ここがリゾットと名前をメインにしてるってのは分かってる。
だけど、今回だけは我慢ならねーから聞いて欲しい。
あのバカリーダーの話。
byプロシュート










「名前元気かなぁ…」

ペッシが洗濯物をたたむのを横目に、オレはのんびりとエスプレッソを傾けた。
名前が家事一切を取り仕切って以来、誰もクリーニングを使わなくなった。
高いからな。
名前が別居する事になって、そのしわ寄せの全てはペッシにいった。
料理だけは当番制だが。


「気になるなら行けば良いだろ?そう遠いわけじゃねーし」

「うーん…」


ペッシが悩むのも無理はない。
名前だけが住んでいるなら会いに行くのも気安いが、一緒に住んでいる男が問題なのだ。

リゾット・ネエロ。我らが元暗殺チームのリーダーだ。
名前に心酔していて、つい先日念願叶って郷里のシチリアでプロポーズをした。
この男…かなりの独占欲を発揮していて、名前との時間を邪魔するとすこぶる機嫌が悪くなる。


「連絡をしてみりゃどうだ?」

「さすが兄貴!!あ、でも名前のアドレス知らねぇや」

「仕方ねぇな。しといてやるよ」


名前は同じ組織内に居るとはいえ、親衛隊のオレ達とは違って幹部入りしている。
一応リゾットチーム扱いではあるが、している仕事はマジに幹部。
しかし、名前のスタンド能力が贔屓されるのは仕方ねぇ。


「兄貴ぃ…兄貴も」

「わかったわかった。次の日曜日なら空けてやる」


どうせ暇だしな。
言いにくそうにしながらも、オレの休日を奪う勇気を振り絞った弟分に、今回は付き合ってやることにした。

「その代わりと言ってはなんだが…今日の晩飯代わってくれよ」

「えぇっ!?」

「頼んだぜ、ペッシ」


デートなんでな。
オレの休日はお高いぜ?なんてな。
ケータイで名前に"次の日曜日に新居見せてくれよ"とメールを送って、オレはアクビをしながらアジトを出た。

それが、名前の所に行くことになったきっかけ。







「名前の所に行くの?」

「鏡から体半分出すの止めろイルーゾォ」


本当、ホラーだな。
もう一度同じ質問を繰り返すイルーゾォに頷いて答えると、「オレも行く」と支度をし始めた。
だから、ペッシと二人で行くつもりが、気づくと全員で行く事になっていたくらいで驚かねぇよ。


「何か食べる物買っていく?」

「あぁ、突然大人数で押し掛けるしなぁ」


ソルベとジェラートの(珍しくも)常識的な提案で、ちょっと寄り道して食材を買って行く事になった。
全員が好き勝手に、名前に作ってもらいたい料理に必要な物をカゴに詰めていく。


「もう作ってくれてたらどうする?」

「あぁ?……そうか、あり得るな」

へらへら笑うメローネに言われて、オレはまた名前にメールを入れてみる。


to プロシュート
sub
―――――――――――
皆で行くことになった。
飯は買っていくから大丈夫だ。





「なんか作らなくて良いって言ってるみたいだね」

「あ?そんな事は言ってねーよ。大丈夫だろ」

送信完了を確認してケータイをポケットに突っ込むと、オレはジャガイモとチーズと卵をカゴに放り込んだ。
今日はフリッタータの気分だ。


「マルゲリータ食いたいな」

「イルーゾォ、ピザはさすがに無理だろ。時間かかるし」

「大丈夫、いつもピザの生地作り置きしてくれてたから」


そりゃアジトにいた時の話だがな。
まぁ良いけど。

「終わったか?おいおい、買いすぎじゃねぇか?」

「兄貴ー、これ一人じゃ無理だよぉ」

「オレも持ってやるよ」


さすがにペッシ一人じゃ持ちきれない量の袋を手分けして抱えて、だらだらと街の外れを歩く。
なだらかな坂を登って、街を少し離れて建てられた木造の家。
本当に木造かどうかは知らないが、見た目が木造の家。
石造りやレンガ造りが多いこの界隈では少し目立つ。
なんだってこんな家にしたんだか。



「じゃあ鳴らすぜー?」

ギアッチョが先頭を歩いていた流れで、取り付けられたチャイムを鳴らす。
そういえばアジトのチャイムは壊れてたけど、今度は大丈夫だろうな。


「……………」



「…………鳴らした?」

「多分。鳴ってたように聞こえたぜ?」


ーガタンッ!!


突然家の中から聞こえた大きな音に続いて、バタバタと走り回る音が響く。
呆気にとられたオレ達が眉を寄せて顔を見合せていると、突然大きく扉が開かれた。


「い、いらっしゃい」


あぁ、お取り込み中でしたか。

赤い顔でドアを開けた名前に促され、順番に中に入る。
そう言えば名前にハグをするのは久しぶりだ。


「いらっしゃい」

「悪いな、全員で」

「ううん、すごく嬉しい。皆が来るって聞いて張り切って支度したよ」


で、旦那(予定)に妨害されてたんだな。
そんな言葉を飲み込んで、促されるままリビングに通された。


「よぉ、機嫌ワリィな」

「おかげさまでな」

ソファーに深々と背中を預けたリゾットは、どっからどう見ても不機嫌オーラ全開。


「アンタって本当、名前が絡むとチームは二の次だなぁ」

「当たり前だ」


その当たり前が当たり前じゃなかったのはどこのどいつだ。



「リゾット、差し入れ貰っちゃった」

「そうか、良かったな」


あぁ、ソルベとジェラートが選んでたドルチェだな。
名前が嬉しそうにはしゃぐのを、ソルベとジェラートは嬉しそうに…リゾットはまだ不満げに眺めている。


「名前の飯久しぶりだなぁ」

「頑張るよ!で、何を作れば良いの?」


「マルゲリータ!!」
「フリッター」
「ラザニア」

「えぇ!?何をって…ベイビー?「だまれメローネ」

好き勝手メニューを決めるオレ達に、名前は笑って頷く。
こんなバラバラの主張をするチームで笑っていられるんだから、確かに名前は良い女だな。
面倒な旦那がいなけりゃイタリアーノなら誰でも口説く。


あ?メローネ?
ギアッチョとイルーゾォに伸されてたが、まぁそれはいつもの事だ。



「じゃあ、誰か手伝ってくれる?」

同じ台詞をペッシが言っても、名乗りを挙げる奴がいるのか甚だ疑問だが…。
名前が言えばジェラート(おまけでソルベ)とイルーゾォは名乗りをあげる。
ペッシが「オレも」と言うと、名前が「たまにはゆっくりしてて良いよ」だとよ。
良かったなペッシ。
感動して泣くな、マンモーニめ。


「オレもやるか?」

「プロシュートならお鍋任せれるなー。お願いしても良い?」

「あぁ、良いぜ」


名前はヨイショが上手いんだな。
まぁまぁ良い気分で鍋に向かっていると、名前が何かを思い出したように小さく悲鳴をあげた。


「お皿もコップも足りないや」

「あ、そこまでは気づかなかった」


イルーゾォがマルゲリータの上にチーズを載せる手を止めて固まる。
おい、本当に生地を作り置きしてたんだな。


「どうしよう…リゾット、買ってきてくれる?」

「それは構わないが…選ばなくていいのか?」


リゾットの言葉に、名前は「うぅ」と言い淀む。
こだわりがたくさんあって大変だな。


「一緒に行くか?」

「おいリゾット。まさかそのままトンズラしたりしねーよな?」

「………」


本当にこの男は。
28だろ?
全く、油断もスキもねーよ。

「メローネ、ギアッチョ。リゾットの荷物持ちしてやれ」

「えー?」
「ダリィ…」

手伝いすらしてねぇのお前らだけなんだよ。
年下組のくせに。
ペッシじゃリゾットに巻かれそうだし。


「名前は飯作るんだよ、仕方ねぇだろ?」

しぶしぶ立ち上がる二人に、リゾットはますます不機嫌にオレを睨む。
大人の余裕はいくつになったら身に付くもんなんだ?


「名前、この辺のこれ使えば?」

ザルを取り出したジェラートが、奥にしまわれた紙コップと紙皿を取り出す。

「あぁ、そんなのあったね!!これでいい?」

「コイツらが皿にこだわるわけねーだろ」


名前の質問にソルベが笑う。
ま、確かにその通りだが、纏めんなよな。


「じゃあリゾット、これにそこの水をついでくれる?」

「分かった」

名前とリゾットのやり取りを見ていたイルーゾォが、不意にオレの肩を叩いた。


「何だよ」

「あの二人のスリッパ、色違いのお揃い?」


室内履きなんか使ってんのか。マメだな。
そう思いながら二人の足元を見ると、確かにお揃いに見える。
名前が赤と白、リゾットが紺と白のストライプのスリッパ。
名前の好きそうな刺繍のワンポイントが、リゾットにはいまいち似合わなくてウケる。


「そうだな。名前の好みだろ」

「そうか…」


おい、凹むなよイルーゾォ。面倒くせぇ。
名前とリゾットの仲を目の当たりにして凹むイルーゾォを尻目に、鍋をかき混ぜながら辺りを見渡す。


「ん?」

洗ったばかりの食器を置いたカゴに、二つのマグカップ。色鮮やかでまぁまぁ良いデザイン。

(ん?おいおい、そんなのまでお揃いなのかよ)


ほぼ確実に暗殺を遂行してきたウチのリーダーと、ここで婚約者と暮らしていちゃついてだらしない顔をしている男が同一人物なのかにわかに疑わしい。


「何険しい顔してんだよ」

「ホルマジオ…いや、ありゃ本当にウチのリーダーか?」


ホルマジオは振り返り、名前にちょっかいだそうとして怒られるリゾットを見て吹き出した。
格好悪いにもほどがある。


「まぁ言いてぇ事は分かるが、オレらのリーダーだな」

「もっと強かった気がしてたぜ」

「お、このネコマグカップ可愛いな…」「聞けよ」


ったくこのいがぐり頭。
直で殺ってやろうか。


「あ?リゾットは強ぇーよ。オレら束になっても勝てるか怪しいな」

あの腑抜けのどこをどう見ればそう思えるんだ。

「暗殺者としても最強、しかも今は護るもんもある。そうゆう奴は強いぜ?」

「そーかよ」

「覚えがないわけじゃねーだろうによ…っアチィ」


ククッと笑うホルマジオに頭きて、鍋の…なんとかソースってやつを少し散らしてやった。
ザマーミロ。



「名前、出来たぜ」

「あ、グラッツェ。後はミートソースと…」


どうやらラザニアになるらしい。
名前が手際よく層にしていくのを眺めて、ふと沸き上がったイタズラ心でリゾットを呼んだ。

「スリッパとマグカップお揃いにしてよぉ…仲睦まじくて何よりだな」

「なっ!!!?」

おいペッシ。何故お前が驚く。
名前が真っ赤になってるのを見るのはやっぱりちょっと楽しい。
ま、メローネが一番楽しそうにしてたけどな。


「まさか、パジャマまでお揃いか?」

動揺した名前がラザニアを皿ごと落とし、ホルマジオがそれをキャッチ。
よしよしよし、よくやった。


「や、止めてよ!!いつかお願いしてみようと思ってたのに!!」


思ってたのかよ。
マグカップもスリッパも名前の趣味なのは気づいてたけどな。
おい、泣くなイルーゾォ。


「何言ってるんだ?そんなことするわけないだろ」

「「「え?」」」


固まったのはホルマジオとソルベとジェラート。
メローネは事の顛末をニヤニヤしながら見守り、ギアッチョのイライラゲージも高まっている。
喜ぶなイルーゾォ。名前がショック受けてるっつーのに。



「名前にはもっと似合う物を用意してある!!」


高らかに宣言して取り出したのは、事もあろうか色気ムンムンのベビードール。
バカ、そりゃ下着だ。


「ワォ、前のよりセクシー!!」

喜んでいたのはやっぱりメローネだけ。
もうお前にはついて行けねぇ。
怒り狂ったギアッチョとイルーゾォとソルベ・ジェラートに袋叩きにされれば良い。


「名前、ラザニア焼くか」

「う、うん…」

恥ずかしげにうつ向く名前だけは、出会った時からあんまり変わってないと思う。
本当にあのバカに任せていいのか?



ふぅ……スッキリした。


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