小さな逢瀬とetrangement

2010/12/30 22:39

眩しい光線は遠く暖かい、気候に思わず微睡みそうな午後の安寧とした職場に、ふと記憶に新しい声が聞こえる。


「いい天気だ。絶好の散歩日和だね」


振り返れば、視界には紫と黄の二色が飛び込む。
少女は静かにため息をついた。


「こんなところまで、何しにいらしたのかしら?」


訊ねれば、男はへらりと笑い答える。


「きみの顔を見に来ただけなんだがね、何かこの辺りでものを買った方がきみには得かな」


慣れもしないであろう空間内で、物珍しそうにきょろきょろとする男に、少女はぴしゃりと言った。


「ここは観光地ではなくてよ。名所巡りなら他所を当たってくださいませんこと?」

「おや、すまないね」


目をぱちくりとさせ、きょとんとした様子でこちらを見据える。
気がかりなのは、ここへやってきた口実だった。


「それに、顔が見たい程度だなんて…!ここまでどれだけ距離があると思ってらして?」

「やあ、それなら心配いらないよ。惚れて通えば千里も一里という言葉がある」


逢わずに帰ればまた千里、なんだがね。
続く台詞も聞いているこちらがむずむずするようなもので、少女は思わず頬を紅潮させた。


「よくもまあそんなこっ恥ずかしいことを…もういいですわっ」


ふい、と外方を向き、「帰ってくださいまし」と一言投げる。
すると、男は彼女の背中に告げた。


「去るならば、どうかこれを受け取ってからにしてはくれまいか」


渡されるであろうものを確かめるためにも、もう一度向き直り、近づいたのが運の尽きだった。
腕の中へと捕らえられ、しっかと抱き締められてしまったのだ。

勿論、少女は慌てて離れる。


「あ、あなたってひとは…何なんですの!全く!」

「愛を言葉にし過ぎると早々に恋が終わると聞かされたものでね。どうか長続きさせつつ気持ちを伝えたいので、行動に表してみたのだが」


男のおかしな返答が、あまりに呑気に鼓膜を震わす。安寧は今、たった今、打ち破られようとしていた。


「だからって白昼堂々抱き締めるなんて非常識でしてよ!」


怒ったような調子で訴えるも、男は成る程、とでも言いたげな面持ちで「おお、やっぱりそうか」、などと呟くだけだった。


「やっぱり、なんて思うなら思い止まるべきですわ」

時と場所さえ違えばあるいは、素直に喜べたものを。
少女は男の方をちろりと睨んだ。相も変わらずへらへらとしている。


「すまないねえ」

「にやつきながら仰らないでくださいましっ」


なんだか気が抜けてしまい、帰る気にも帰す気にもなれずに時間だけが過ぎていった。

暫くの沈黙を経て、男はそうだ、そういえばと何かを思い出したように口を開いた。


「わたしは今道に迷っているんだが…、帰り道を教えてくれると助かるな」

「あなたどうやってここまでいらしたんですの…?」


何より気になる目的があったためだろうか、どうやら通過してきた道は彼の印象に残らず、忘れてしまったという。
なんて困った大人だ、と、少女はすっかり呆れた。



これは妙なことに、まっすぐこれたのだ
(ふむ、良い香りがしたからかな)(せ、セクハラではありませんこと!?)

*
レンピカさんをお借りして、彼女の元へクリュオテさんが押し掛け逢瀬しにいきました。
レンピカさんふつくしいです可愛いです(^p^)魅力が出せていなかったらすみません!好きです!←

素直シュールみたいになってしまいましたがせっかちで好奇心の強い男です、クリュオテは。決して手が早いなんてことは思ったら行動、思ったら発言。せっかちなので。

余談ですがetrangementとは、妙なことに、不思議な、といった意味があるらしいです。
本当は最初のeに'みたいなのがくっついてます


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