる日が来ますように。
心残りすぎた祈り
(自分のボックスに帰りたい)
*
ダネとモルテル。モルテルは生前弟妹を可愛がりたくても可愛がれなかったぶん反動でシスコンかつブラコン。きっと兄姉相手でも甘えん坊。
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