自動人形は息をする
2011/02/05 05:59
膝を静かに曲げる。きし、きしりとばねのような、針金のような音がする。
私がつくられて、もう随分と年月を過ごしたが、自分でもどういった仕組みで動いているのかを知らない。
私にわからないのだ、大昔からの付き合いであるモルテルにもわからないだろう。
しかし、私はモルテルの事をよく知っている。人間の頃から知っている。勝った。
…と言ったら鼻で笑われた。納得がいかないぞ。
そういえば、ふと思い出す。古代都市が消え幾年が過ぎたある日は自らの存在について果てなく考えたこともあった。暇だったからだな。
しかし、きりがない上に思いの外退屈で、やめたのだった。
今思うと、私が私自身にレゾンデートルを問うなど、おかしな話だ。
その頃からはずっと、モルテルは城の跡に残り、王国復古の機会を見計らっていた。トレーナーに捕まるとは思っていなかったのに違いない、今でも隙あらばと口癖のように言ってはいるが、あやつが動きを見せたことはない。ぬるまったな馬鹿め。
と、最後の一言を言ったら包帯で殴られた。そなたは呪うという事を知らんのか、と言ったら「貴様を呪うためにわざわざ身を削るのは御免だ」と返された。モルテルのくせに生意気だ。
だが、私もあやつのように一度は王国の復古を夢見た日もあった。しかし無駄だと分かった瞬間すぐに飽きた。つまらんからな。
その点では確かに、あやつを羨ましいと思った。
いつになっても追うことのできる夢とは、なんと浪漫に満ち溢れたことか。
けれどこの話は言わないでおく。付け上がるのに違いない。それは避けたい。
オトルマンはしきりに色恋を気にしている。他人の幸には興味がないが、クリュオテも少しばかりめかして何処かへふらりと出掛けている。そういえばモルテルも世継ぎか、などと呟くようになった。あやつらは何なのだろうか。私には理解が出来ない。あやつらのように自分が何者かに慕情を抱くなど想像も出来ない。からかうだけで十分だ。
しかし楽しそうでもある。
にやにやと気持ち悪い顔をすることになるのはまっぴらなので、やっぱり私はこのままでいいのだが。
横になり一つ、息をする。
それが不自然に思えるのは、生身の人形というおかしなつくりのためだろうか。
最初は真似事だったのに関わらず、呼吸という作業が体に馴染み、空気を取り入れ吐き出す度に胸も上下するのが分かった。
私は変化することを知らなかった。
だから少しずつ、様相や心持ちを変えていく友人を見るのが、からかうのが楽しみだった。
息をして、今さらになって気づいた。
そうか、そうだったのか。
私もまた、変化を知る傍観者のひとりだったのでしょう
(飽いた日々に新しさを求めていた)
*
どうしたかったのか自分でもさっぱりなオトマトの独白
掘り下げたかったのですが無茶でした
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