お前ら本当にそれでいいのか

2011/03/11 04:06


広い広いイッシュの片隅、例によってあっという間にのされて傷だらけで地面に転がるぼくの目の前に、人影が近付いてきた。
やってくるが早いか、彼の口から開口一番飛び出したのは驚くべき台詞だった。


「立てるか?ヴォトレ」


他人を気遣う言葉、心配そうな面持ちでぼくを担ごうとするその姿は紛れもなく古代の王。
珍しいことに、兄弟姉妹か昔馴染みのポケモン相手ではないと動かないと思われていた、あのモルテルさまがぼくをポケモンセンターに連れていこうとしているのだ。


「モルテルさま…?どうしたんだい、ぼくを助けようなんて」

「今、そちに倒れられては困るのだ」


訊ねれば、答えてくれる。
それだけの事があまりに不自然だった。
なんだか本当に変だった。普段のモルテルさまなら、質問などそちに許した覚えはない、とか、そちは黙っておれ、とか、とにかく答えるどころか一蹴してしまって話が前に進まない筈なのに。
それでも返事を期待して話しかけるぼくもぼくかもしれないけれど、今日のモルテルさまの方がずっとずっと変だ。
担ぎ方なんて手全部使って御輿同然だし。

考えていると、再びモルテルさまが口を開いた。


「そちは余をなんと呼ぶ」


問いかけに、ぼくは疑問符を浮かべながら答える。


「モルテルさま、だよね。それがどうかしたのかい」

「この時代において、余をそう呼ぶのはそちくらいのものだな」

「…?うん」


話が見えない。
頭でも打ったのに違いがない、そう思いかけたとき、彼がほんの一瞬だけ笑った、ような気がした。


「余を敬おうとする者など、もうおらぬのではないかと思っていた。褒めてつかわす」


正直な話、ぼくは誰にでも“さま”をつける。
自然とそうしてきたもので、敬うとか、そんなことは滅多に考えていなかった。
まさか、それだけで喜ばれるなんて。


「そちには王国復古を手伝って欲しい」


いつも通りの彼の目標、オトマトさまとかダネさまと一緒になって言ってるのをぼうっと見ていたけれど、参加しろとはなかなかに無茶を言う。さすが元、王様。
でも、退屈そうだから断ろう。ぼくが答えるその前に、さらに付け加える。


「ねむけざましもくれてやる、悪い話ではあるまい。どうだ?」


前言撤回だ。なんて面白いお話なんだろう。
この浪漫に満ち溢れた素敵な計画を、気前のいいモルテルさまとともに進めるとなると、とてもワクワクしてきた。
断らずにすんで良かった。


「フフフ、勿論だよ。力になれるかわからないけどね。フフ、フフフフ」


その後、笑いすぎて傷を広げてしまったようで、薄れゆく意識の中、ただ青くすみわたる空が妙に鮮明に焼き付いて、それからはもう覚えていない。



あの空は勿忘草色
(目が覚めるとポケモンセンターでメイビーさまがなんか言ってた)


*
ココロモリがあっという間に倒れる件
モルテルはこうしてヴォトレと友達になったみたいですね。

ただきっとモルテルは、ヴォトレが忠臣となってくれると信じてるんだと思います。

正確には友達というか変な主従というか雇い主とバイトの関係というか。
仲はいいんですよ、仲は


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