ソファーに深く背を預けたリーダーは、今までになく真剣な面持ちで指を組んでため息をついた。
何か大変な事でも起きているのかと思って、メガネを押し上げながら「何?」とぶっきらぼうに訪ねると、彼はますます険しい顔をして手を額に当てた。


「最近…」

重い口調での切り出しに、思わず喉がゴクリと鳴る。





「名前がオレに冷たいんだ」


豆腐の角に頭をぶつけて死ねば良いのに。

思わず口をついて出かけた言葉を飲み込んで、曖昧な相づちを返すとリゾットはもう一つため息をついた。


「まさか、ギアッチョまでオレの名前への愛が分からないのか?」

「寒いから黙ってろよ」


今度こそ飛び出した言葉に、リゾットは眉を寄せた。
いや、分からないのかって…暗殺者の愛なんか分かりたくもないっつーか、そもそも、自分が「愛」なんて言葉が世界一似合わない種類の人間だと自覚した方が良い。

「いっそ力ずくで「そんなこと言ってるようじゃ、分かれって方が無理なんじゃねーの?」

名前が気の毒だ。
そう思いながら、リーダーの隣に座った。
名前へのリゾットの愛は知らないが、ずっと監視してきた身として、名前のリゾットへの愛は分かる。
それに一番気づいてない人間がリゾットだということも、残念ながら周知の事実だ。



「………名前がどう冷たいんだよ」

「昨日なんだがな」


やっぱり聞かれるのを待っていたのか。
リゾットは名前の話をしたい時は大抵オレに言ってくる。
理由ならわかってる。

どうせ、意見なんか求めてない。
「黙って」…しかしそれなりに「真剣」に、ただ聞いてくれる人間を求めてるんだ。
利用されてると思うと、急にイラついてきた。
ムカつくぜ。


「こそこそ隠れて何かやってるみたいなんだ」

「はぁ?名前が?」


頷くリゾットを尻目に、チラリとカレンダーを盗み見た。
別に何か記念日があるわけでもない。
いや、コイツらバカップルは毎日が記念日の勢いだが、まぁそれはさして関係ない気がする。


「分かった分かった、適当に探ってみてやるよ」

「いいのか!?頼んだぜ、ギアッチョ」

最初から頼む気だった癖に。
白々しく驚くと、あっさり面倒を押しつけたリゾットはソファーから立ち上がり、足早に部屋を出て行った。

あの急ぎ方からして、仕事を放って来たに違いない。
しかし彼はそこまでして、自分で問い詰めれば良いものを、わざわざ遠回しに他人を巻き込んだのだ。


「どんだけ名前に弱いんだ」


ポツリと呟いて、我らがリーダーの情けない姿にため息を溢した。













「よぉ、名前じゃねーか」

これもまた白々しく、名前に偶然を装って声をかけた。
「あ」と小さく声をあげた名前は、ぱたぱたと駆け寄って笑う。
名前のそんな笑顔は、オレ達が暗殺者だと知る前と知ってからで何一つ変わらない。
そんな名前に、オレも少なからず惹かれる。
だからどうしようってのはないが。


「ギアッチョ!久しぶり!!」

「だな」


飛びつく名前を軽くハグして素早く押し返す。
どこで“ヤツ”が見てるとも知れないからな。

しかし名前も目敏い。


「リゾットに何か頼まれたの?」

「……何でオレがリーダーの用を引き受けるんだ?」

素早く押し返した事がバレたに違いない。
しかし、これで名前が何かを企んでいることはほぼ確実だ。


「ジョルノがね、リゾットに頼まれるのはきっとギアッチョだって言ってたの」


ボスが絡んでいるのか。

なるほど、リゾットが探りきれなかったわけだ。
内心で頷いて、目の前の小さい策士の頭を撫でた。


「敵わねぇな」

「うふふ、今回はどうしても譲れなくて」


それで物怖じせずにボスを巻き込む辺り、部下を巻き込むのが精一杯などっかの誰かとはスケールが違う。


「どーせ良いことだろ?」

こっそり耳打ちすると、名前は楽しげに笑った。

はぁーあ、やっぱりバカップル。
関わるんじゃなかったぜ。


「あのバカリーダーが心配してるぜ?」

「分かってるけど」


リゾットもさることながら、名前もなかなか強情だ。
名前はチラリとオレの後方を伺って、「大丈夫」と呟いた。
あの野郎…つけてやがったのか。


「もう少しだから」

「ふーん、期限付きか」

「…まぁ、ね」


歯切れが悪いのは、リゾットが近くに居るからだろう。
名前は手にしていた書類を持ち直し、ジョルノに呼ばれてたんだったと慌てて駆け出した。



「名前…「着いて来たらバレるだろうがっ!!」


名前のスタンド能力相手に、メタリカなんて意味を成さない。
本当、名前が絡むとマジでバカだ。
リーダーなんて呼んでやるもんか。「リゾット」もしくは「アンタ」で十分だ。


「とにかく、アンタが心配する事なんて何もねーよ。もう少し信じてやれば?」

「信じてやれば?」と言えば、リゾットは必ず口をつぐむ。
名前を疑っているわけじゃないことは、いくらオレでも分かる。
リゾットが何を恐れているかも分かってる。


「心配しなくても、名前だってアンタにベッタリじゃねーか」

「だが…」



まだまだ納得出来ない様子のリゾットに、気づかないふりで背中を向けた。
オレに出来る事は何もない。

いいから早く気づけよな。
お前らバカップルだって事は、地球が丸い事より当たり前なのに。


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