「さて、名前。何をして暇潰しをするかな?」
妖しく笑うDIOは、ジョルノを見送って名前をヒョイと膝に乗せた。
何かを膝に乗せずにはいられない人げ…吸血鬼なのだろうか。
端麗な顔をゆっくりと近づけられ、名前はビクッと身体を硬直させる。
「名前っ!!」
慌てたのは暗殺チームだ。薄く開かれた口元に光る牙が今にも名前を食そうとしているように見え、全員に緊張感が走る。
「からかいがいのある奴等だな。…安心しろ、ジョルノから名前だけは食べるなと釘を刺されている」
ならば安心だと胸を撫で下ろし、ふと自分達は保護されないのだと気づいたメンバーは迂闊な事をするまいと気持ちを引き締めた。
「DIO様、何しますか?」
「ナニしましょう!!」
「メローネ、いいからお前は黙れ」
ホルマジオに押さえ込まれたメローネを一瞥し、DIOは形の良い唇を三日月形に歪めた。
ウチのメローネが品なくてすみません。
「確かに、名前と遊ぶのも楽しそうだ」
あ、乗るんですか?
DIOの指が名前の頬を撫で、首筋を通ってゆっくりと鎖骨へと下る。
「あっ、や…止めて!!」と顔を紅くする名前に、メンバーはこの美味しい状況を止めるべきかどうか迷いながら喉を鳴らした。
意外と薄情である。
「嘘だ。コイツらを楽しませるつもりはないしな」
パッとDIOの手が離れ、名前はホッと息をついた。と同時にギッとメンバーを睨み付ける。
「お前ら後で覚えてろよ」
できれば全力で忘れたい。
「兄貴ぃ!!名前が怒ってるぜ!?」
慌てたペッシがプロシュートに駆け寄ろうとし、何かに躓いて盛大に転んだ。
なかなかの巨体が思い切りスッ転んで大きな音を立て、名前は反射的に目を閉じる。
「いってぇ〜」
「大丈夫かペッシ!!」
駆け寄るプロシュートはマードレの如く。
彼が女性で、しかも母親だったら他人に自慢して回りたいほどの美人な母に違いない。
ただし、
「しっかりしろ、このマンモーニがぁ!!」
叱るプロシュートはパードレの如く。
マンモーニには手厳しい。
「テレビのリモコン踏んじまったんだよぉ」
おいおい、壊れてないだろうな。
オンになったテレビから、女の声が響く。
深夜番組で、グラビアアイドルがゲーム企画で遊園地に行っているようだった。
罰ゲームがえげつない。
「遊園地行きたいー!!」
テレビに向き直った名前は、珍しく女の子らしい感想を楽しげに漏らす。
つい最近見た映画で、恋人達が遊園地に行っていた。
バカみたいにはしゃいで甘ったるい時間を過ごし、途中のケンカシーンは見ものだった。
メローネと「わーぉ、凄い罵詈雑言だね」と感動したものだ。
ラストシーンはもっと良かった。
切ない別れを経験した二人が、海を背景に涙ながらに愛を誓い合う。もっとも、メローネは興味なさそうだったけど。
「遊園地か…」
DIOは何かを考えるように呟き、名前の髪を指でくるくると巻いて遊ぶ。
「行ったことがないな」
「うっそ!?」
何でも知っていそうなDIOにも、欠けたものがあるのだと名前は目を丸くした。
他の者も同じだったようで、DIOを見たまま固まっている。
「まぁ、行く行かないは個人の自由だし…行ったことがなくても不自由しませんからね」
リゾットがかろうじてフォローすると、DIOは気に入らなかったのかムッと口を曲げた。
他人より無知な事が嫌らしい。たかが遊園地ですよ?
「決めた。遊園地に行くぞ」
決めたじゃない。
何時だと思ってらっしゃいますかDIO様。
夜も更けるどころか、朝が近づいておりますよ。
「テレンス!!」
DIOに呼ばれて、隣室でゲームをしていたテレンスが飛んできた。
「いいところだったのに」とぼやくのを、イルーゾォは苦笑いで見送る。
「遊園地を手配しろ」
「手配しろと言われましても…」
従業員は全て帰り、とうに眠りについているだろう。
帰る前であれば、金と名声でなんとでもなっただろうが…。
「デス13でも?」
「ぬぅ…」
デス13とは何なのか。
名前達は眉を寄せたが、DIOはお構い無しに「仕方ないか」と呟く。
その言葉に、良い予感はしない。
「明日にすれば良いんじゃないですか?」
「分からぬ奴だ。暇なのは今なのだ」
一体どれくらいの夜を「暇だ」と過ごしているのだろう。名前はDIOが傍らに置いた本を見て、少し考えた。
永遠の命も、若さも、本当にそんなに素晴らしいものなのだろうか。
太陽の下に行くことも出来ないし、する事も限られる。
名前は騒がしい日常を気に入っていた。それが例え死と隣合わせでもだ。
「私達が動かせばいいんじゃないですか?」
機械の操作くらいなら出来るかも。
もちろん、複雑な事は分からないが…。安全確保も何も、どうせ遊ぶのも自分達だけなのだ。
「支配人くらいなら叩き起こせますかね」
テレンスが諦めたようにため息をつく。デス13が何なのか名前には知る術もないが、どうやら一難は去ったらしい。
「できるなかなぁ」
不安げに呟くイルーゾォに、ギアッチョが「スイッチ押すだけだろ」と軽く返す。ざっくり大雑把な回答にイルーゾォの不安は消えない。
「借りる許可でましたよ。何人か手配してくれるそうです」
従業員付きとはありがたい。
ほっとしたイルーゾォとペッシと名前を余所に、リゾットは一人で「いくらかかったんだ」と無用の心配をしていた。